V.ヴァルの護身術講座


ラベンダーベッドにあるガウラ宅。
その庭で護身術講座のために、ヴァルとガウラは立っていた。

「さて、護身術を教える前に、男とはどういうものかを教えておこうか」
「ほう」
「まず、ナンパをしてくる男ってのは、自分に自信を持っていてプライドが高い奴だ。だから、ナンパを断ると意地になるし感情的になる」

ヴァルの言葉に"なるほど"と頷く。

「1番楽な対処法としては、そのまま誘いに乗って、食事やお茶をしてる時にトイレに立つフリをして、そのままばっくれるのが楽だな」

ヴァルの話を真剣に聞くガウラ。

「で、問題は食事などのステップを踏まないで、宿に連れ込まれそうになった時だ」

息を飲むガウラ。
少し表情が強ばっているのは、先日ナンパされた時の事を思い出したのだろう。

「抵抗すれば、相手は力づくでも連れ込もうと躍起になる。どんなに鍛えたえ抜かれた冒険者でも、男の力に女は無力にも等しい。その事をあたい達女は知っておかなければならない」

まさに先日それを痛感したガウラは、黙って頷く。

「まず、手首を掴まれた時だ」

ヴァルはガウラに自分の手首を掴むように支持した。

「こうかい?」
「あぁ。この状態になった時、まず空いている手で相手の手首をこう掴む。そして、相手の脚の間に踏み込みながら腕をこうして、背負い投げをする」

投げる手前までの動きを、ゆっくり解説しながら教えるヴァル。
「ほぉー!」と感心するガウラ。

「今の流れをやってみろ」

そう言って、ヴァルはガウラの手首を掴んだ。
さっきの動きをゆっくり再現していくガウラ。
動きに迷いがあると、適切に説明が入る。
そして、何度か繰り返し、動きはスムーズになった。

「うん、いい感じだな。よし、じゃあ、実際にあたいを投げてみろ」
「分かった」

ガウラは言われた通りに動き、ヴァルを投げ飛ばした。
地面に叩きつけられるヴァル。

「だ、大丈夫かい?」
「あぁ、受身はとったからね。ちゃんと出来て良かった」

満足気なヴァルにホッとするガウラ。

「右手首を右手で掴まれた時、左手首を右手で掴まれた時で踏み込んだ時の腕の動かし方は異なるが、どちらも投げ飛ばすことが出来る。投げられた時に驚いて手首から手が離れるから、投げ飛ばしたらそのまま逃げられる」
「なるほど…」
「そして、次は明らかに体格差があり過ぎる相手に対してだ。相手が大柄すぎると、背負い投げるにはどうしても無理があるからな」

確かにと、ガウラは納得する。

「その場合は、相手のバランスを崩す」

ガウラに再度自分の手首を掴むように支持する。

「掴まれたら、真っ直ぐ相手との距離を詰め、足の間に自分の足を入れ内側から片足をこうやって払う。そして、そのまま押し倒す。そうすると相手は倒れた時に頭を打つから、隙が出来る。そのうちに逃げる。やってみろ」

先程と同じように動きを繰り返し、動きをマスターしていく。

「これにはもうひとつ応用が出来てな。距離を詰めた時に相手の股間を思いっきり膝蹴りする事も出来る」
「ほほー!」
「悶絶する姿は見物だぞ」

ニヤリと笑うヴァルに、少しゾッとするガウラ。
それだけ、ヴァルが男に絡まれる機会が多い事を知る。
その後も様々な護身術を教わったガウラ。
そして、最後にヴァルは言った。

「自分が強いと過信してはいけない。それは油断に繋がる。それは日常でも戦いでも同じだ」

その言葉は、ガウラの中に響いたのだった。


***********


それから数日後。
ガウラは、ヴァルとランチの約束の為に待ち合わせでウルダハへと来た。
無事にヴァルと合流し、食事を終え、少しウィンドウショッピングをしようと街を歩いていると、2人組のヒューラン族の男に声をかけられた。

「お姉さん達、良かったら俺らと食事しない?」

男2人は、下心見え見えの嫌な笑みを浮かべている。

「あら、残念。お食事なら先程済ませてしまったの…」

声色と口調を変えたヴァル。
申し訳なさそうに下手に出て、相手を刺激しないようにしているのが分かる。

「えー、そうなのか。じゃあ、食事じゃなくて俺らとイイコトしない?」
「イイコト?それは何かしら?」
「おいおい、分かってんだろ?もしかして、男を知らないのか?」

そう言って、男はヴァルの腰に手を回す。

「なら、男ってのを教えてやるよ。天国に逝かせてやるぜ」
「あら、それは楽しみね………」

その瞬間、ヴァルの表情が変わった。
すかさず相手の鳩尾に肘鉄をクリティカルヒットさせる。
蹲る男1人。
もう1人の男は、1人だけでも連れ帰ろうと、ガウラの腕を掴んだ。
一瞬頭が真っ白になるガウラ。
だが、体は対処法を覚えていた。
自然と体が動き、男を投げ飛ばしていた。
悶絶している男2人を無視し、ヴァルはガウラの手を掴み走り出した。

そして、安全な場所で立ち止まり2人で顔を見合せると、声を出して笑い合ったのだった。






とある冒険者の手記

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