A.小さな祝賀会


白き一族の集落跡。
開けたその場所に、足の低い簡易テーブルが置かれ、料理が並び始めていた。
その場で作ったものではなく、持ち込まれたもの。
それを準備しているのは、アリス、ヘリオ、ヴァル、ガウラの4人だった。

「なんであたいがアリスの企画の為に料理を……」
「アリス達も作ってきたんだから良いじゃないか」
「はぁ…」
「祝いの席なんだから、そんな顔するな」

ガウラに言われて、納得いかないと言う顔をするヴァル。
そんな2人とは裏腹に、テンション高めのアリスは鼻歌を歌っている。

「それにしても、小さいとはいえ、立派な家だな」
「でしょ!俺の力作です!」

ガウラに感心され、自信満々で答えるアリス。
あまり褒められる事が少ないせいか、かなり嬉しそうだ。

「漆喰を使ったのか」
「はい!木造だと、やっぱり、すきま風とかあるだろうから、こっちの方がいいかなって」
「なるほどねぇ」

クラフターもしているガウラは、ついつい職人目線でアリスの建てた家を見る。
そして、アリスと木工の話で盛り上がり始める。
それを面白くなさそうに見つめるヴァル。

「不機嫌だな」

ヘリオの言葉に、ヴァルは目線を合わさずに答えた。

「不機嫌にもなるさ。そういうお前こそ、面倒くさそうにしてるじゃないか。お前は関係者だが、あたいは部外者だ」
「ならなんで来た?」
「ガウラに来いって言われたからだ。ガウラの面子を汚す訳には行かないだろ」

溜め息を吐いて、ヘリオに視線を向けた。

「お前は自分のパートナーが他の誰かと仲良くしてて、気分悪くならないのか?」
「別に…」
「別にって…」

理解できないと言うように首を横に振るヴァル。

「アリスの対人関係に口を出すつもりは無い」
「そーかい、聞いたあたいが馬鹿だったよ」
「?」

ヴァルの呆れた様子に、理解が出来ずに首を傾げるヘリオ。
いつまでも話が終わらないアリスとガウラ。
流石に止めないとと判断したヘリオが2人に声をかけた。

「おい、姉さん!アリス!いい加減始めるぞ!」
「あいよ!」
「分かった!」

戻ってくる2人。 

「母さんも始めるぞ」

ヘリオの声に、遺品の保管庫から出てくるジシャ。

「すまないね。片付けに手間取ってしまった」
「義母さん、そういうのは言ってくださいよ。手伝いますから」
「1人でも出来るようになっておかないとだろ?お前達は冒険者で、毎回来れるわけじゃないんだから」

ジシャの言葉に、少しシュンとするアリス。

「気持ちだけ、受け取っとくよ」

苦笑しながらジシャはそう言った。
そして、適当な岩を椅子替わりに全員が座った。
飲み物の入った木製のコップを全員が持つと、アリスが音頭を取った。

「えー、改めて今日はお忙しいところお集まり頂きありがとうございます!」
「なにもそんなに畏まった言い方しなくても良いんじゃないのか?」
「親しき仲にも礼儀ありって言うだろ?こういうのはちゃんとしないと!」
「…そういうもんか?」
「そういうもんなの!」

ヘリオの横槍に、アリスは咳払いをして続けようとした。

「ゴホンっ!えーっと、なんだっけな…。もー!ヘリオが横槍入れるから、何言おうとしたか忘れたじゃんか!」
「知らん」

その2人のやり取りに、ガウラとジシャはクスクスと笑う。

「とにかく、えっと…、義母さんの家が無事に完成したのを祝して、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」

全員が飲み物を飲む。

「結局、締まらない音頭だったな」
「俺のせいじゃないです!」

苦笑しながら言ったガウラの言葉に、頬を膨らましながらアリスはヘリオを見る。
知らん顔をして料理に手をつけるヘリオ。

「それ、美味いだろ?」
「ん?あぁ」

嬉しそうに声をかけるガウラに、ヘリオは素直に返事をした。

「ヴァルが作ったんだ!最近、食事関係はほとんどヴァルが作ってくれているんだけどね、これがまた美味いんだ!」
「ほう…」
「へぇー…」

ヴァルがガウラ宅に頻繁に出入りしてるのは知っていたが、世話を焼いている事は知らなかったヘリオとアリスは、少し驚いた様な顔をする。

「この前、リリンが家に来た時なんか、クッキーとアップルパイを…」
「ガウラ、喋り過ぎだ…」
「なんだい?事実を話してるだけじゃないか」
「いや…だから…」

何とも複雑な表情で口をモゴモゴしているヴァル。
そんなヴァルの反応に、更にアリスとヘリオは唖然としている。

「あ、あたいの話しはしなくていいっ!」
「良いじゃないか、別に。ヘアセットなんかもヴァルがやってくれてるおかげで、色々助かってるんだ」
「だ·か·らっ!」

ガウラはヴァルの反応を気にもとめず、嬉々として日頃のヴァルの話をする。
自分のイメージが崩れていく様で、どんどん恥ずかしくなったヴァルは、最終的に顔を真っ赤にさせ、両手で顔を覆い、俯いてしまった。

「ガウラ…もう…勘弁してくれ…」

消え入りそうな声で発される言葉。
ヴァルの意外な一面に、驚きで言葉も出ないアリスとヘリオ。

「ガウラ、その辺にしといてやりな。ヴァルが可哀想だよ」
「そうかい?私はヴァルの凄さを知って貰いたかっただけなんだけど」
「~~っ」

ジシャの言葉にキョトンとして返すガウラ。
耳を垂らし、蹲るようになるヴァル。

「嫌だったかい?」
「…嫌とか、そういう以前に…あたいにも、イメージってもんがあるだろ…」
「それはお互い様じゃないかい?フロンティアドレスの件、忘れたとは言わさないよ」
「……」
「フロンティアドレス…あ!」

2人の会話に出てきたドレスの名前に、アリスは何かを思い出した。

「ひょっとして、リリンちゃんと服を買いに来た時に、裁縫師の店でフロンティアドレスに釘付けになってた女性って、やっぱり義姉さんだったんですか?」
「な、なんでその話をアリスが知ってるんだ?」

意表を突かれ、驚くガウラ。

「お店の裁縫師さんが、ドレスに釘付けになったリリンちゃんを見て、話してくれたんです。その特徴が義姉さんに似てたから、まさかとは思ったんですけど」
「……」

今度はガウラの顔が赤くなる番だった。

「……ヴァル、ごめん。お前の気持ちが今分かった…」

顔を真っ赤にして俯く女性陣2人。

「おやおや、リンゴが2つになったね」

笑いながらジシャが言う。

その後は、なんだかんだと賑やかな食事が続いた。

それは一時の平穏であった。



とある冒険者の手記

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