A.寝癖
アパルトメントで一緒に住み始めた翌日、アリスが目を覚ますと既にヘリオが起きており、朝食を作っていた。
「あ、おはようございますヘリオさん」
「おはよう」
「起きるの早いですね」
「あぁ、今日は予定が詰まってるからな」
答えながら料理をしているヘリオに近づくと、あることに気がついた。
ヘリオの髪に所々寝癖が着いていた。
普段のイメージから、キッチリしてそうな彼に寝癖を見つけ、なんだか可愛いとすら思ってしまう。
「ヘリオさん、寝癖が着いてますよ?」
そう言うと、ヘリオは「そうか」とだけ答え直そうとすらしない。
「直さないんですか?」
「どうせ戦ってる間にボサボサになるんだ、問題ないだろ」
意外な適当さ加減に、内心驚くアリス。
ひょっとしたら、今まで気が付かなかっただけで、実は寝癖だらけだったのかもしれない。
「いや、身だしなみはちゃんとしましょうよ。あ、良かったら俺、直しますよ!」
そう申し出ると、ヘリオはそんなもんなのかと言った感じで、朝食後にアリスが寝癖を直した。
それからは、毎朝アリスがヘリオの髪の毛をセットするようになったのだが、一緒に住み続けていて気がついたことは、ヘリオの寝起きの髪が物凄くボサボサな事だった。
サラサラで猫っ毛な髪は、どうやら爆発しやすいらしい。
それを、一人の時は手櫛で適当に整えていたと言うのだから驚きだ。
そういえば、義姉であるガウラも髪の毛に寝癖があることが多い気がする。
なんて思っている時、街中でガウラとばったり出会った。
「ガウラさん!お久しぶりです!」
「おー!アリス!元気してるかい?」
他愛のないやり取りをしながら、ふとガウラの髪の毛に目をやると、細かく毛先がピョンピョンはねていた。
「ガウラさん、寝癖が…」
「あー、いつもの事だよ」
「いつも?!」
「どうせ冒険してれば、すぐにボサボサになるからな」
流石双子と言うべきか、ヘリオと同じ様な事を言い出すガウラに、アリスは唖然としていた。
「そういえば、最近ヘリオの寝癖を見なくなったな」
「俺が直してるんです。身だしなみは大事ですから」
「なるほどね」
「ガウラさんも、寝癖は直した方がいいですよ?」
「えー、面倒臭い…」
「面倒臭いって……」
心底面倒臭そうなガウラに、呆れた表情のアリスだった。
************
すっかり習慣となった朝の寝癖直し。
アリスはヘリオの髪を整えながら昔を思い出していた。
「よし!寝癖直ったよ!」
「あぁ、ありがとう」
ヘリオは礼を言い、出かける準備を始める。
アリスも今日は依頼がある為、準備を始めた。
「今日は姉さんと仕事だったか?」
「うん!義姉さんと仕事すると、学べるものが多いから助かるよ」
そんな会話をし、行ってらっしゃいのキスを一方的にヘリオにすると、2人は別々に歩き始めた。
そして、アリスはガウラとの待ち合わせ場所に着くと、既に相手は到着していた。
「義姉さん!おはようございます!」
「おはようアリス。時間ピッタリだな」
挨拶をして、ふと今朝のことを思い出し、何となく彼女の髪を見た。
寝癖がない。
そういえば、最近は髪の毛が綺麗に纏まっている気がする。
「そういえば、義姉さん最近寝癖見なくなりましたね?」
そう言うと、ガウラはキョトンとした表情をする。
「いつもはどこかしら跳ねてたから」
「あー、それな。ヴァルだよ。身だしなみはきちんとしろって五月蝿くてね。気にせず放っておいたらヘアセットしてくれるようになってな…って、母さんの家の建築祝いの時に話したろ」
「そういえばそうでした」
あはは、と笑うアリス。
直ぐにボサボサになるのに、とボヤいているガウラ。
「でも、ヴァルさんの言う通り、身だしなみは大事ですよ!」
「えー」
「寝癖がないだけで、義姉さんの魅力が大幅アップです!」
「は?寝言は寝て言え!」
「痛っ!」
素直な気持ちを言ったアリスの脇腹に、ガウラは肘で小突く。
「本当のこと言っただけなのに…」
「私に魅力なんてあるもんかい!」
「何言ってるんですか!同じ顔のヘリオがあれだけ魅力あるんですから、義姉さんだってあるに決まってます!」
「はいはい!惚気をどうも!ほら、さっさと依頼こなしにいくぞ!」
「あ!待ってください!」
呆れながらも顔を赤くしたガウラは、それを誤魔化すように先を行き、アリスはそれを慌てて追いかけたのだった。
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