V.宝物の御守り
森の中を、白き一族の少女、ヘラが歩いていた。
冒険者になりたいと言う夢を持ったヘラは、小さな弓を背負い、1人冒険者ごっこと称して散策をしていた。
それを、気配を消して見守る、面を着けた黒き一族の少女、ヴァル。
裏稼業の無い時間に、ヘラの様子を見に来ていたヴァルは、少しハラハラした気持ちでヘラの行動を見ている。
そんなヴァルの心配とは裏腹に、ヘラはどんどん森の中を進んでいく。
しばらくすると、クリスタルが表面に露出している岩場を見つけるヘラ。
「わぁ~!綺麗!」
クリスタルに近寄り、宝物を見つけたように目を輝かせる。
岩場の近くに落ちている小さなクリスタルを手に取り、ポケットに入れるヘラ。
それで冒険ごっこに満足したヘラは、来た道を引き返し始めた。
このまま、何事も無く集落に着いてくれと、心の中で願うヴァル。
その時だった。
ガサガサと草の擦れる音。
ヘラは警戒して弓を構える。
そして、飛び出してきたのはビックベアだった。
ヘラよりも遥かに大きいサイズに驚いたヘラは「にゃあっ!!」と悲鳴を上げて尻もちを着いた。
その弾みで放たれた矢は、ビックベアの肩に命中。
攻撃をされたビックベアは、ヘラに襲いかかった。
ヘラは両手で頭を抑え、目を瞑り、蹲る。
それを見たヴァルは、考えるよりも先に身体が動いていた。
高く飛び上がり、ビックベアの脳天に終撃を食らわし、仕留めた。
大きな音を立てて倒れるビックベア。
その音にヘラは何事かと顔を上げた。
倒れているビックベアの後ろに立っているヴァルを見て、唖然とする。
「怪我はないか?」
「…う、うん…」
ヴァルの質問に答えるヘラ。
安堵するヴァル。
「子供が1人で森の中を歩いていたら危ないよ?」
「ご、ごめんなさい…」
「分かればいい。この辺りはビックベアの縄張りなんだ。縄張りを抜けるまで、一緒に行かせてもらうよ」
「で、でも…」
困ったようにモジモジするヘラ。
恐らく、集落の場所の心配をしているのだろう。
ヴァルは跪き、ヘラに目線を合わせ、優しい声で言った。
「家までとは言っていない。安全な場所までだ。いいか?」
「そ、それなら…うん」
「よし。なら行こう」
ヘラの返事に、ヴァルはヘラの速度に合わせて歩き出す。
会話無く、森の中を歩く2人。
そして、縄張りから出た所でヴァルは足を止めた。
「ここからなら1人でも安全だ。転ばないように気をつけて帰るんだぞ」
「う、うん。あの、お姉さん。助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、ヘラはポケットから、先程拾ったクリスタルを取り出した。
「これ」
「いいのかい?」
「うん、助けてくれたお礼…」
恥ずかしそうにモジモジしながら、クリスタルを差し出しているヘラに、フッと優しく微笑んだヴァル。
「じゃあ、有難く受け取らせてもらうよ」
そう言って、クリスタルを受け取るヴァル。
それに満足したヘラは、ニッコリと微笑み、「バイバイ!」と手を振って走っていった。
姿が見えなくなった所で、姿を隠し、ヘラの後を追う。
無事に集落に辿り着いたのを確認したヴァルは、里には戻らずウルダハへと向かった。
一般人に変装し、彫金師の店に顔を出した。
「いらっしゃいませ、ご要件は?」
「このクリスタルを加工してペンダントにして欲しい」
「かしこまりました」
店にクリスタルを預けて1週間後に、ペンダントが完成した。
白い無属性クリスタルのペンダント。
ヴァルは大事そうにペンダントを身に付けた。
ヘラが9歳、ヴァルが14歳の時の出来事だった。
************
ラベンダーベッドのガウラの個人ハウス。
夕飯の片付けをし、ダイニングテーブルを拭きあげているヴァルの姿があった。
食後のコーヒーを飲みながら、目の前でテーブルを拭いているヴァルを見つめているガウラ。
目線はヴァルの首からぶら下がって揺れているペンダントだった。
「なんだ?そんなに見つめて…」
「いや、そのペンダント。いつも着けてるなぁと思って」
ガウラの言葉に、"あぁ、これか"とペンダントを摘み上げるヴァル。
「そう言うのを普段身に着けてるイメージが無いから、不思議に思ってさ」
「まぁ確かに、普段アクセサリーは身に着けることは無いな」
「だろ?でも、それだけはいつも着けてるからさ」
"大事な物なのか?"とガウラが問いかける。
ヴァルは懐かしそうに微笑み、ペンダントをギュッと握った。
「あぁ。あたいの宝物で御守りなんだ」
ヴァルの様子に、とても大事にしているのが伝わったガウラは"いいね"と微笑んだ。
「ヴァルの瞳の色と同じで綺麗だ」
「!?……ガウラ、それは口説き文句だぞ……」
「へ?!」
ヴァルの指摘に、驚き赤くなるガウラ。
「そんなつもりで言ったんじゃ…」
「ふふっ、わかっている」
「…からかったのかい?」
少し恨みがましい目で睨むガウラに"さあな?"と返すヴァル。
素直に感想を言っただけなのにとブツブツ不貞腐れるガウラ。
その様子が可愛くて、思わず小さく笑うヴァルだった。
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