A.黒き一族の魔力
トトラクの千獄。
ここには定期的にコチューやマイト系のモンスターが沸く。
それを間引きするために、時折殲滅依頼が出されていた。
ガウラのリハビリと、アリスの詩人練習と称し、アリス、ヘリオ、ガウラの3人はトトラクへと訪れた。
ガウラの足の具合を考え、途中途中で休憩を挟みながら、暗黒騎士のヘリオを先頭にゆっくり進んでいく。
トトラクの折り返し地点で休憩を取った3人は、軽く雑談をしていた。
「義姉さん、足は大丈夫ですか?」
「休憩の度に何回聞くんだい。なんかあったらちゃんと言うって!」
「でも、義姉さん結構痩せ我慢するから」
「うっ…」
アリスに痛いところを突かれ、押し黙るガウラ。
「姉さん、魔力の消費はどうだ?」
「あぁ、休憩を挟んでるから余裕だよ」
「そうか」
今回、ガウラのジョブは白魔道士。
というのも、足の負担を考えてヴァルに圧力をかけられた結果である。
周りの心配っぷりに、内心溜め息を吐くガウラ。
そんな時だった。
トトラクの最深部の方向から、地響きの様な音が聞こえてきた。
「なんだっ!?」
音はどんどん近付いてきている。
3人は立ち上がり、武器を構え警戒する。
そして、最深部方向の通路の奥に見えたのは群れを成したマイト系のモンスター。
「なんなんだあの数はっ!?」
思わず叫ぶアリス。
襲われたら一溜りもない数に、どうするかを頭をフル回転させようとした時だった。
「待てっ!様子がおかしい!」
ガウラの一言で、他の2人もモンスターの様子を注意深く観察する。
すると、モンスターは3人には目もくれず、何かから逃げるように通り過ぎていく。
戸惑いながら様子を眺め、モンスターの姿が無くなると、微妙な空気に包まれる。
「この先に何があるんだ?」
「本来ならグラフィアスがいるはずなんだが…」
「なにか、異常なことが起こってるんじゃ…」
好戦的なモンスターが、標的を無視して逃げる程の状況、奥で何かが起こっているのは間違いなかった。
「どうする?一旦戻るか?」
「…いや、奥で何が起こっているのか確認してから判断した方がいい。戻って報告するにしても、何が起こってるか分からなきゃ報告のしようも、対策の取りようもないだろ」
ヘリオの言葉に、ガウラが返す。
たしかに、明確な状況が分からなければ、戻った所で…と言うのは分からないでもなかった。
「私の事を心配してるなら、大丈夫だ。無理そうならちゃんと言うから」
「本当ですか?」
「…どれだけ私は信用がないんだい」
「日頃の行いだろ」
弟達に言われ放題で溜め息を吐くガウラ。
「ちゃんと言うって!無理したらヴァルに怒られるし…」
ガウラの言葉に顔を見合わせる弟2人。
「…まぁ、それならいいですけど…」
「あの姉さんが大人しく言うことを聞くなんて、よっぽどなんだな…」
口々に言われ、バツが悪くなるガウラ。
「もう!いいから行くよ!」
ムキになったガウラは2人よりも先に、奥へと進み始める。
慌てて弟達もガウラの後を追った。
最深部の入口に辿り着くと、3人は身を隠しながら中の様子を伺った。
そこに居たのは見たことの無い大型のモンスター。
よく観察してみると、所々にグラフィアスの面影が残ってはいるが、人型に近い手足に二足歩行という、もはやグラフィアスの原型は留めていない。
「これは、突然変異か何かか?」
「アリス、エーテルはどうなってる?」
「なんか、色んなモノが混じったエーテルをしてます」
「キメラみたいな感じか?」
「はい。でも、あの尻尾はグラフィアスのエーテルが強く出てるので、毒沼を展開するのは変わらないと思います」
それ以外の攻撃の予測は出来ないようで、ガウラは少し考える。
「アリス」
「はい?」
「試しにここから、矢で攻撃してみてくれないか?」
「え?!」
突拍子も無いことを言われて変な声を上げるアリス。
その声にモンスターが反応した。
突如糸を吐き、アリスの足に糸を巻き付かせ、そのままフロアへとアリスを引きずり出した。
「うわあっ!!」
「「アリス!!」」
こうなってしまえば戦うしかないと、双子はフロアへと飛び出した。
ヘリオはモンスターとアリスを繋いでいる糸を大剣で切り裂き、プランジカットでモンスターと一気に距離を縮め、ヘイトコンボを叩き込む。
動けるようになったアリスは、ストームバイトを繰り出し、猛者の激を発動、旅神のメヌエットからコースティックバイト、ブラットレッターからバトルボイス、そしてバーストショットを放つ。
