A.物作り
ヘリオから珍しく「頼みがある」と言われたのは、夕食を共にしている時だった。
何事かと思い話を聞くと、ジシャの家を作って欲しいとの事だった。
「作れるか?」
「普通のドールハウスを作るのとは違うけど、建設の基礎が分かれば作れるよ」
「あまり、作ってるところを見たことが無かったから、どうなのかと思ったが…」
「そうだっけ?イシュガルドの復興とかもやってたし、ハウジングの家具も俺が作った物が混じってるよ」
「………」
いつ作ったんだと少し驚いているヘリオ。
それは気にせず、アリスは話を続けた。
「向こうに使えそうな木材とかある?」
「どうだろうな。劣化してるものもあるからな」
「んーそうか。なら、素材持ってった方が早そうだな!」
なんだかウキウキしているアリスに、ヘリオは首を傾げた。
「なんだか楽しそうだな?」
「うん!物を作るの好きだからさ!最近は専ら、戦いの事しか頭に無かったし、久しぶりにそれ以外のことに没頭するのも良いかなって!」
「そう言えば、アンタ手作りした事あったな」
ヘリオは言って、自分のアーマリーチェストに付けているプレートを見る。
エタバンをした年の誕生日にプレゼントされた、お守り代わりのプレートだった。
「故郷に居た時も、家の修繕とかやってたしな!金具関係は予め買って、木材とかは用意して向かうよ」
「あぁ、頼む」
「うん!任せて!」
ヘリオからの頼みを了承する。
その次の日、アリスは建築関係の本と、金具、木材や石材等を買い込み、白き一族の集落跡へとやってきた。
「義母さん!おはようございます!」
「おはよう、アリス。その荷物を見ると、引き受けてくれたんだね」
「はい!俺に力になれる事があるなら、喜んで受けますよ!」
アリスの嬉しそうな表情に、クスッと笑うジシャ。
「どんな間取りが良いとかありますか?」
「そうだねぇ。出来たら、以前住んでた家と似た間取りがいいね」
「紙とペン持ってきたんで、簡単に書いて貰えますか?」
「あぁ、いいとも」
アリスが簡易ミニテーブルを出し、紙とペンを置く。
ジシャがペンを持ち、間取りを書いている間に、アリスは建築関係の本を開き、家の土台の作り方を頭に叩き込んだ。
「出来たよ」
「ありがとうございます!」
書かれた物をじっくりと見ながら設計図を書き始める。
ジシャの身長を図り、土台や室内の面積を計算し、設計図に書き込んでいく。
粗方の図面が完成すると、アリスは顔を上げた。
「義母さん、どの辺に建てたいとかあります?」
「特にはないかな、あるとしたら玄関はあっち向きが良い」
「分かりました!」
ジシャの指差す方向を、図面に書き足す。
そして、なるべく平らな場所を見つけ、予定地に杭を1本打ち込んだ。
紐を括りつけ、紐の長さを図り印を付けていく。
その印を頼りに家の角になる部分に杭を打っていく。
土台になる石レンガの繋ぎ材である漆喰を作り、打ち込んだ杭と線の外側に沿うように石レンガの1段目を敷き詰めていく。
1段目を終える頃には、太陽が真上に来ていた。
「もうお昼か…」
「おや、そんな時間か」
「お昼にしましょう!」
アリスは、荷物から野営用の調理道具を取り出し、調理を始めた。
「作るのかい?」
「はい!と言っても、大したものは作れないですけど。焼いたりするのが苦手で、煮る物しかまともに作れないです。下拵えとかは出来るんですけどね」
苦笑しながらそう答えるアリス。
すると、ジシャは少し考えてから口を開いた。
「良かったら教えようか?」
「え?良いんですか?」
「家を建てて貰ってるし、せめてものお礼と思っとくれ」
「ありがとうございます!火加減とか、よく分からなくて困ってたんです!」
こうして、食事を作る時はジシャの指示に従って調理をする事となった。
火加減や、焼き加減の確認の仕方、大体の時間などを分かりやすく教えてもらい、アリスは初めて程よく焼き上げる事が出来た肉を見て感動していた。
昼食を終え作業を再開するアリス。
土台を完成させ、あとは漆喰が乾くのを待つ。その間に木材の加工を始める。
木材の加工に夢中になっていると、あっという間に日が暮れていた。
「そろそろ手を止めた方がいいんじゃないかい?日が暮れているよ」
「え?ああっ!ほんとだ!」
空を見て驚くアリス。
ものすごく集中していたのが分かる。
「暗くなる前に帰r……アリス?」
ジシャは言葉を止めた。
アリスが荷物から取り出したのはテント。
それを適当な場所を見つけて、張り出した。
