V.エーテル依存(ヴァル視点)
ここ数日、ガウラの様子に違和感を覚え始めていたヴァルは、ガウラから目が離せなくなっていた。
体調が万全になったガウラがフロントラインに籠り始めてから、やたらエーテル薬を飲み、学者になっている時は転化をよく使用している。
最初は、ガウラのエーテル量が少ない為に、フロントラインでの消耗が激しいのかと思っていたが、エーテル量がいつもと変わらない時でも、その行動を取っていた。
エーテルの過剰摂取が引き起こすエーテル依存。
それを発症するのではないかと心配になるヴァル。
いや、もう依存は始まっているのかもしれない。
そう思ったヴァルは、釘を刺すことに決めた。
フロントラインから帰宅したガウラを確認し、家に入ると丁度ガウラが荷物から瓶を取り出していた。
「なぁガウラ」
「ん?」
「お前それ…エーテル薬か?」
「あぁ…ほら、体内エーテルの枯渇が最近多かったからさ」
「……」
ガウラのエーテルは、過剰摂取の影響か、いつもより多く視える。
それなのに、エーテル薬を取り出している事に、嫌な予感を覚えた。
「……エーテルの依存には、気をつけてくれ」
「………あぁ」
少し間が空いてからの返事に不安を覚えたが、ガウラは直ぐにエーテル薬を仕舞った。
釘を刺したのが効いたのか、その後、転化もエーテル薬の摂取もせず、眠りについたのを確認し少し安堵した。
だが、次の日の朝になって状況は一変した。
ヴァルが家に入ると、室内が荒れていた。
一瞬、自分が気が付かないうちに賊でも入ったのかと思うほどだった。
とにかく、ガウラを探そうと気配を探ると、リビングの方から気配を感じた。
そちらへ向かうと、突然飛び出してきたリリィベル·セレネ。
どうも様子がおかしい。
奥を覗けば、しゃがみこんで何かを物色するガウラの後ろ姿がそこにはあった。
「ガウラ?」
呼びかけて振り向いた彼女の姿に、一瞬で嫌な汗をかく。
リリィベル·エオスを口に咥え、飢えた獣の様にギラギラした瞳。
次の瞬間、バリッっと音を立ててエオスを食らい、エーテルを吸収した。
その姿は、軽くホラーだ。
この場にいたのがアリスであれば、小さく悲鳴を上げていた事だろう。
ヴァルは、ガウラを刺激しないように、静かに尋ねた。
「何を、している?」
ヴァルの言葉にガウラの耳はピクッと反応はしたが、その目はヴァルの隣にいるセレネを捕らえている。
咄嗟の判断で、ガウラの視界からセレネを隠した。
徐々に、ガウラの目付きが変わる。
異様な空気に、どうやってガウラを落ち着かせるかを考えて居た矢先だった。
「…転、化」
「!?」
呟いたと同時に飛びかかられ、押し倒される形で倒れ込む。
飛び出したセレネに反応し、ガウラは獲物を逃がしてなるものかと言う様に、セレネを追いかけ回す。
「おいガウラ、何をしている!」
ヴァルの静止の声は届かず、「転化、転化ァ!」と半狂乱になってセレネを追っている。
その姿を見て、嫌な予感は的中したのだと悟るヴァル。
部屋が荒れる中、ヴァルはなんとかガウラの腕を掴んで動きを止める。
「ガウラ!!」
尚もセレネに手を伸ばし、ヴァルの手を振り切ろうとするガウラ。
明らかな依存の症状に、自然とヴァルの手に力が籠る。
─なんとか、ガウラを鎮めないと─
その時、視界に入った学者の本とジョブクリスタル。
素早くガウラの腰からそれを奪い取り、投げ捨てた。
「落ち着けっ!」
「っ!」
ジョブチェンジが解かれた瞬間、ガウラはペタンと座り込み大人しくなった。
ガウラの前に移動し跪いたヴァルは、優しく声をかけた。
「…ガウラ、どうした?」
「……エーテルが、足りなくて…」
ショックを受けた放心状態の子供の様に、震える声で答えるガウラ。
ヴァルは、さらに優しく言った。
「…どう視てもエーテルは足りている。少し落ち着け、エーテルを多く摂取すると依存すると言っただろう」
「うん……」
「…お前の義眼を診てくれている錬金術師、連絡先分かるか?」
「…あぁ……」
トームストーンで連絡先を出したガウラ。
それを受け取り、代わりに連絡をし、事情を説明。
すぐ来ると返事を貰い、通話を切った。
「ガウラ、床は身体が冷える。椅子に座ろう」
「……うん」
差し出されたヴァルの手を取るガウラ。
ヴァルは手を繋ぎ、ガウラを椅子へと誘導して座らせる。
未だに放心状態のガウラを気にかけながら、ヴァルは部屋の片付けを始めた。
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ガウラの診察を終え、帰っていく錬金術師に礼を言って見送った後、ヴァルはガウラの腕を撫でていた。
ガウラの腕には、ヴァルが掴んだ手の後が、痣となって残っていた。
「痛むか?」
ヴァルの問いかけに首を横に振るガウラ。
「そうか、なら良かった…」
ホッとしながらも、腕を撫で続けるヴァル。
「……ヴァル」
「なんだ?」
ガウラの呼び掛けに、顔を向ける。
「…ありがとう…」
ヴァルは優しい笑みを浮かべ「あぁ」と答えると、ガウラの頭を撫でたのであった。
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