A.黒き武人の面影


黒き一族の里を出たアリスは、塞ぎ込みながらトボトボと歩いていた。
自分の存在が、ガウラをヘラに戻す機会を妨げてしまったことが気掛かりで仕方なかった。
陽が傾き始めた頃、気が付くと白き一族の集落跡に着いていた。

「ここ、里から割と近いところにあったんだな…」

ボソリとそう呟いた時、目の前に現れるタイニークァールの姿。

「おや、また来たのかい?今回は随分短い期間で来たねぇ」
「ジシャさん…」

その姿を見て、アリスは申し訳なさで胸が苦しくなった。
ボロボロと涙を零し始めるアリスに驚くジシャ。

「ど、どうしたんだい?!」
「すみません…俺…俺…っ」

ジシャの前で両膝を着き、泣きながら俯く。

「俺が居たから…貴方の娘さんを、元に戻す機会を失ってしまった……っ」

しゃくりを上げながら絞り出した言葉に、ジシャは優しく答えた。

「なんだい、そんな事を気にしていたのかい?それなら気にしなくていい。あの子達が自分で決めた結果だ。それをアリスが気に病むことは無いよ」
「でもっ…でも…っ」

首を横に振り、泣き続けるアリス。
ジシャは困った様に「男は簡単に泣くもんじゃないよ」と言った。
それは、ガウラとヘリオによく言われている言葉。
それが余計に、アリスの胸を罪悪感で締め付けた。

「ごめんなさいっ…ごめんなさい…っ」

アリスは暫くの間、泣き続けた。


すっかり陽も昏れ、空には月が姿を現していた。

「落ち着いたかい?」
「はい、すみません。取り乱してしまって…」

泣き止みはしたが、その表情は浮かない。
ジシャは苦笑しながら口を開いた。

「私の事を気にしてくれてありがとう。でも、今回のことは成るべくして成った。お前が気に病むことは無い。だから、いつもの様に笑っていな」
「ジシャさん…ありがとうございます」

ジシャの言葉に、弱々しく微笑むアリス。

「それにしても、なんだってそんなに気にしていたんだい?」
「実は…」

アリスはジシャに、今日あったヴァルとのやり取りを話した。
すると、「なるほどねぇ」と納得したようだった。

「そしたら、なんだか凄く、ジシャさんに申し訳なくなってしまって…」
「…お前は優しい子だね」

その時、ガサっと草が擦れる音がした。
音の方に視線を向けると、大型のベア系の魔物の姿。

「ヴィラの見周りで、最近は見なくなっていたのに…」
「ジシャさん、下がっていてください」

アリスは素早く剣と盾を構える。
敵意むき出しで向かってくる魔物。
攻撃を盾で防ぎ、隙を見て傷を負わせていく。
だが、大きさも相まってか、なかなか怯まない魔物に、徐々に押されて行く。
そして、強烈な突進を食らい、その衝撃で剣を手放してしまった。

「しまった!!」

地面を滑る片手剣。
取りに行きたくても攻撃は止まない。
盾で必死に耐えていると、魔物の片目にどこからともなく飛んできた短刀が刺さった。
急所を刺され怯んで後退する魔物。

「ったく、何処をほっつき歩いているかと思ったら」

木の葉を擦る音をさせて現れたのは、ヴァルだった。

「ヴァルさんっ!?」
「受け取れっ!!」

投げられた物をキャッチすると、それは刀だった。
アリスは盾を投げ捨て、刀を構える。
その刀は、不思議な程手に馴染んだ。
傷を負った魔物は、怒りを露わにしてアリスに向かってくる。

─追い払うだけなら、仕留める必要は無いっ─

アリスは渾身の力を込めて、峰打ちを食らわした。
その威力に、流石の魔物も恐れをなして逃げていった。
そのアリスの後ろ姿を見て、ジシャは呟いた。

「黒き武人…」

白き一族に伝承として残る、はじまりの白である黒き武人。
アリスのその姿は、まさにそれだった。

「ヴァルさん、助かりました!ありがとうございます!」
「ったく、仮にも1度、あたいを負かしてる奴が、情けない戦いをするなっ!」
「す、すみません…、あ、これお返しします」

アリスが刀を返そうとすると、ヴァルは首を横に振った。

「お前が持ってろ。あたいは母上に頼まれて、それをお前に渡しに来たんだ」
「ヴィラさんが?」

何故、刀を渡されたのか分からず首を傾げていると、ヴァルは口を開いた。

「その刀は代々、我が一族の純血の家系に受け継がれている家宝だ。黒の祖であるカ·ルナ様が使っていた由緒ある刀。粗末にしたら許さないからな!」

ヴァルの口から出た"カ·ルナ"の名前に、1人静かに驚くジシャ。
リガン家に伝わっている黒き武人の名前。
それが黒の祖と言うことは…
ジシャは白き一族と黒き一族の関係を、そこで悟った。
ならば、アリスが我が子と惹かれあったのは必然だったと思わざるを得なかった。

「チッ、なんだって母上は混血のこいつに家宝を…」

ブツブツと文句を言うヴァル。
どうやら、アリスに家宝の刀を取られたのが気に入らない様子だった。
ジシャは、苦笑しながらヴァルに声をかけた。

「お前も黒き一族の者だね?そう不満そうな顔をするのはお止め。さっきのアリスの姿は、紛れもなく黒き武人そのモノだった。それに、お前の言う黒の祖はサンシーカー。であれば、アリスが持っていても悪くは無いと私は思うよ」
「…………」

ジシャの言葉に何も言えなくなるヴァル。

「純血も混血も関係ない。同じ血が流れているんだ。仲良くしな」

そう言われ、バツの悪そうな顔になる。

「さて、だいぶ夜も深けてきた。お前達は帰りなさい。皆が心配しているだろう?」
「あ!そうだ!俺、ヘリオに連絡入れてない!急いで帰らなきゃ!」
「そんなんでよく「ヘリオから連絡が無い!」ってガウラに泣きついて大騒ぎしてるな?」
「なっ、なんで知ってるんですかっ!!」
「あたいが誰の護りを担当してると思ってるんだ。ガウラを見張ってれば嫌でも目に入る」
「…うぅっ…」

2人のやり取りに、思わず笑うジシャ。

「喧嘩するほど仲が良いってやつかい?」
「違います!!」
「違う!!」

見事にハモる2人の言葉に更に笑うジシャ。
そして、帰路に着くアリスに、ジシャは魔物を追い払ってくれた礼を言い、その後ろ姿を見送った。

今日の出来事。
それは、白と黒の新たな伝承の始まりを予見しているかの様だった。



とある冒険者の手記

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