ガウラはすかさずヘリオにリジェネを入れ、モンスターにディアとグレアを放った。
「くっ!かなり攻撃力が高い!!」
ヘリオはランパートを使って軽減を入れる。
モンスターの尻尾が揺れ出す。
ガウラが咄嗟にメディカラを展開させると同時に、モンスターが身体ごと尻尾を旋回させ、3人を薙ぎ払う。
ヘリオはアームズレングズで吹き飛ばしを無効化。
アリスとガウラは後方へと弾き飛ばされる。
体勢を建て直し、モンスターを見ると、ヘリオに向かって大きな腕を振りかざしているのが見えた。
「ブラックナイト!」
「ディヴァインベニゾン!」
ほぼ同時に軽減を入れる双子。
2つの軽減を入れたというのに、割れるブラックナイトの防護壁。
「あの威力、ヤバいぞ!!」
アリスが叫ぶ。
ガウラの額には冷や汗が流れる。
魔力的にも長期戦は不利。何とか魔力が枯渇する前に仕留めなければと思うが、回復や軽減で手一杯になる。
アリスもそれは分かっているようで、地神のミンネを入れて補助をし始める。
ルーシッドドリームを入れていてもそれを上回る魔力の消費量に、焦りの色が見え始める。
それとは裏腹に、どんどん長期戦へとなっていく。
モンスターは連続で尻尾を地面に突き刺し始め、毒沼を形成し、移動範囲が狭まる。
すると、モンスターが両手を振り上げ、ガウラの方へと向いた。
「なっ!?」
これを1人で受け止めるのは危険だ。
それを察知したヘリオとアリスは一斉にガウラの元へと駆け出す。
ヘリオは咄嗟にガウラにブラックナイト発動させ、リプライザルを放つ。
アリスはトルバドゥールを発動させた。
だが、これまでの敵の攻撃力を見る限り、3人で受けきれるかどうか分からない。
ガウラはアサイラムを展開させ、そして叫んだ。
「ヴァルーっ!!」
その叫びに、どこからとも無くガウラの目の前にヴァルが姿を現す。
瞬時に状況を判断したヴァルは、牽制を入れ、攻撃を受ける体制に入る。
その直後に振り下ろされる大きな両手。
その威力は絶大だった。
ボロボロのまま、ヘリオは再び敵視を稼ぎにプランジカットで距離を詰め、敵を引きつける。
それに続き、ヴァルも攻撃を開始した。
「義姉さん!魔力はっ!?」
「すまないっ…今ので枯渇したっ!」
それを聞いて、全員が焦りの色を浮かべ始めた。
容赦なく繰り出される攻撃に、ついにヘリオはリビングデッドを発動させた。
そこに、再び振り上げられる両腕。
それを1人で受けるヘリオ。
リビングデッドがウォーキングデッドに変わる。
すると、アリスは持っていた弓をガウラに投げた。
それを受け取るガウラ。
「義姉さん!幻具をっ!!」
ガウラはアリスに勢いよく幻具を投げた。
それをキャッチし、アリスは迅速魔を展開させる。
「ベネディクション!!」
咄嗟の機転で戦闘不能を回避。
リジェネ、メディカラを放ち、回復に専念するアリス。
弓を持ったガウラは、魚が水を得たかのように動きが変わる。
ヒーラーがアリスに変わったことにより、戦いが優勢に変わった。
そして、その時は来た。
「これで、終わりだぁぁああああっ!!」
ガウラの放ったリミットブレイク技、サジタリウスアローが炸裂し、モンスターは断末魔を上げて倒れ、粒子となって消えた。
「な、なんとかなったぁ~…っ」
「アリスの機転が良かったな」
「本当か!?へへっ」
珍しくヘリオに褒められ、喜ぶアリス。
「ヴァル、手を煩わせて悪かったね」
「お前を護るのがあたいの役目だ。気にするな。それより…」
ヴァルはアリスの方を見た。
「アリス、お前は魔法が使えるのか?」
「え?使えますけど…」
ヴァルの言葉に、何故そんなことを聞くのかと不思議そうな顔をするアリス。
「アリスが魔法を使えるのに、何か問題でも?」
ガウラがヴァルに問いかける。
「黒き一族の証を持つ者は魔力が一般人よりも少ないんだ。タンク職が使う程度の魔法なら問題ないが、ヒーラーやキャスターは論外。1発でも魔法を打とうものなら動けなくなる」
「それは、アリスがハーフだからじゃないのか?」
「いや、混血児だろうが証を持っていれば例外はない…。アリス、お前は一体何者だ?」
ヴァルの言葉に、双子もアリスを見る。
当然ながら、その問いにアリスが答えられるはずもなかった。
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