A.やるべき事の後に…
バルデシオン分館のナップルームで、アリスとヘリオが積もる話をしていると、扉をノックされた。
会話を中断し、アリスが扉を開けると、そこにはグ·ラハの姿があった。
「グ·ラハさん。あ、ひょっとして、みんな集まったんですか?」
「あぁ。…あれ?ガウラは?」
「義姉さんは早速どこかで依頼を受けてたみたいで、30分ぐらい前に出ていきましたよ」
「ははっ!彼女らしいな。ガウラには俺からリンクパールで連絡するか…。アリスはメインホールで待っててくれ」
「分かりました」
連絡を取るために立ち去るグ·ラハ。
アリスはヘリオの方へ振り向いた。
「じゃあ、俺、行ってくるよ」
「俺もあと1時間位で賢学の講義が始まるから出る」
そう言って、ヘリオは席を立ちアリスの居る出口へ向かう。
アリスはそこで、すかさずヘリオを抱きしめた。
「!?」
「ヘリオ、いってらっしゃい」
そのまま軽く唇を重ねるアリス。
眉間に皺を寄せ、頬を軽く紅くしながら溜め息を吐くヘリオ。
「本当に変わらんな…あんたは…」
「ヘリオへの気持ちは変わんないよ」
ニッと笑うアリス。
溜め息を吐きながら首を横に振るヘリオ。
「じゃあ、講義頑張ってな!」
「あんたも、しっかりな」
そう2人で会話をして別れ、アリスはメインホールへと向かった。
************
メインホールに全員が集まると、クルルから状況説明があった。
オールドシャーレアンの議会が隠している事を調べる事。
そして、先日バルデシオン委員会にサベネア島の錬金術師、ニッダーナから依頼が来たという内容だった。
どちらもガウラが居ないと始まらないという事で、どちらから先に着手するかはガウラの判断に委ねられた。
そして、メンバーの振り分け。
調べ物組は賢人がいるといいという事で、グ·ラハとヤ·シュトラ、そしてアルフィノとアリゼーの立候補でこの4人が確定。
サベネア島組は、テロフォロイが出現させた塔の攻略の関係で、戦いの腕が立つ者として、サンクレッド、ウリエンジェ、エスティニアンが選出された。
「それで、フ·アリスくんなんだけど、どちらに選んでも問題ないって言うのを聞いているのだけど…」
「アリスは調べ物組でいい」
ガウラの有無を言わさない返答に、アリスが「えっ!」と声を上げる。
「なんでですかっ?!」
「お前は自分の調べ物もあるって言ってたろ。私は先にサベネア島の問題を解決しに行ってくる。その間に、その調べ物を進めとけ」
「で、でも…」
「人手が必要になったら連絡する。心配しなくてもいい」
「………」
キッパリと言われてしまえば何も言えず、不満顔のアリス。
だが、ガウラの言うことは正論だった為、渋々それを承諾した。
「分かりました…。その代わり、絶対に無茶はしないでくださいね?」
「あぁ、分かってるよ」
組み分けが決まり、ガウラは荷物を纏め、サベネア島へと向かった。
アリスは個人的な調べ物へ。
グ·ラハが、書物の貸出の手続きを申し出てくれた為、2人でヌーメノン大書院へと向かった。
大書院でグ·ラハが幾つか目星を付けて借りてきてくれた本を、外にある休憩スペースで読み耽る。
重要そうなところを手帳でメモしながら、黙々と読み進める。
今、読んでいるのはエーテルと記憶の関係の本。
10歳以前の記憶を持っていないガウラと、その友人であるナキの関係を知ったアリスは、ヘリオが持っている10歳以前のヘラの記憶を、ガウラに複写出来ないものかと考えていた。
それは友人であったナキとの思い出を、懐かしむ事が出来ないのは悲しいだろうという独自の判断だった。
時間を忘れて読んでいると、不意に声をかけられた。
「アリス?」
振り向くとそこにはヘリオの姿があった。
その後ろには、教授らしき年配の男性が立っていた。
ヘリオは教授らしき男性に一言断ってから、アリスの元に歩いてきた。
「講義終わったの?」
「あぁ。今、講義で気になった事があったから、その資料を借りに来たんだ。あんたの方は用事は済んだのか?」
「うん。バルデシオン委員会に来た依頼で、義姉さんはサベネア島に向かったよ。俺は留守番」
「そうか」
「人手が必要になったら呼び出すから、待ってる間は個人的な調べ物しとけって言われたよ」
少し不満そうなアリスの顔に、その時のやり取りが何となく想像ついてしまったヘリオは苦笑いをした。
「俺、しばらくここで借りて来て貰った本を読んでるからさ、帰る時にまだ居たら声掛けてよ。一緒に帰ろ」
「分かった」
そう返事をすると、ヘリオは教授らしき男性の元へと戻っていく。
その男性と目が合ったアリスは、立ち上がって会釈をすると、相手も会釈で返してくれた。
そして、再びベンチに座り本を読み始めるアリス。
こうして、あっという間に時間は過ぎていった。
************
陽が傾き、アリスがヘリオと合流した。
一緒に分館に向かって歩いていると、前方からグ·ラハが向かってきた。
ラストスタンドで食事をしようと誘われ、3人で食事をした。
食事中、エーテル学の話で盛り上がる。
そして、食事を終えて分館のナップルームに戻ってきた2人は借りてきた書物を置き、一息着く。
「ヘリオ、紅茶飲む?」
「あぁ」
アリスは紅茶を入れ始める。
その間にヘリオは本を開き、読み始めた。
「はい、ミルクティー。砂糖はいつもの量入れといたよ」
「どうも」
ヘリオにミルクティーを渡すと、アリスも隣に座り、本を開いた。
ページをめくる音と、メモを取る音が部屋の中を支配する。
時折、お互いに借りた本を交換したりして、時間が過ぎていく。
刻々と時間が過ぎ、22時になった頃、アリスが背伸びをした。
「んーっ!!もうこんな時間か…」
「時間が経つのが早いな…」
流石にヘリオも、ずっと同じ姿勢をしていたせいか、首筋を伸ばしている。
「そろそろ切り上げて寝るか」
「うん!」
そう言って寝巻きに着替え始める2人。
着替えを終えると、アリスはヘリオを抱きしめた。
「?!」
一瞬ビクッと体を震わせるヘリオ。
アリスは構わずそのままヘリオにキスをした。
「ヘリオ…、ずっとこうしたかった」
離れている期間が長いと、必ず降るキスの雨。
この流れで抵抗しても意味が無いと分かっているヘリオは、恥ずかしさを我慢し、されるがままだ。
止むことのないキスに、酸欠になりかけるヘリオ。
流石に息苦しくなり、アリスの胸をグッと押した。
「待て…っ、苦しい!」
「あ、ごめん。つい夢中になっちゃった」
苦笑しながら謝るアリス。
顔を真っ赤にしながら、呼吸を整えるヘリオ。
それを愛おしそうに見つめるアリスに、やれやれと言った感じで首を振る。
そのままベッドへと移動し、横になると、すかさず抱きしめられる。
そして、再び始まるキス。
それは、ヘリオが疲れで寝落ちするまで続いたのだった。
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