A.魔力と髪の色
─お前は一体何者だ?─
先日、トトラクでヴァルに言われた言葉を、ミストのハウスで思い返していたアリス。
「そんなの…俺に聞かれても分かるわけない…」
初めて使った魔法は白魔法。
理由は"ヘリオが怪我をした時に癒してあげたい"と、なんとも自分自身でも人に言うには恥ずかしい理由だ。
その次に使った魔法は赤魔法。
こちらも、体に支障なく使えた。
あの後から、ヴァルのアリスに対する視線は"本当に黒き一族の血を引いているのか?"と疑っていた。
だが、相変わらず暗いところにいれば、右の脇腹に浮かび上がる蝶の痣は、一族の者だと証明している。
「あ"ーっ!!考えても分かるわけないよなー…あっ!そうだ!!」
アリスは何かを思い出したかのように荷物を漁る。
手に取ったのは髪の毛用に改良されたテレビン油。
それを持って風呂場に向かう。
髪、耳、尻尾と、テレビン油を念入りに揉みこみ、染料を落としていく。
そして、2回ほどシャンプーで油を浮かせ、シャワーで洗い流した。
タオルを手に取り、髪をガシガシと乱暴拭きながら鏡の前に立つ。
「あー…やっぱり…」
アリスは自分の髪を見て溜め息を吐いた。
本来の赤紫色の髪の中に、まばらに白い髪が混じっていた。
「前よりも増えてる…」
白い髪が混じり始めたのは、白魔法を使い始めた時だった。
最初は白髪かと思ってショックを受けたが、その後暗黒騎士を始めた時には変化は無く、赤魔道士を鍛え始めると、また白髪は増えていった。
それ以降。魔法を使うのを辞めていたのだが、先日咄嗟の判断で白魔法を使用したことで、白い髪の部分が広がっていた。
溜め息を吐きながら、身体を拭き、尻尾を手に取って更に驚愕する。
「げっ!!尻尾まで!?」
尻尾の先端も白く変わっているのに気づき、ショックが隠せないアリス。
「てか、なんで魔法を使った後に白くなるんだろ?」
ふとした疑問に頭を傾げる。
「もしかして、俺が魔法を使える事に、何か関係してるのか?」
そこで、黒き一族の成り立ちと、黒の祖の事を思い出す。
元は白き一族から派生した黒き一族。2つの一族は同じ血が流れている。
なら、黒き一族に魔力を持った者が産まれてもおかしくはない気もするが、ヴァル曰く"例外は無い"との事。
なら、自分に何が起きているのか、知る方法を探すしかない。
と、そこまで考えてくしゃみをするアリス。
身体を拭いている途中で考えに耽ってしまい、湯冷めをしていた。
「やっば!風邪ひく!」
慌てて尻尾と全身を拭きあげ、服を着るアリス。
「ただいま」
そこにヘリオが帰宅してきた。
「あ…」
ヘリオが帰宅する前に髪を染め直そうとしていたアリスは、そのまま固まった。
アリスのまだらに白くなった髪を見て、ヘリオも固まる。
「……髪染めに失敗でもしたのか?」
「違うよっ!!」
ヘリオの言葉に、アリスは力一杯否定した。
こうなった経緯を、アリスはヘリオに話し始めた。
話を聞き終わると、ヘリオも考え込んでしまった。
「な、なぁ。これさぁ、魔力を使い続けて、毛が全部真っ白になったら、死んでしまったりするのかな?」
少し怯えながらヘリオに問いかけてみるアリス。
ヘリオは「そんな事、俺に聞いてどうする」と言ったあと、さらに続けた。
「だが、魔力を使うと白くなると言うなら、何か関係がある事は間違いないだろう」
「だよなぁ…、この状態を調べる方法があればいいんだけど…。仕方ない、明日にでも里の方に行って書物を漁ってみるか…」
「俺も姉さんに話して、そういう状態に詳しい奴が居ないか聞いてみる」
「うん、ありがとう!」
そう約束して、その日は考えるのを辞めた。
アリスの魔力、白くなる髪の関係。
謎は謎を呼ぶのだった。
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