V.その理由


終焉を唄う者を倒し、アーテリスに平和が訪れた。
世界を救った英雄ガウラは、冒険者として、脅威の去った世界を駆け回っていた。
少しはゆっくりすればいいのにと思うが、それが彼女らしさと言うべきか…

最近では、ウルヴズジェイルで新しい対人戦、クリスタルコンフリクトなるものが開催され、ガウラはそっちに入り浸っていた。

ガウラの個人宅、そこでヴァルは夕飯の支度を済ませ、ガウラの帰りを待っていた。
今日はいつもより、彼女の帰りを待ち遠しいと感じるヴァル。
そんな時、外で人の気配を感じた。

帰ってきた

玄関先で出迎えようと、足早に玄関へと向かう。

「ただい………ま?」
「おかえり」

ヴァルの姿を見て固まるガウラ。
次の瞬間、ガウラは家には入らずにそのまま扉を閉めた。
その反応に笑いをこらえるヴァル。
無理もない。
今のヴァルは、幻想薬を使って男の姿になっていた。
いつまで経っても戻ってこないガウラ。
ヴァルは、彼女を迎え入れる為に扉を開けた。

「いつまでそうしてるんだい?」
「ひゃあっ!?」

棒立ちしている後ろ姿に声をかけると、余程驚いたのか、小さく悲鳴を上げ、尻尾が膨れ上がった。
恐る恐るこちらへ振り返るガウラの様子に、ヴァルは再び笑いをこらえる。

「……ヴァル……なのかい?」
「そうだよ。ほら、中に入りな」

ヴァルに促され、戸惑っている様子で家の中へと入るガウラ。

「夕飯を温め直すから、その間にシャワーに行って着替えてきな」
「あ、あぁ…」

落ち着かない様子で小走りに浴室の方に向かうガウラ。
その反応が、なんだか可愛く思えて仕方がないヴァル。
夕飯を温め直し、テーブルに並べ終えたところで、タイミングよくガウラが戻ってきた。
そして、夕食を摂り始める。
食事の間、ガウラはヴァルから視線を外さなかった。
おそらく、得意の観察眼で可笑しなところが無いかを見ていたのだろう。
そのおかげか、食後のブレイクタイムには、少し落ち着いたようだった。

「なぁ、ヴァル」
「ん?なんだ?」
「どうして男の姿になったんだ?」

当然の疑問だろう。
冒険者達の中で幻想薬を使う者は、大半が「他の種族になってみたい」又は「顔を変えてみたい」と言うのが理由だ。
それを見た目は変わらず、性別だけ変えるのは珍しい。
ヴァルはストレートティーを口にしながら答えた。

「掟が無くなって自由になったからな。前に"一緒にいたい"と言ったと思うが、それと同時に、ガウラの旅にも同行したいと思ってね」
「それと男になったのに、なんの関係が?」
「今まで、"女"として暗殺家業をやってきたからね。あのままの姿だと、トラブルになりかねない」
「まぁ、そりゃそうだけど…」
「単純に顔を変えれば良いとも思ったんだが、ガウラは自分の女としての魅力を自覚してないみたいだしな。"悪い虫"が寄ってこないようにするには、性別を変えた方がいいと思ったんだ」
「いや、心配しすぎじゃないかい?」

困った表情でガウラは言うが、ヴァルは首を振った。

「心配の芽は摘んでおけと言うだろう?それと、性別を変えた理由はもうひとつある」

まだ何か理由があるのかと、溜め息を吐き、ヴァルの顔を見ると、雰囲気が変わった。
その変わりように、ガウラは驚いた表情になる。

「これまでの行動なんかで、あたいがガウラに好意を抱いているのは勘づいてるんだろ?」
「そりゃ…あれだけ態度に出てれば…」
「でも、それは"護る対象だから"とか、"一族の仲間意識的なモノ"とか、そういう風に捉えてるだろ?」
「……そうだけど……」

何が言いたいのかイマイチ掴め無い様子で答えるガウラに、ヴァルは静かに、だがハッキリと言った。

「あたい…いや、"オレ"は、お前を1人の女性として、恋愛対象として好きなんだ」
「………………へ?」

目を見開き、間の抜けた声を出す。
ヴァルは真剣な表情でガウラを
見ている。
からかいや冗談等ではないと理解したのか、顔が紅くなり、俯いた。
その様子に、ヴァルは小さく笑った。

「ガウラがオレをそう言う感情で見てない事は分かってる。でも、知ってて欲しかった。だから、今すぐ答えは要らない」

その言葉にガウラは顔を上げ、ヴァルを見る。
ヴァルは、いつもの優しい笑みを浮かべる。

「もしいつか、ガウラがオレと同じ気持ちになったら、その時に答えて欲しい」

そう言うと、ヴァルは席を立った。

「それじゃ、オレは母上に話があるから里の方に行ってくる。多分遅くなるから、先に寝ててくれ」

普段と変わらぬ様子で、そのまま出かけて行ったヴァルを、ガウラは理解が追いつかず、ただ呆然と見送ったのだった。





とある冒険者の手記

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