V.2輪の白い花と2羽の黒い蝶


今日の用事が終わり、ラベンダーベッドへと向かっていたヴァルは、ふと足が止まった。
白い髪に白い肌をしたヴィエラ族。
そのヴィエラ族から香る香りは、甘い花の香りに柑橘系の香りが混じっていた。
白き一族の混血児特有のエーテルの香りだった。
恐らく、何処かにこの混血の担当が居るのだろう。
そして、ヴァルと向かう方向が一緒だった為、彼女の様子を伺いつつ、後を追う形となった。
最初は良かったものの、突如アン·アヴァンで逃げるように移動ペースを上げた。
その行動に少し困惑しつつも、追いかけた。
すると、ピタリと足を止めた次の瞬間。

「だぁれ?」

大きな声で言われ、気づかれていたのだと悟る。
仕方なく姿を現すヴァル。
ヴァルの容姿を見て、目を輝かせるヴィエラ族。

「真っ黒!やっぱり黒き一族だぁ!」
「なっ!?」

彼女の口から出た言葉に驚くヴァル。
それは、彼女の担当の存在が気付かれていることを意味していた。

「ルヴァくんかと思ったけど…、あなたは?」
「…あたいはヴァルだ」
「ヴァルちゃんかぁ!ヴァルちゃんは誰を護ってるの?」

一族の役割まで分かっているとなると、余程彼女のペースに巻き込まれ、ルヴァは口を割ってしまったのだろう。
現に、ヴァルも彼女のペースに呑まれかけている。

「あたいは、ガウラを護っている」
「ガウラを?そっかぁ!それで同じ方向に来てたんだね!」
「同じ方向…?」
「うん!ナキはガウラの所に行こうとしてたの!」

なるほどと納得するヴァル。
すると、ナキはヴァルの手を掴んだ。

「っ!?」
「ヴァルちゃんもガウラの所に行くんでしょ?一緒に行こうよ!!」
「はい?!」

戸惑うヴァル。そんなことはお構い無しに「早く行こう!」と手を引っ張るナキ。
既に完全にナキのペースに巻き込まれ、ヴァルは引っ張られながらガウラの家へと向かったのだった。


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「な、なんだその組み合わせ…?」

ガウラの家に着き、中に入ると珍しい組み合わせに驚くガウラ。

「あたいが聞きたい」

溜め息混じりに答えるヴァル。
それとは裏腹に無邪気にナキが言った。

「だって遊びに来ようとしたらちょっと後ろの方で気配がしたんだもの。なんだか面白くなっちゃってアン・アヴァンで逃げたら追いかけて来てたから、黒き一族だぁって思ってね!止まって大声出したの、[だぁれ?]って!」
「あんな大声を出されたら流石に出ざるを得なくてな…」

参ったと言うように、意気消沈と答えるヴァル。

「ルヴァくんもそうだけど、ヴァルちゃんも分かっちゃうんだよねぇ」
「「気配がなくても視線が痛い」…あ、やっぱりガウラもそう感じるの!?」
「あぁ、そういえばそうだったなぁと。なぁ?ヴァル」
「………」

ガウラの振りに、バツの悪そうな表情をするヴァル。
冒険者であるガウラならまだしも、視線なんて意識しなければ気にも止めないものなのに、それに敏感に察知するとは…。
ナキの鋭さにも少し驚く。
その後、ガウラがシチューとサラダとパンを作っていたらしく、3人で夕食を摂る事になった。
ナキが教えてくれたオサード地方の習慣に習い、手を合わせて"いただきます"と言って食べ始める。

「そういえば、ヴァルちゃんは歳はいくつなの?」
「ガウラの5つ上だ」
「わー!だからセクシーな雰囲気があるんだね!」
「せ、セクシー……」

ナキのマシンガントークに困惑しっぱなしのヴァル。
おそらく、ナキも白き一族という事で、担当でなくても無下にできないのだろう。
完全にナキのペースに呑まれているヴァルを見て、珍しいのと面白いのとで、ガウラの表情が少しにやけた。


***********


賑やかな夕食が終わり、ナキを見送るために庭に出たガウラとヴァル。
すると、ヴァルはキョロキョロと辺りを見渡し、1本の木へと足早に向かう。

「ヴァル?」

ヴァルの行動に首を傾げるガウラとナキ。
木の前に辿り着くと、ヴァルは仁王立ちになり、そのまま腰を落とした。
そして、拳を構えた。

「せいやぁっ!!」

木に正拳突きを放った。
すると、「うわっ!!」と声を上げて木の上から落ちてきたミコッテ族の男。
そのミコッテは、くせっ毛の黒い髪に黒い肌、赤い瞳をしていた。

「痛ぇ~……っ」
「………おい」

男の前に仁王立ちで見下ろすヴァルの表情は険しい。
自分の状況に気付いた男は、青ざめていた。

「護りの使命中に居眠りとは、余裕だなぁ?ルヴァ」
「ヴァ…ヴァル様…」

明らかに顔が引きつっているルヴァ。
それには構わず、ルヴァの胸ぐらを掴んで立たせる。

「お前、相手のペースに巻き込まれたと言っても、一族の事をナキに話しすぎだっ!!」
「す…すみませんっ!!」

その場で、ヴァルのお説教が繰り広げられる。
ルヴァは青ざめながら謝罪をしている。
その光景にポカーンとしているガウラとナキ。
このままでは埒が明かないので、ガウラが仲裁に入り、あとの説教は里ですることになった。

「じゃあね、ガウラ!ご飯ありがとう!」
「あぁ!また遊びに来てくれ!」
「ヴァルちゃんも、またお話しましょ!」
「あ、あぁ…」

またね!と、元気に手を振ってルヴァと帰っていくナキ。
姿が見えなくなると、ヴァルは大きな溜め息を吐いた。

「疲れた…」
「珍しくペースを乱されていたもんな?」
「あぁ。さっきはルヴァに説教をしたが、あれでは口を滑らすのも仕方ないとは思う」

ゲンナリした顔で言うヴァルを見て、小さく笑うガウラ。

「あのペースに呑まれて、お前が作ってくれた料理の味が分からなかった…」

ヴァルは、少し落ち込み気味にそう言った。
それがなんだか可愛く思えてしまうガウラ。

「また機会があれば作るさ」
「…うん」

珍しく子供みたいな返事をするヴァル。
ヴァルの意外な一面を垣間見て、なんだか嬉しくなったガウラであった。



とある冒険者の手記

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