A.折れた心


ミストのFCハウス兼自宅に戻ってきたアリスは、暗い表情のまま、地下の居住スペースへと降りていく。

「おかえり」

先に帰っていたヘリオに、「ただいま…」と返し、椅子に座る。
いつもと様子が違うアリスに、少し困惑しながら、ヘリオも席につき「どうした?」と尋ねる。

「…うん。ちょっと自分の存在意義が分からなくなって…」

アリスは先日、ヴァルに言われた事、今日あった老婆との事を話した。

「俺、生まれて来ない方が良かったのかなぁ…」
「それを俺に聞いても意味ないだろ」
「…ははっ、そうだよな…。でも、俺がいなかったら、ヘリオはどんな手を使ってでも、本来の目的を果たそうとしたんじゃないのか?」
「………」

ヘリオは答えなかった。
それはある意味、肯定である事を示していた。

「俺の存在がある事で、誰かが迎えられたはずの時間、望んだ未来が奪われてる。そんな存在が居ていいわけないじゃないかっ」

アリスの抑えていた感情が爆発した。

「ひょっとしたら、母さんだって、俺が出来なきゃもっと長生き出来たかもしれないっ、俺がいなきゃヘリオは目的を果たせたし、義姉さんだって記憶とエーテルを取り戻せたっ、そしたらヴァルさんは今より安心して義姉さんを護れたし、ナキさんだって義姉さんと思い出話も出来たっ!」

涙を流しながら吐き捨てるように言葉を発する。

「リリンちゃんだって、俺が連れ出さなきゃ、ピリスを恋しがって泣くこともなかったっ、俺がいなきゃ…」
「いい加減にしろっ!!」

ヘリオに怒鳴られ、言葉を止める。

「どうやったって時は戻せないんだ!なら、自分は正しかったと思える結果を出せば良いだけの話だろう!」
「………」
「男なら自分の取った行動に責任を持て!成ってしまった事をいつまでもクヨクヨと悩むな!!堂々としていろ!!」

普段のアリスであれば、その言葉は叱咤激励として受け止められただろう。
だが、弱った彼の心には、その言葉は最後の心の芯を折ってしまった。
アリスは何も言わず立ち上がった。
そのアリスの表情を見て、ヘリオは一瞬驚いた表情をした。
それに構わず、アリスは家を出て行った。
1人残されたヘリオは、考え込んでいた。
捨てられた仔犬の様な表情。
そのアリスの表情は初めて見るものだった。
だが、自分の言った言葉は間違っていない。
そう思っていても、アリスのその表情は、ヘリオの脳裏から消えることは無かった。

そして、アリスはその日も、その次の日も、家に戻ることは無かった。




とある冒険者の手記

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