A.目覚めた武人
月からキャンプに戻ってきたガウラ。
月に行っている間に何があったのか状況確認をしていると、医療班からアリスのことを聞かされた。
右脇腹に熱さを訴え、気を失ったまま、いまだに目覚めていない。
それを聞いたガウラは、険しい表情をしながら、アリスが搬送された医療室へと向かった。
部屋の前に辿り着くと、人払いを頼み、1人で入室する。
簡易ベッドに横になっているアリスの姿。
その姿とは裏腹に、見えているエーテルはアリスのモノではなかった。
警戒をしながら近寄ると、アリスが目を覚ました。
「う…んっ……この香りは……」
ゆっくりと身体を起こすアリスに、ガウラは警戒を解かずに言った。
「お前は誰だい?」
睨みつけるガウラに、アリスが顔を上げた。
すると、アリスは「ふっ」と微笑を浮かべた。
「人の名前を聞く時は自分から…と教わらなかったのか?」
明らかにアリスの口調ではないが、敵意は感じ無い。
警戒だけは解かずに、言った。
「身内の身体を乗っ取っている奴に、簡単に教えられる訳が無いだろ」
「かっかっかっ!それはごもっともだな!」
豪快に笑ったそいつは、ベッドの上で胡座をかき、ガウラを見据えた。
「私はカ·ルナ·ティア。お前さんはニアの力を引き継ぎし者だな?」
「!?」
思いもよらぬ名前に、驚きが隠せないガウラ。
その反応を面白そうに見ている。
「ニアとは違って表情が豊かだのう!して、名前は?」
再度聞かれ、ガウラは戸惑いながらも答えた。
「…ガウラ·リガンだ」
「ガウラか、なるほど!良き名だな!」
ルナのペースに呑まれ、呆気に取られるガウラ。
そんな事を他所に、ルナは言った。
「私がこうして目を覚ましたという事は、お前さんの中にいたニアが目を覚ましたのであろう?違うか?」
「もしかして、それがきっかけなのか?アリスが気を失ったのは…」
ルナは頷いた。
それを見て、ガウラは納得がいったようだった。
「カ·ルナ、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「ニアが、枷を外す術はお前が未来に託したと言っていた。その術を教えて欲しい」
「…ふむ」
ルナは考える仕草をし、そして言った。
「確かに、私はその術を私の血を濃く受け継ぐ者たちに託した。だが、すぐには教えられぬ」
「何故だ?」
「私の目覚めは、言わば保険なのだ」
「保険?」
怪訝な顔をするガウラに、ルナは真剣な顔で話し始めた。
「ニアが、妻が目覚めたという事は、時が来たということなのだろう。だが、私の血を受け継ぐ者達がその枷を外す時期なのか、それを見定める必要があるのだ」
ルナは淡々と話を続ける。
「私の血を受け継いでいるとは言え、妻の血も受け継いでいる。今まで武力だけで暮らしていた者達が、その感覚のまま魔力を手にしたら、どうなるか…分からないでもなかろう?」
「………」
「妻は枷を付けたことを後悔していた。だが、あの賢い妻が1度懸念し、封じた事は間違いでは無いと思っている。行き過ぎた力は、間違った使い方をすれば周りを巻き込む」
「だから、見定める…と?」
「さよう。この時代は私の生きてきた時代とは違う。私の子孫達がどのような考えを持ち、力をどの様に考えているのか、知る必要がある」
そこまで言って、ルナはニカッと笑った。
「と、言う訳だ!多少不便をかけるかも知れぬが、今暫くこの者の身体を使わせて貰い、お前さんに同行させて貰うぞ!」
半ば強引に決められてしまい、大きな溜め息を吐いたガウラ。
この説明しがたい状態に、軽く頭を抱えたくなったのは言うまでもなかった。
0コメント