A.始まりの祖の杖


故郷から帰ってきた次の日、アリスは早速黒き一族の里へと向かった。
既にヴァルを通して里に行くことを伝えてあったため、ヴィラが時間を作り待っていてくれていた。
挨拶もそこそこに、髪の真相を話すと、納得したようだった。

「やはり、アリスは極稀に生まれる白である可能性が高いな」
「そう言えば、黒の純血から生まれた白は、儀式とかはどうなるんですか?」

白の純血は儀式を行うが、混血は儀式を行わない。
ならば、黒の純血から生まれた白はどうなのか?
自分も儀式を行わなければ行けないのかが気になった。

「うむ。黒の純血から生まれた白は、魔力の量で言うと、混血以上、純血未満と言ったところか。儀式を行う行わないは、精霊のイタズラの影響があるかどうかで判断するしかない」
「……それって、様は分からないって事ですか…」

それを聞いて、不安になるアリス。

「あの、ヴィラさん」
「なんだい?」
「俺のこの魔力が本当に純血から来るものなのか調べたいんですけど、何かいい方法は無いですか?」

アリスの問いに、ヴィラは少し考えてから答えた。

「ジシャなら、何か良い方法を知っているかもしれない。リガン家は一族の歴史を管理していたから、2つの一族の関係は把握しているはずだ」
「なるほど…ありがとうございます!俺、今から集落に行ってきます!」
「あぁ、気をつけて行っておいで」

善は急げと、アリスは集落へと向かう。
目的地に到着すると、すぐさまジシャに声をかけた。

「義母さん!」
「アリス、いらっしゃい!おや、髪を染めたのかい?」
「いえ、これ地の色です」

話を振られて話しやすくなったのを期に、髪の経緯を話すと、ジシャは驚いた様子だった。

「そんな経緯が…」
「はい。それで、俺が直系の純血として魔力を持ってるのか調べる方法を探してて…」
「…調べる方法は、あるにはある」
「本当ですか!?」

身を乗り出すアリスに、ジシャは少し困ったように言った。

「昔、始まりの祖が使っていた杖を見つけて修復したことがあるんだ。それに魔力を込めて、違和感が無ければ、その魔力は直系の純血である証明になるだろう。だが、1つ問題がある」
「問題?」

ジシャはおもむろに、家屋の瓦礫の方を向いた。

「その杖は、この瓦礫の下に埋まってしまっているみたいでね。この身体では瓦礫を退かせなくて困っているんだよ」
「…これは、流石に俺一人では無理だなぁ…」

アリスは援助要請をかける為、1度集落の外に出て、ヘリオとガウラに連絡を取った。
故郷から帰宅した翌日である為、2人とも休暇を取ってる。
休んでる所を呼び出し要請をする事を詫びながら、事情を話すと、すぐ行くと返事を貰い、集落へと戻った。
暫くして双子が到着した。

「お前たちが此処に揃うのは儀式の時以来だね」
「そうだったか?」

ジシャの言葉に返事をするヘリオ。

「で、魔力を調べるのに、なんで杖が必要なんだい?アリスは黒き一族なんだろ?」

その言葉に、ヘリオが軽く2つの一族の説明をし始めた。
興味が無さそうに聞くガウラ。

「興味無さそうにするな。姉さんの武力の強さにも関係しているんだぞ」
「え?」

白の魔力と黒の武力の関係。
同時に2つを持って生まれることが無いこと。
それを両方有していたヘラ。
そして、2つに分かたれた自分達。
武力はガウラに、魔力はヘリオに。
そして、最近日に日にガウラの武力が強くなっていることを説明した。

「最近、やたら調子がいいと思っていたけど、そう言う事だったのか…、そう考えると異例なのか…」
「そういう事だ。そして、アリスが杖を使う事で、その魔力が一族由来のモノであると判明すれば…」
「アリスも異例…という訳かい」

