V.初対面


ヴァルがウルダハで、ガウラのフロンティアドレスを購入して数日が経ったある日の昼。
昼食後の食器を洗っていたヴァルは、ガウラに話しかけた。

「ガウラ。今日はたしか、来客があるんだよな?」
「あぁ、リリンが見舞いがてら、お茶をしに来るんだ」

食後のブラックコーヒーを飲みながら答えるガウラ。

「リリン…、あぁ!あのバカが保護して可愛がってるミコッテか」
「あぁ。てかヴァル、アリスの事をバカバカ言うな。たしかにあいつはバカな所はあるけども」
「バカにバカと言って何が悪い?」
「はぁ…、そんなにアリスが嫌いかい?」

溜め息を吐くガウラに、当然だと言う顔をするヴァル。
食器を洗い終えると、ヴァルはおもむろに小さなバスケットを取り出した。
中には大量のクッキーが入っていた。

「これ、作ったのかい?」
「あぁ、お茶をするのに必要だろ?」

当たり前の様に言われて、ポカーンとするガウラ。

「お前、甘いもの食べた事ないって前に言ってなかったかい?」
「プリンセスデーの時に、一緒に食べたクランペットが初めてだったよ。それで菓子にも興味を持ってね。作るようになった」
「ほう。そう言えば、さっきから良い匂いがするけど、まだ何か作ってるのかい?」
「あぁ。そろそろ焼きあがってるんじゃないかな」

そう言っておもむろにオーブンを開けるヴァル。中から出てきたのは焼きたてのアップルパイだった。

「アップルパイ!」
「ガウラの好物だろ?」

器にアップルパイを乗せ、テーブルに並べるヴァル。
目を輝かせてアップルパイを見つめるガウラに、ヴァルは思わず小さく笑う。

「食べたいか?」
「…でも、これはお茶会用だろ?」
「それはな」
「?」
「食べたいのか?食べたくないのか、どっちだ?」
「た、食べたいけど…」

ガウラの答えに、ニヤリとするヴァル。
再びオーブンから取り出したのは、小さな四角いアップルパイ。

「そう言うと思って、個別に作っておいた」
「っ!?」

耳と尻尾をピーンと立て、頬を高揚させるガウラ。

「ほら、熱いから気をつけて食べるんだぞ」
「熱っ!」
「あーほら、急いで食べるから…」

素早く水を出すヴァル。
慌てて水を口にし、恥ずかしそうに赤くなるガウラ。
それを見て、ヴァルは笑うのだった。


時刻は午後2時半。
お茶会は3時と聞いて、ヴァルは家を出る準備をしていた。

「おや、ヴァルは参加しないのかい?」
「あたいには関係の無い子だからね。職業柄、余計な人との接触は避けたい」

ヴァルの言葉に「そうかい」と返すガウラ。
支度を終え、玄関に向かった時だった。

「ガウラお姉ちゃん!お邪魔しまー…」

突如開いた玄関の扉から入ってきたのは、リリンだった。
予定よりも早い到着に、ヴァルは驚き固まった。
リリンの方も、見知らぬ人間が目の前に現れ固まる。
そして、リリンは弾かれるように我に返り、物陰に隠れた。

「だっ…誰っ!?」
「どうしたんだい?」

リリンの怯えるような声に、ガウラが顔を出した。
固まったままのヴァルと、物陰に隠れるリリンを見て、「あー…」と状況を理解したのだった。


怯える様にガウラの腕にしがみついて座るリリンと、2人と対面する様に座っているヴァル。
3人の間に流れる空気は重苦しい。
なんとか空気を変えようと、ガウラはリリンに話しかけた。

「リリン、怯えなくていいよ。こいつは私の知り合いで、ヴァルと言うんだ」
「お姉ちゃんの、知り合い?」
「あぁ」

ガウラにそう言われ、上目遣いでヴァルを見ると、ギロリと睨まれる。
ビクッと体を震わせ、ガウラの腕を掴む手に力が入った。

「おいヴァル。そう睨むなよ、リリンが怯えてる」
「別に睨んじゃいない。ただ見つめただけなのに心外だ」
「もう少し、ほら、いつもみたいに微笑むとかしなよ」
「………は?微笑む?」

ガウラの発言に、怪訝な顔をするヴァル。

「あぁ。いつも私と話してる時は微笑んでるじゃないか」
「っ!?」

いつも無表情を貫いていたと思っていたヴァルは、ガウラの前では表情が緩んでいたと知り、顔を真っ赤にして逃げるように玄関から出ていった。
取り残される2人。
あれだけ怯えていたリリンですら、ヴァルの行動にポカーンとしていた。

「な…なんだい…ヴァルのヤツ…」

唖然としながら小さく呟くガウラ。
すると、リリンが「ねぇねぇ」と袖を引っ張った。

「ん?なんだい?」
「ひょっとして、ヴァルお姉ちゃんって、私と同じで人見知りなのかな?」

リリンの目からはそう見えたのかと、驚くガウラ。

「同じ人見知りなら、仲良くなれるかなぁ?」

リリンの唐突な発想に、思わず吹き出すガウラ。

「さぁ、どうだろうね?」
「?」

苦笑いをしながら言うガウラに、キョトンとするリリン。

「さあ、お茶会を始めようか!」
「うん!」

お茶の準備を始めるガウラ。

「そうだ!そこにあるクッキーとアップルパイは、さっきのヴァルが作ってくれたんだ!」
「そうなの?すごーい!仲良くなったら作り方教えてもらいたいなぁ!」

さっきまで怯えていたのが嘘のように、仲良くなろうと意気込むリリンに、ガウラは「ふふっ」と笑ったのだった。






とある冒険者の手記

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