「家に帰らないのかい?」
「はい。完成まで毎日通うのは流石に時間が勿体ないんで、泊まり込みです。ヘリオも承諾済みです」
テントを張り終え、寝袋を中に置く。
そして、更に小さな寝袋を取り出した。
「これは義母さんの分です!家が出来るまでは、不便をかけますけど」
「おや、すまないねぇ気を使ってもらって」
アリスは「いいえ!」と笑顔で返した。
そして夕食を摂った後、アリスはランタンを取り出し、夜遅くまで木材の加工をしていた。
***********
翌朝、アリスは井戸を見つけ、周りに生えた雑草を青魔法のソニックブームで一掃する。
白魔法のエアロを上手く使い、狩った草を纏める。
昨晩作ったバケツにロープを括り、井戸に落としていく。
着水する音。
どうやら、水は生きているようだった。
水を汲み上げ、水質を確認する。
水は澄んでいて、生活用水としては使えそうだ。
アリスは上半身の服を脱ぎ、汲んだ水をそのまま頭から被り、水浴びをする。
水が滴る髪をかき揚げ、用意しておいたタオルを手に取り、頭と体を拭き始める。
「おや、早起きだね」
「あ、義母さん!おはようございます!」
「おはよう。それにしても、傷だらけだな」
アリスの上半身を見て、目を丸くするジシャ。
「あはは!俺、結構抜けてるところがあるから、怪我が耐えないんです」
「その脇腹の傷は、死にかけた時のかい?」
「そういえば、義母さんはヘリオの中で眠ってたんでしたっけ?」
「あぁ、その時の感情はかなり激しかったからね。寝ていても感じていたよ」
バツが悪そうに苦笑いをするアリス。
「無茶はしなさんなよ?」
「はい、肝に命じておきます」
そう会話をして、朝食の準備に取り掛かる。
朝食を摂り、片付け、作業を開始。
昼食を摂り、また作業と繰り返し、一日が終わっていく。
時折、迷い込んだ魔物を追い払いながら、作業は着々と進み、1週間で家が完成した。
そのタイミングで、集落にヘリオが姿を現した。
「出来たのか」
「ヘリオ!」
嬉しそうにヘリオに駆け寄るアリス。
「なかなかの出来じゃないか」
「だろ!力作だぜ!」
得意げな顔をするアリスにフッと笑うヘリオ。
「いやぁ、なかなかにいい仕事をしてくれたよ」
「それは良かった」
ジシャからも褒められ、嬉しさで尻尾をブンブン振る。
「その作業台の上にあるのは?」
「あぁ、家具だよ。必要だろ?」
家具まで手作りしたアリス。
これで、住むには困らないだろう。
家具を運び込みやすいように、窓を大きめに設計したのが良かったのか、室内のハウジングもあっという間に出来た。
食料の貯蔵庫もちゃんと作られており、必要な小物等も揃えられていた。
「あとは、井戸を使いやすくするのと、義母さんが見つけた集落の遺品の保管庫ぐらいかな」
「家を建ててくれただけで充分だよ?」
「いえ!ここまで来たら、全部やりますよ!」
どうやら、家を建てている内に職人魂が燃えてしまった様だった。
「材料の加工は出来てるんで、あとは組み立てるだけなんだ!ヘリオ、手伝ってくれるか?」
「仕方ないな…」
自分が家づくりを頼んだ手前、断れないヘリオ。
保管庫の骨組みと、井戸の骨組みを2人で組む。
簡単な作りなので、一日で保管庫と井戸は完成した。
「よし!出来た!」
保管庫(と言っても簡単な小屋)に、ジシャが見つけてきた物を運んで収納する。
「あ、そうだ!義母さんにこれを渡しておかなきゃ!」
「なんだい?」
アリスが取り出したのはリンクパールだった。
「集落から少し出たところだったら繋がるので、何か用があったら使ってください!」
「有難く使わせてもらうよ」
「あとは、野菜が作れるように、種も幾つか渡しておきますね!」
アリスの用意の良さに、 呆気に取られる2人。
それだけ、アリスがジシャを義理の母として大切にしているのが伝わった。
「ふふっ、私は幸せ者だね。優しい息子が2人もいるんだから」
「へへへっ」
「………」
嬉しそうに笑うアリスに、照れくさそうにそっぽを向くヘリオ。
「今度、義姉さんも呼んで4人で家の完成祝いをしましょう!」
「あんた、そういうの好きだよな」
テンションが高いアリスに、面倒くさそうに溜息を吐くヘリオ。
そのテンションの差に、思わず笑うジシャ。
後どれだけこの世に留まれるかは分からないが、一時のこの幸せな時間を噛み締めるジシャであった。
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