A.面影


ガウラが月から帰還し、アリスの中のカ·ルナが目覚めた後、暁のメンバーに軽く事情を説明し、オールド·シャーレアンへと戻ってきた。
ガウラと共にバルデシオン分館のナップルームへと向かうと、部屋にはヘリオの姿があった。

「ただいま」
「おかえり姉さん、アリス……じゃないな。誰だ」

アリスを見て、直ぐに異変に気がつくヘリオ。
ガウラが経緯を話すと、ヘリオは眉をひそめた。

「なるほど。という事は今はアリスではなく、カ·ルナが体の主導権を握ってるってことか」
「そうなるのう」
「今、アリスはどうなってる?」
「私を通して状況は見ている。私が役目を終えた後に困らんようにな」

カ·ルナの言葉に、ヘリオは小さく溜め息を吐いた。
ヘリオが状況を理解したのを確認したガウラは、いつものように部屋を後にした。
残されたカ·ルナとヘリオ。
ヘリオは、それを気にする様子もなく、椅子に座り、本を開き、書き取りを始める。
ルナも向かい側の椅子に座る。

何も言わず、ヘリオを見つめるルナ。
そのヘリオの無表情さが、どことなく無愛想だった妻に似ている気がして、目が離せなかった。
視線に気が付き、"なんだ?"とヘリオに言われ、ルナは軽く笑いながら答えた。

「いや、すまぬ!お前さんと、この体の主の関係が気になってな!お前さんと顔を合わせてから、主が中で騒がしくてな」

ルナの言葉に、アリスの状態が理解出来てしまったのだろう。
ヘリオは先程とは違い、大きな大きな溜め息を吐いた。

「アリスとはパートナーだ」
「なるほど、そうであったか。すまんな、お前さんのパートナーの身体を…」
「怪我をさせなければ、別に問題ない」

素っ気なく答えるヘリオに、やはり妻の姿と重なって、顔が綻ぶ。
その反応に、ヘリオは小さく首を傾げる。

「そうだ!ひとつ聞きたいんだが」
「なんだ?」
「アリスの武器に刀はないのか?」
「アーマリーチェストに入ってないか?」
「あーまりーちぇすと?」

ルナの反応にヘリオは席を立ち、アリスの荷物からアーマリーチェストを出して渡した。

「この中に武器、防具、装飾品が入っている筈だ」
「おお!そうなのか!」

ルナはヘリオに礼を言い、早速アーマリーチェストを開けた。
そして、入っている刀を見つけ、嬉しそうな表情になった。

「まさか、私の愛刀が入っているとはなぁ」

刀を手に取り、鞘から刀を抜く。
しっかりと手入れされたその刃は、何百年経ったものとは思えない程だった。

「あんたの血を引く一族の家宝だったらしい」
「ほう。家宝とな」

ヘリオの言葉に、愛刀が大事にされた事を知り、笑顔を浮かべる。
それを腰に携えると、ギアセットが発動し、装備が一新された。

「おお!これまた摩訶不思議な!」

驚きながら自分の姿を確認するルナ。

「うむ。服装も私が当時着ていた形に近い。これなら動きやすそうだ」

そう言って、部屋を出ようとする。
それを見て、ヘリオは声をかけた。

「何処に行くんだ?」
「いやな、この建物内の近くに、木人があったのを先程確認したのだ。少し肩慣らしをしておこうと思ってな」

ルナの返答に"そうか"と言い、ヘリオは本に視線を戻した。
そして、ルナは建物の外に出ると、木人を叩き始める。
徐々に生前の感覚を取り戻し始め、夢中になって木人を叩いていると、背後に気配を感じ振り向いた。
そこにはガウラの姿があった。

「おお!ガウラか…、用事はすんだのか?」
「あぁ。邪魔したみたいですまない」
「いや、構わぬ。…と、もう陽が暮れ始めていたのか」

空が黄昏に染まって居ることに気づき、自分が長く木人を叩いていたと知る。

「流石、黒き武人なんて言われてただけはあるね。思わず目が離せなくなったよ」
「そう言われると、なんだか照れくさくなるのう」

そんな会話をしていると、分館からヘリオが出てきた。

「姉さん、戻ってきたのか」
「あぁ、丁度今戻ってきたところだよ。お前はこれから出かけるのかい?」
「あぁ、一族の事で母さんに聞きたい事があってな。少し集落に戻る」

それを聞いたルナは、身を乗り出した。

「私も着いて行ってもいいか?」
「何故だ?」
「集落の現状確認と、私の血を濃く受け継ぐ者達に話をしたいのだ」
「…集落には黒き一族は住んでいないぞ」
「そこに住んで居なくとも、そこまで離れた所にいる訳ではあるまい。頼む」

ルナに頭を下げられ、ヘリオは溜め息を吐きながら、分かったと同行を了承しのだった。



とある冒険者の手記

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