A.不満


バルデシオン分館にクリスタルを持ち帰ったアリス。
その表情は明らかに不機嫌であった。
原因は、義姉のガウラが自分を戦闘から遠ざけようとしていること。
身軽な服装に着替え、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。

「俺ってそんなに信用無いのかなぁ…」

実力を認めていると言葉で言われても、これではその言葉も疑わしい。
彼女が嘘など吐く性格ではないのは重々承知しているが、自信を失う。

「帰ってきてたのか」
「ヘリオ…、ただいま、そしておかえり」
「あぁ、ただいま」

アリスの様子に、現状を察したヘリオ。
アリスが横になっているベッドに腰掛けた。

「なぁ、ヘリオ」
「なんだ?」
「俺ってそんなに信用のないかなぁ…」
「……」

そんなことは本人に聞けと言う様に、沈黙するヘリオ。

「義姉さんの考えてる事は何となく分かるんだ。身内を危険に晒したくない、失いたくないって気持ち。俺も同じだからさ…」

アリスの言葉を黙って聞くヘリオ。

「ヘリオを護れって言われたこともあるけど、ヘリオは今、賢学を学んでて危険とは程遠いし。俺は義弟として、1番危険と隣合わせの義姉さんを護りたいのに…」

アリスは枕をギュッと掴む。

「頼る事をしない義姉さんが、そのうち周りの期待に押し潰されないか心配で仕方ないよ…」
「…それを本人に言ってやれ。ぶつかるかもしれないが、言わなきゃ伝わらんだろ」

ヘリオの言葉に、アリスは顔を上げる。

「俺は、姉さんの気持ちも、あんたの気持ちも理解してるつもりだし、口は出すつもりは無い。自分でそれを伝えろ」
「…うん。分かった。ありがとう」

アリスは体を起こし、ヘリオに抱きついた。

「もし喧嘩になって、俺が凹んだら、慰めてくれる?」
「…それは面倒だな…」

ヘリオの返事に“なんだよー!“と頬を膨らませるアリス。
小さく笑うヘリオ。

ヘリオに愚痴をこぼした事で、少し気が晴れたのか、その後は調べ物を再開し、ガウラの帰りを待つのであった。




とある冒険者の手記

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