A.存在意義
ザナラーンにあるシルバーバザー。
低レベルのクラスをレベル16にする為、シルバーバザー付近のF.A.T.Eをこなし、休憩がてらバザーに立ち寄った。
格闘士でアオザイを着た姿は、後ろ姿を見たら女性に見えなくもない。
そんなアリスに声をかけてきた人物が居た。
「お前さん、ラナかい?!」
母の名前を呼ばれ、振り返ると、そこにはミコッテの老婆の姿があった。
老婆はアリスの顔を見てハッとし、頭を下げた。
「男性だったとは、すみません。雰囲気が娘にそっくりだったもので…」
申し訳なさそうにする老婆に、アリス自身、何故だか親近感を抱く。
顔を上げた老婆の瞳は、亡き母と同じ紫。
アリスは、思い切って聞いてみた。
「あの…そのラナって娘さん。フ族のラナさんですか?」
「え、えぇ」
「ひょっとして、海賊の子を身篭って追い出されたりとかは…」
「っ!?何故それを?…まさか貴方は…」
信じられないと言う顔の老婆に、アリスは確信を得た。
「俺はフ·アリス·ティアと言います。フ·ラナは俺の母さんです」
それを聞いた老婆は、「あぁっ、アーゼマ様」と泣き崩れた。
「お前さんがあの時、ラナのお腹にいた子供なんだね」
「はい」
「ラナは、元気にしているかい?」
老婆の質問にアリスは言葉に詰まった。
「母さんは…俺が18の時に病気が悪化して…」
「………そうかい、昔から身体が弱い子だったから…30まで生きられるかどうかも怪しいと言われていたんだ。子供の成長をそこまで見届けられたのなら、あの子は幸せだったろう…」
物悲しそうに微笑む老婆。
娘の死に目に立ち会えなかったのは、それなりに辛いものがあるのだろう。
アリスは暗い気持ちになる。
先日、黒き一族の里で、ガウラをヘラに戻すきっかけを自分のせいで逃してしまったと気付いたこと。そして、今回は自分が母に宿ったことで、この老婆が母の死に目に立ち会えなかった。
自分の存在意義がガラガラと音を立てて崩れていった。
「ごめんなさい…」
「どうして謝るんだい?」
「俺が居なきゃ、貴方は母さんを看取る事が出来たのに…」
落ち込むアリス。
老婆は優しく微笑んだ。
「娘を看取れなかったのは残念だけどね。でも、アリス、お前さんを産むと決めたのは、他ならぬラナだ。恋をして、好きな男の子供を産んで18まで成長を見ることが出来た。それを知っただけで私は満足だよ」
「…そう…ですか…」
「それにね、私と娘は元々フ族では無いんだよ。娘が追い出されたのは、その事もあっただろうね。あの子はその事を知らないが…」
「え?フ族じゃない?」
思わぬ真実に驚くアリス。
老婆は語り出した。
「私らの集落は、元々、長く続くカ族だったんだ。私が娘を身篭っている時、集落に1人のフ部族の青年が現れて、カ族のヌンと決闘をし、ヌンは戦いに敗れたんだ。それから私達はフ族になったんだよ」
老婆から出たカ族と言う言葉。
記憶に新しい黒の祖、カ·ルナの名前。
なんとも言えない感情が、アリスの中で駆け巡る。
「だが、新たにヌンとなったフ族の長には男が産まれなくてね。彼が死んだ後、皆、新たなヌンを求めて集落を出て行ったよ」
考え込んでいるアリスの顔を心配そうに覗き込む老婆。
「どうしたんだい?具合でも悪いのかい?」
「あ、いえ、すみません。ちょっと最近色んなことがありすぎて、頭の整理が追いついてなくて…」
困った様に微笑みを返すアリス。
その後、少し会話をして、アリスは老婆と別れた。
自分がカ族の血を引いてるのも驚いたが、それよりも自分の存在意義が崩れてしまったのが大きく、フラフラとミストへと帰ったのだった。
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