A.夢が伝えるものは


湖の辺にある小さな小屋。
そこに1人の女性のミコッテが立っていた。
白い髪に白い肌。
白っぽいローブを身に纏い、手には花が咲いた杖を持っている。

"その杖をどうするのだ?"

姿が見えない誰かが問いかける。

"この杖は、いつか私達の子孫に転機をもたらすきっかけとなる"

女性は小屋へ入っていく。

"その時が来るまで、此処に置いておこうと思って…"

小屋の隅に、杖を立てかける女性。

"ここは私達の始まりの場所。新たな始まりの鍵を置くのに相応しいでしょう?"

そう言って振り返る女性。
その顔は、息を飲むほど美しく、優しい笑みを浮かべていた。


************


視界に入ったのは見慣れた天井。
一瞬、状況が理解できなかったが、直ぐに自分が家に居るのだと気がつく。

「夢…か…」

身体を起こすと、一気に気だるさが襲った。

「だる…っ」

片手で頭を抑え、溜め息を吐いた。

「目が覚めたみたいだな」

振り向くと、そこにはパートナーのヘリオの姿。
アリスは笑顔を浮かべた。

「おはよう。ヘリオが運んでくれたんだろ?ありがとな」
「当然だろう。礼を言われる程の事じゃない」

無表情だが、少し頬が赤らんでいるのを見て、アリスは小さく笑う。

「体調はどうだ?」
「かなり気だるいけど、起きられないほどではないかな」
「そうか」

そう言って、ヘリオはベッドに腰掛ける。

「3日も目を覚まさないから、少し心配した」
「3日も?!」

それを聞いて驚くアリス。

「あれだけの魔力を一気に放出して、枯渇させれば回復に時間はかかるとは思っていたが、3日は予想外だった」
「だろうなぁ。俺も今聞いて驚いた」

3日も目を覚まさなかったとは。
きっと、かなり心配させたんだとシュンとするアリス。

「気だるさがあるってことは、まだ魔力は回復しきってないんだろうから、無理はするなよ?」
「うん」

そう答えると同時に、アリスの腹の虫がなった。
あははーと笑って誤魔化すアリスに、少し苦笑するヘリオ。

「気だるさ以外は問題ないみたいだな」
「そうみたいだ」
「3日も物を食べてないから、10倍粥を作る」
「うん、ありがとう」

ヘリオはキッチンへ向かい、調理を始める。

「時間かかる?」
「煮るのに時間はかかるはずだ」
「わかった。その間に俺は風呂に入ってくるよ」

アリスは気だるい身体をゆっくりと動かす。
少しフラフラしていたが、壁をつたいながら風呂場に到着し、身体を洗い流した。
風呂から上がると、まだヘリオは調理中、それならとアリスは美容師のベルを鳴らし、ジャンドゥレーヌを呼び出した。
そして、髪をいつもの黒地に赤のメッシュへと染め直す。

「誕生日、おめでとさん」

いつもの決めゼリフを言って去っていくジャンドゥレーヌ。

「髪、染めたのか」
「うん、なんか白いままだと落ち着かなくてさ。こっちの方が俺らしいだろ?」

ニィっと笑うと、ヘリオは首を傾げる。

「髪色が何色だろうと、あんたはあんただろ?」
「それはそうだけどさ。でも、一族の事とは関係なく、俺は俺で有り続けるって意思表示みたいな感じかな?俺なりの儀式ってことで!」

アリスの言葉に肩を竦めるヘリオ。
アリスはそのまま椅子に座り、ヘリオの調理する姿を眺める。
暫くすると、出来た10倍粥を器に盛り、テーブルに置かれる。

「ほとんど固形物は入ってないが、よく噛んで食べろよ?胃が驚くから」
「うん、ありがとう!」

スプーンに掬った粥を冷ましながらゆっくりと食べるアリス。

「そう言えば、結局、俺の魔力はどこから来るものだったんだ?」
「杖が魔力に反発せず、魔法が発動されたことから、一族由来のモノで間違いないそうだ」
「そっか!」

それを聞いて、嬉しそうな顔をするアリスに、首を傾げるヘリオ。

「何がそんなに嬉しいんだ?」
「ヘリオと接点があるって事が、なんか嬉しくてさ」

そんなことが嬉しいのかと、なんだか照れくさくなったヘリオは、頬を赤らめ、そっぽを向く。

「相変わらずだな、あんたは」
「へへへっ、俺らしいだろ?」
「はぁ…まったく…」

溜め息を吐くヘリオ。
そんなヘリオをニコニコと眺めながら、アリスは食事を続けた。
粥を食べ終え、ゆっくりしていると、アリスはふと夢の事を思い出した。

「なぁ、ヘリオ」
「ん?」
「俺、眠ってる間に夢を見てたんだけど、その夢がさぁ…」

アリスは夢の内容を話し始める。
ヘリオは黙って話を聞いた。

白い髪と肌の女性。
花の咲いた杖。
会話の内容。

全てを話終える。

「その女性がさ、なんか義姉さんとヘリオに雰囲気が凄く似てたんだ。もしかして、女性は始まりの祖で、夢は過去の出来事だったのかな?」
「かもしれないな。その女は、杖をきっかけの鍵だと言ったんだろう?」
「うん」
「母さんが、始まりの祖は、武力と魔力の両方を持つ者が現れると分かっていたのかもしれないと、言っていたからな。可能性はあるだろう」
「なるほど。じゃあ、俺が見た夢は、杖に残ってた始まりの祖のエーテルが作用したのかも知れないのか」
「たぶんな」

だが、アリスはふと疑問が浮かんだ。
始まりの祖のエーテルの記憶であれば、彼女の視点から記憶を見るのでは無いかと。
あれば明らかに彼女の視点では無かった。

姿が見えない声。

もしかしたら、その声の主の視点だったのかもしれない。
だが、アリスは考えるのをやめた。
今は、自分の素性がわかっただけで充分だと判断したからだ。

「とりあえず、1番の問題は解決したから、身体を休めないとなぁ!本調子になったら、身体を鍛えてリハビリしないと!」

大きく伸びをしながらアリスが言うと、ヘリオは「そうだな」と答えた。

「普通の食事が食べられるようになるまで、世話になるよ」
「あぁ、分かってる」

いつも通りの2人の会話だった。




とある冒険者の手記

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