Another 白蝶草─出会い─


「ジャックさん、ただいま戻りました!」

リムサ·ロミンサにある双剣士ギルド。
任務から帰ってきたアリスは、マスターのジャックに挨拶をした。

「おう!アリス、お疲れさん!」

挨拶もそこそこに、アリスはジャックの隣に、見知らぬ女性が座っていることに気がついた。

「ジャックさん。そちらの方は?」

その女性は、ミコッテ·ムーンキーパー。
黄色と白のオッドアイ。
白銀の髪にうっすらピンクのメッシュが入っている。
肌の色も色白で、その女性の周りだけ、なんだか神秘的な雰囲気を感じて、思わず見惚れた。

「あぁ、アリスは会うの初めてだったな。こいつはガウラ·リガン。普段は吟遊詩人として世界を駆け回ってる英雄様だ」
「その英雄って言うの、やめとくれよ」
「はははっ!!」

ガウラと呼ばれた女性は、ジャックの言葉にうんざりした表情をする。

「で、この子がジャックの言う期待の新人かい?」
「あぁ、フ·アリス·ティアだ」
「初めまして」
「こちらこそ、初めまして」

お互いにお辞儀をする。
そして、ガウラは再びジャックの方に向き直る。

「で、私を呼び出した要件ってのはなんだい?」

そう聞くと、ジャックはニヤリとした笑みを浮かべる。

「実はな、フ·アリスに忍者のいろはを教えてやって欲しい」
「「……はい?」」

間の抜けた声を上げるガウラとアリス。

「いやな、アリスの働きぶりを見てたら、伸び代がまだまだありそうだったからな。双剣士のままにしておくのが惜しいと思ったんだ」
「…だったら、オボロに頼めば良いじゃないか」
「それが、最近あいつを見かけないんだ」
「………」
「頼まれてくれないか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!ジャックさん!」

待ったをかけたのはアリスだった。

「伸び代があるって言って頂けるのは嬉しいんですけど、なんで今なんですか?ガウラさんだって、忙しい合間を縫って来てくださったんでしょうけど、その貴重な時間を俺に割くのは申し訳ないですよ!」
「アリス、お前は確か、親父さんを探しにこのリムサに来たんだったな?」
「はい…そうですけど…」
「ここに来て半年、親父さんの情報が1つでも入ってきたか?」

ジャックに問われ、口を紡ぐ。
確かに、双剣士として半年働いているが、海賊である父親の情報は何一つ掴めないでいた。

「このリムサで情報が入ってこないとなると、お前の親父さんの活動範囲は相当広いことになる。なら、捜索範囲を世界に向けた方が良いと思ってな。」
「で、でも、まだ半年ですよ?せめて1年はここで仕事しながら情報を集めたいです。それに、忍者を教えて貰うにしたって、一日で何とかなるものでもないでしょう?ガウラさんだって、都合ってモノもあるでしょうし…」

そう言ってチラリとガウラの方に目線をやると、急に自分に話を戻された事でキョトンとしたが、直ぐに口を開いた。

「たしかに、教えるとなると一日じゃ無理だな。日を分けてってなると、今度は私の方が都合がつかなくなる。今、少し立て込んでてね、これからまた忙しくなりそうなんだ」

その言葉に"ほら!"と言わんばかりにジャックに視線をもどすアリス。
ジャックは肩を竦め、首を横に振った。

「やれやれ、肝心のガウラが無理なら仕方ないか」
「そうですよ、俺の人探しは別に急いでるわけじゃないですし、そのオボロさんって人と連絡取れ次第でも遅くは無いですよ」

"それもそうか"と納得したジャックはガウラに向き直った。

「すまんなガウラ。俺の先走りで時間を取らせた」
「いいさ、どの道、私も時間が取れなかったしな」

そう言うと、ガウラは荷物を持ち席を立った。

「それじゃ、私は行くよ。また、時間があれば寄るよ」
「あぁ。またな」

ガウラが出ていった直後、ヒラヒラと床に落ちる1枚の紙。
それをヴァ·ケビが拾った。

「これ、冒険者ギルドの依頼書じゃない!きっとガウラが落としたのよ!」
「え!それって、ガウラさんが困るんじゃ…」
「アリス!足速いんだから追いかけて!」
「うえ?!俺が!?」

突然の振りに慌てるアリス。

「ほらほら!早く!」
「えーー!!!」

ヴァ·ケビに押され、ギルドの外に追いやられるアリス、仕方なく依頼書を片手に周りを見渡すと、都市内エーテライトへと向かうガウラの姿を発見。

「ガウラさん!待ってください!」

その大声に、振り返るガウラ。

「落し物です!」

依頼書を上に上げてヒラヒラさせながら走り寄るアリス。
ガウラの目の前まで来ると、アリスは依頼書をガウラに差し出した。

「これ、ガウラさんの依頼書ですよね?」
「え?」

慌てて荷物を確認するガウラ。
どうやら依頼書が見つからなかった様で、そのままアリスが持っている依頼書の内容を確認する。

「たしかに、これは私が受けた依頼書だ。わざわざ届けてくれてありがとう、助かったよ」

礼を言って小さく微笑むガウラに、一瞬アリスの心臓は大きく鼓動を鳴らした。
それを誤魔化すかのように、アリスは慌てて言った。

「依頼書に気がついたのはヴァ·ケビさんなので、お礼なら彼女に言ってください」
「なら、代わりにお礼を伝えておいてくれ」
「分かりました!依頼、頑張ってくださいね!」
「あぁ、ありがとう」

ガウラは"じゃあな"と言うと、都市内エーテライトを使って去っていった。
ギルドに戻り、ヴァ·ケビにガウラがお礼を言っていた事を伝えた後、アリスは割り当てられた部屋のベッドに横になった。

「さっきのはなんだったんだろ…」

彼女の小さな微笑みを見た時の一瞬鳴った大きな鼓動。
あんな事は初めてだった。

「時間があれば、また来るって言ってたな……」

ガウラの言葉を思い出すアリス。
何故だが、その日が来るのが待ち遠しく感じている自分が、不思議でならなかった。



とある冒険者の手記

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