A.魔力の枷の真実


黒衣森最奥にある白き一族の集落跡地に、アリスの身体を借りたルナは、ヘリオと共に訪れた。
ここに訪れる前に、ルナは中にいるアリスと情報を共有していたが、いざ跡地に来ると切なさが込み上げていた。
すると、小さな家から気配を察知したジシャが姿を現した。

「おや、ヘリオ…と、お前は誰だい?」

アリスの姿を見て、中身が本人じゃないと気付いたのは、流石白き一族と言うべきか。
ルナは自己紹介をし、事の経緯を説明すると、ジシャ驚いたが納得した。

「いやはや、なんと言うか…黒き武人に会う事があろうとはね」
「私も、こんな形で己の子孫に顔を合わせる事になるとは、妻と出会うまでは考えたこともなかった」

そんな雑談を交えながら、ジシャも自己紹介をし、本題に入った。

「それで、ここに来た要件はなんだい?」
「うむ。実は、私の血を濃く受け継いだ者達と話がしたいのだ」
「黒き一族の者達と?」

ルナは頷く。
そして、理由を詳しく話すと、彼女は"そういう事か"と腕を組んだ。

「それなら、少し待っていれば、此処にヴィラと言う黒き一族の者がやってくる。彼女は一族の代表だから、話すにはもってこいだろう」
「おお!そうなのか!それは運が良かった!申し訳ないが、此処で待たせて貰っても良いだろうか?」
「あぁ、構わない。…と言うか、ここはお前の住んでいた場所でもあるだろう?遠慮はいらないさ」

ジシャの言葉に"そうであったな"と笑うルナ。
ルナは適当な所に腰掛け、ヴィラを待つことにした。
その間、ヘリオはジシャと何か話しをしている様だった。

その時だった。

ルナの全身に悪寒が走った。
咄嗟にその場を飛び退くと、先程まで居た場所に、双剣を振り下ろした女が居た。
女が顔を上げると、その顔は感情が読み取れない、殺気も感じられない、なのに瞳だけは鋭く、ルナを捉えている。

(気配も殺気も感じられなかった…)

直感だけで飛び退いたものの、いつ襲いかかって来るかも分からず睨み合う形になる。
すると、ジシャから声が上がった。

「ヴィラ!そいつは敵じゃない!」

その言葉に、ヴィラは素直に武器をしまった。
だが、ヴィラはルナに対して怪訝な表情をし、口を開いた。

「貴様、何者だ?何故アリスの身体を使っている」

何度目かになる質問をされ、自己紹介と事情、目的を話した。
ルナの話を理解すると、ヴィラは呆気に取られた顔をした。

「にわかには信じ難いが、視えているエーテルがアリスと違うことを考えると…信じざる得ない…か」

ヴィラは片手で頭を抱えるが、直ぐに気持ちを切り替え、顔を上げた。

「それで、カ·ルナ様」
「あいや!様付け等せずとも良い。ルナと呼んでくれ」
「…では、ルナ。貴方の目的は我々に付いた魔力の枷を外す事と伺ったが…」
「うむ。お前さんは魔力を使いたいと思うか?」
「いえ。特には。と言うのも、元より魔力を使わずに生活してきたから、不便も感じなかった」

迷わずに即答するヴィラ。
それを聞きながら、思考を巡らすルナ。

「だが、若い者達はどうだ?」
「若い者達も同様です。私達黒き一族は、幼き頃より使命と生活の為、武力を磨き、魔力を必要としませんでしたので…」
「そうか…」
「ですが、これから産まれてくる次の世代はどうかは分かりません」
「と、言うと?」
「つい先日、私は一族の代表となり、掟と使命を廃止しました。これから外の世界で生きていく者達が子を成した時、今までとは違ってくる」

ヴィラは目を伏せ、胸に手を当てた。

「今までと違う新しい生活をしていく事になる新たな世代に、私達の背負ってきた業を、そのまま引き継がせたままではいたくないのです」

それを聞いて、ルナは満足したように頷いた。

「お前さんの考え、しかと承った。ならば、一族に伝わっている子守唄。あれも廃止する様、皆に伝えてくれ」
「子守唄を?」
「白と黒、どちらにも伝わっている子守唄。あれは魔力の枷の術式なのだ。妻は私の血に印を付けた。それが蝶の痣だ。その痣を持つ者のみに効果があるのだ」

ルナの説明に、ヴィラは納得したようだった。

「なるほど。だから妊娠が分かった時から唄うように習慣づけられたのか」
「うむ。胎児ならば、まだそれほど魔力を持っていないからな。枷を付けるのに母体の魔力消費が最小で済む…と妻が言っていた」

元々は一緒に住んでいた2つの一族。
その頃から根付いていた習慣の意味を理解したヴィラは、腑に落ちたようだった。

「枷の解除が必要ないとなれば、私の役目は終わった…この身体を主に返s…」
「ルナ、それは少し待っていただけないか?」
「?どういう事だ?」

ヴィラの静止に首を傾げるルナ。
すると、ヴィラは理由を話し始めた。

「実は、私には娘がいるのですが、娘はまだ掟が廃止された事を知りません。あの子はガウラを護る使命を受けている為、1箇所に留まっておらず、連絡のしようが無いのです」
「それを伝えて欲しいと?」
「それもなのですが、恐らく、あの子は枷を外したいと思っている筈なのです」
「ふむ」

ヴィラの言葉に、軽く頷くと、ルナは言った。

「あい分かった。そういう事であれば、役目は終わって無いのだな。しかと承った」
「ありがとうございます」

ヴィラはルナに頭を下げた。
そして、里へと帰って行った。
ルナはそれを見届け、ジシャとヘリオの方へと向き直る。

「さて、私の用は終わったが、ヘリオはどうする?」
「俺はまだここに居る」
「分かった。私は先に帰るとしよう。恐らく、お前さんが帰ってくる頃には、私は居ないであろう」
「そうか」
「少しの間だが、世話になった!ジシャも、急な訪問ですまなかった」
「気にしないでいいよ。こちらは貴重な体験が出来たからね」

ジシャの言葉に"恩に着る"とルナは言い、2人に別れを告げると、テレポでオールド·シャーレアンへと戻ったのだった。







とある冒険者の手記

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