ガウラの言葉にヘリオは頷く。

「そういう事なら仕方ないね」
「すみません、お手数掛けます」

こうして、3人は瓦礫を退け始めた。


「あった!ありました!」

辺りが薄暗くなってきた頃、アリスが大きく叫んだ。
その声に全員が集まってくる。
そこにあったのは木の素材で出来た1本の杖。

「やはり、瓦礫に埋もれていただけあって、咲いていた花が萎れているな」

ジシャの言葉に、状態が悪くなっているのが伝わる。

「アリス。これを持って少し魔力を込めてみておくれ」
「…はい」

アリスは緊張した面持ちで杖を取り、魔力を込める。

「どうやら、反発はしないみたいだね。念の為、もう少し魔力を込めてみてくれ」

ジシャの言葉に頷き、再び魔力を込める。
すると、萎れていた花が少し元気を取り戻した。

「違和感はあるかい?」
「いえ、無いで……す」

返答に違和感を感じたジシャがアリスを見ると、何かに取り憑かれたような瞳をしているのに気がつく。

「アリス、どうした?」

ジシャの反応に、何事だと顔色を変える双子。
すると、アリスはおもむろに杖を掲げた。
その瞬間、杖が急速に修繕され、花は咲き乱れ、どこからとも無く蝶が飛んでくる。

「何が起こっている?!」
「俺にも分からん!」
「これは…まさか、精霊のイタズラか?!」

予測出来ない事態に、ジシャと双子は警戒する。
そして、アリスが口を開いた。


─白き時 無の中に1つの色
色はとても強く 白は色に染められる
    黒き時、有の中に1つの色
色は儚く、黒は色を飲み込んだ
    白と黒が混ざる時 2つは1つの色となる─


その言葉にジシャは目を見開く。

「何故その術式を?!」

だが、驚くのはそれだけではなかった。


─1つに交わる色を持つ者
新たな未来への 扉開かれん─



ジシャの記憶とは違う術式が展開された。


周囲に広がる花の香り。

集まる蝶。


アリスが杖を地面に突き立てると、それを中心に光の柱が展開される。

光の柱に巻き込まれるように舞い上がる蝶。


それは、誰も見たことかがない魔法であった。
魔法が収まると、蝶は何処かへと飛んでいき、辺りは静寂に包まれた。
月明かりの下に立つアリスの髪は、真っ白に染まっていた。
そして、アリスの両膝が地に着いた。

「「「アリスっ!!」」」

全員がアリスに駆け寄る。
放心状態のアリスの肩を、ヘリオが軽く揺すった。

「おい!大丈夫か!?」
「あ……ヘリオ……」
「何があった?!」

珍しく動揺しているヘリオに、アリスはボーッとしながら答えた。

「魔力を込めたら、女性の声が頭に響いたんだ…」
「声?」

聞き返すヘリオに「うん…」と答えるアリス。

「とても優しい声で…、愛しい我が子達って…、そこから記憶が無い」
「そうか…」

心配そうに立ち尽くすガウラ。
ジシャはアリスの言葉に何か考え込んでいる様だった。

「あんたは今、大量に魔力を放出したんだ。少し休め」
「…うん」

頷き、糸が切れたように気を失うアリス。
ヘリオはアリスを抱き抱え、適当な場所を見つけて寝かせた。

「それで、あれはなんだったんだ母さん」

沈黙を破ったのはガウラだった。
眠っているアリスにチラッと視線をやりながら、ジシャの答えを待つ。

「最初は精霊のイタズラかと思ったんだが、どうやら違ったようだ」
「と言うと?」
「これは憶測でしかないが、アリスが聞いた声は、始まりの祖の声じゃないかと思ってね」

思わず顔を見合わせる双子。

「始まりの祖は、いつか武力と魔力の両方を持つ者が現れると分かっていたのかもしれない。そしてそれは、一族の新たな転機になることも…」

ジシャは、ガウラとヘリオを交互に見つめた。

「本来であれば、さっきの現象を引き起こしていたのはヘラだったかもしれない」
「魔力と武力を持っていたから…?」
「あぁ」

母に頷かれ、複雑な表情になるガウラ。
相変わらず無表情のまま、ヘリオは尋ねた。

「それで、アリスの魔力は?」
「間違いなく、一族由来の魔力だよ。でなければ、あの杖は扱えないからね」

ジシャの言葉で、アリスは黒の純血である事が証明された。
これで、少しはアリスの気も晴れるだろう。

「さぁ、そろそろお帰り。かなり夜も深けてきた」
「あぁ、そうさせてもらう」
「じゃあ、私も帰るよ。あまり遅くなると、ヴァルがうるさいからね」

ガウラはヘリオがアリスをおんぶするのを手伝う。

「「じゃあな、母さん」」
「気をつけてな」

挨拶を交わし、集落を後にする。
帰り道で、双子は会話を始めた。

「なんだか、疲れたな」
「あぁ、一気に色んなことが起こりすぎた」

2人同時に溜め息を吐く。

「ヘリオ、アリスが目を覚ましたら、ちゃんと魔力の事を伝えておけよ?」
「あぁ、分かってる」

そんな会話をしながら、帰りを待っている者がいる家へと急いだのだった。



とある冒険者の手記

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