番外編·求めていたモノ
─それは、誰にも語られることは無かった、とある青年の物語─
ザナラーンにあるカ族の集落。
そこには、族長候補である若者が二人いた。
1人は、秀才と言われる程の才能の持ち主である兄。
そして、もう1人は兄の腹違いの弟。
弟は狩りの腕は立つが、武力に対しては才能が無かった。
というのも、弟は人同士の戦いになると、心が優しすぎるせいか思ったように実力が出せなかったのだ。
人を追い払うだけでも、それを振るえば血を流させてしまう両刃を持つ片手剣。
弟は戦う時は盾しか使えなくなっていた。
そして、父が足腰が弱くなり、次のヌンを決める日が訪れた。
弟は、自分がヌンになっても集落を守り切れないと、盾と飾りになっている片手剣を持って集落を出、兄にヌンの座を渡した。
宛もなく旅を続け辿り着いた東方の地。
そこで、1人の侍に声をかけられた。
手合わせを頼まれ、仕方なく剣と盾を構えた。
だが、剣を持つ青年の手は震えていた。
「人を傷付けるのか怖いか?若人よ」
心を見透かされ驚く青年に、侍は言った。
「その恐怖、私が叩き斬って進ぜよう」
それは一瞬だった。
青年は盾を構える間も無く斬られ、意識を手放した。
「うぅっ…」
「おう、目が覚めたか、若人」
「?!痛ぅ…っ!」
意識が戻り、飛び起きたと同時に身体に激痛が走り蹲る青年。
「無理をするな、いくら斬っておらんと言っても、打撲を負っている」
「…斬られて…ない?」
服を捲り、自分の身体を見ると左肩から右脇腹へ一直線の痣が出来ていた。
斬られたと思っていたのに、打撲とはと困惑する。
「拙者が放ったのは峰打ちと言ってな。刃を使わぬ技だ」
「刃を…使わない?」
青年の言葉に、侍は刀を鞘から抜いて見せた。
「この国の武器、刀だ。片側しか刃が無いのが分かるか?」
青年は頷く。
「峰打ちは、この刃の無い方で技を出す。だが、力の掛け方を間違えれば簡単に折れる。大体の者は相手を追い払う時、鞘ごと叩きつけたりするがな」
侍の言葉に、青年はこれこそ自分が求めていた物だと確信をした。
「迷いが無くなったな。どうだ?拙者の元で修行をしてみぬか?」
願ってもない提案に、青年は「お願いします!」と返事をした。
その日から、青年は侍の元で修行を始めた。
迷いが無くなった青年の腕はメキメキと頭角を現し、あっという間に技を極めた。そして、侍と共に、東方中を人助けをして周った。
その期間は修行の期間を含めて5年。
実力を身につけた青年は、自信が付いたお陰か、多少のことでは動じぬ様になり、明るく、大らかな性格になっていた。
さらに、長い東方生活で、言葉遣いも東方の話し方に変わっていた。
そして、青年は侍と最後の手合わせをした。
勝負は一瞬。
膝を着いたのは侍だった。
「見事だ…、もうお前さんに教える事は何も無い」
「お師匠様、ありがとうございましたっ!!この御恩、一生忘れませぬ!!」
青年は侍に一礼をし、気持ちを新たに旅立った。
再びザナラーンの大地に降り立つ青年。
だが、集落に戻る事はせず、用心棒として各地を転々とした。
そして、新たな依頼主を探す為、黒衣森へと足を踏み入れる。
青年の名はカ·ルナ·ティア
彼はこの時、この森で運命の出会いをする事になるとは予想もしていなかった。
0コメント