A.起こるべくして起こるものは


黒き一族の里。
本来と違った形でガウラとヘリオの儀式が完了したことで、アリスは里に呼び出された。
内容は、引き続きヘリオの守りに当たること。
それを承諾した後、里の書物のある家屋で、1冊の古い本を読んでいた。
それは、黒き一族の祖となる人物の物語。
そこには、族長から聞いた大まかな一族の由来には無かった話が広がっていた。
そして、知った。
黒き一族は元々は白き一族であったこと。
衝撃の事実に唖然としていると、唐突に声をかけられた。

「おや、アリス。こんな所にいたのか」
「ヴィラさん…」

そこには叔母のヴィラの姿。
ヴィラはアリスの持っている本を見て、少し驚いた様に言った。

「その本を読んだのか?」
「はい、あの、見てはいけないものでした?」
「いや、そういうものでは無いが、里の者でも見る者がほとんど居ない本だから、お前が読んでいるのに驚いた」

アリスの言葉に苦笑しながら答えるヴィラ。

「あの、ヴィラさん。この本に書かれている物語は、本当のことなんですか?」
「あぁ、事実だよ」
「じゃあ、黒き一族は元々は白き一族だった…」
「あぁ。だが、その事実を知る者は、この本を読んだ者だけだ」
「ヴィラさんは、読んだことがあるんですね」
「族長の一人娘で、現役時代は実力トップだったからね。きちんと自分の一族のルーツを知っておきたかったのさ」

ヴィラの話を聞き、納得するアリス。
すると、ヴィラは「そういえば」と話し始めた。

「この話に出てくる黒の祖、カ·ルナ様は、どことなくアリスに雰囲気が似てるな」
「え?そうですか?」
「それから、聞く限り、お前のパートナーの無愛想な感じがニア様に似てる気がするが…」
「いや、ヘリオは別に無愛想な訳じゃなくて、感情を知らないだけなんですけど…」
「そうなのか?まぁ、ただの私のイメージだけどね。案外お前達2人はこの御二方の生まれ変わりだった…なんてな」

冗談交じりに笑いながら言うヴィラ。

「だが、お前達2人が惹かれあったのは偶然では無いのかもしれないね」

そういわれ、アリスは運命的なものを感じると同時に、複雑な気持ちも湧き上がる。

「それは、成るようになった…という事ですか?」
「そうだ。物事は皆、成るように成り、起こるべくして起こる。1つのキッカケが欠けてしまえば、それは違う結果として物事が成るんだ。深く考える必要はないよ」
「じゃあ、ひょっとしたら俺がヘリオと出会わない未来も…」
「そんな未来もあったかもしれない。だが、お前達は出会った。起こりえなかったことは、ただの可能性でしか無くなる」
「なるほど…」

何となく納得したアリスに、ヴィラはふとした疑問を投げかけた。

「ところで、何故その本を見てたんだい?」
「えっと。ヘリオや義姉さんが白き一族の事を調べようとしてたみたいで、少しでも力になれたらと思って…」
「なるほどね。まぁ、自分の一族の事は知りたいと思うのが当たり前か。しかも、ヘラの方は記憶が無いから余計にか…」

ヴィラは少し考え込む。

「だが、一族の掟として、白き一族と黒き一族は深く関わりを持ってはいけないとされている。アリス、お前が力になりたいと思うのは構わんが、簡単に教えてはいけない。彼女らが自ら探し当て、知り、その先で行き詰まった時に少し情報を与える。そうしてはくれないか」

ヴィラの言わんとしていることを察し、分かりましたと答えるアリス。

「すまないな。不便をかける」
「いえ」

その後、家屋を後にしたアリスは考えを巡らせていた。
元々は同じ一族だった白と黒の一族。
白は魔力、黒は武力。
同じ血が流れている。
そう考えると、ガウラが武力に長けているのも納得ができた。

「ヘラさんだった時は両方を兼ね備えていたって事なのかな…」

そう考えると、最後の純血で魔力も武力も備わった、ある意味最強の存在。
エーテルが持っていかれ、ある意味バランスは取れた様にも思えるが……。

「…俺が居ない方が、2人の為になったんじゃないのか…?」

そう思わずには居られなかった。

「そうだろうな」

声に振り向くと、そこにはヴァルの姿。

「ヴァルさん…」
「あの二人が儀式を違う形に変えたのは、間違いなくお前を考慮してだろう。お前はヘリオが消える覚悟はしていたが、それを「はい、そうですか」と言って実行する程、ガウラは鬼じゃない。それぐらい、分かるだろ」
「………」
「失う事の辛さを知っているガウラが、その辛さを背負わす訳が無い」

ピシャリと言われ、何も言えなくなるアリス。

「結局、お前はヘラに戻るチャンスを逃す原因にしかならなかった」

その言葉が、アリスに深く突き刺さった。





とある冒険者の手記

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