A.この子は誰?


「アリス!やっと見つけたクポ!」

グリダニア新市街のエーテライトプラザ。
そこで名前を呼ばれアリスが振り向くと、それらしい人物が見当たらない。
声の主を探してキョロキョロしていると"どこを見てるクポ!!"と言われてしまった。

「下クポ!下を見るクポ!」
「下?」

視線を下げると、そこにはモーグリの着ぐるみを着た人物が仁王立ちしていた。
身長や体型的に、ララフェル族だと言うことが分かったが、生憎アリスにはララフェル族の知り合いに、着ぐるみを好んで着る人物はいなかった。

「え…誰?」
「クポ!?モグの事が分からないクポ?!」

そして、モーグリになりきっているのか、話し方までモーグリである。
アリスはヤバイ奴に絡まれたと、頭が軽くパニックになり始めた。
ララフェル族は何やら話しているが、今のアリスの耳には何も入って来ない。
そして、アリスの出した結論は、この場から逃げることだった。
悠々と話している相手を無視し、走り出した。

「あっ!待つクポ!話は終わってないクポー!!!」

後ろからそんな叫び声が聞こえるが、お構い無しに走り続ける。
グリダニア中を鬼ごっこのように走り周り、後ろからの気配が無くなったのを確認して、アリスは足を止めた。
手を膝につき、ゼェゼェと肩を揺らしながら息を切らしていた。

「さ、流石に…ここまで…来れば…追って…来ない…だろ…っ」

何とか呼吸を整えようと深呼吸をした瞬間だった。

「やっと追いついたクポっ!!」
「ぎゃぁぁぁあああああああっ!!!!!!」

撒いたと思っていた所に聞こえた声に、思わず驚き悲鳴をあげた。
そして、腰を抜かし地面に尻もちを着いた。

「な…っ、な…っ!?!?」

もう、驚きのあまりに言葉が出てこないアリスに、溜め息を吐くララフェル族。

「まったく、モグが話しているのに突然走り出すなんて、失礼にも程があるクポよ!!」
「だ……誰なんだ?!」
「さっき話したのに、聞いてなかったクポ?!」

ララフェル族は呆れた顔をしながら答えた。

「モグはピリスクポ!」
「へ?ピリス?」

ピリスはリリンが居た塔で一緒に暮らしていたモーグリの名前だった。

「え?だって、ピリスは……」
「モグはアリス達と会う前に、とっくに死んでたクポ。塔に居たのはモグの記憶で、魂は先にこの身体に生まれ変わってたクポ。記憶の役目が終わって、魂の元に記憶が戻ってから、ずっと探してたクポ!」

にわかに信じ難い出来事に、疑いの目を向けるアリス。

「じゃあ聞くけど、俺達と会った時、ピリスは何をしたか覚えてるか?」
「もちろんクポ!悪者だと思って、アリスに体当たりしたクポ!」

その事実を知っているのは、アリスとヘリオ、リリンと当事者だけだ。

「ほ、本当にピリスなんだ?」
「当たり前クポ!」
「そっか」

驚きはしたが、極小数しか知らない情報を知っているだけで、信じるに値した。

「それで、なんで俺を探してたんだ?」
「モグはリリンに会いたいクポ!ちゃんと元気にしてるか、心配だったクポ!」

赤子の頃から育ててきたリリンを心配する親心なのだろう。
当然の答えだった。

「分かった。じゃあ、俺に着いてきてくれ」
「クポ!」

アリスはピリスを自宅兼FCハウスに連れて行くことにした。


ミストにあるFCハウス。
室内に入り、自室の地下へと降りる。
そこには、ヘリオとお茶をするリリンの姿があった。

「ただいま」
「おかえり」
「あ!アリスお兄ちゃん!おかえりなさ………ぃ………」

アリスの後ろにいるピリスを見て、動きが止まるリリン。
だが、モーグリの着ぐるみのお陰か、物陰には隠れず、迷った表情をしていた。

「だ…誰?」
「誰だと思う?」
「え…私の知ってる人?」

リリンは恐る恐るピリスに近寄り、じっと見つめた。

「モグの事、忘れちゃったクポ?」
「………ひょっとして、ピリスなの?」

リリンがアリスの顔を見ると、アリスは頷いた。
それを見て、ピリスに視線を戻すと、ピリスは両手を上げてピョンピョンと飛び上がった。

「そうクポ!モグはピリスクポ!リリンに会いたくて生まれ変わったクポ!」
「ほ、本当にピリスなんだね!!」

ピリスと分かった途端、リリンの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。

「うわ~んっ!!ピリス、会いたかったよぉ~!!」

泣きながらピリスに抱きつくリリン。
突然泣き出したリリンに、ピリスは驚いた。

「クポ!?なんで泣いてるクポ?!そんなに外の生活は嫌だったクポ?!」
「違う、違うのっ、ピリスに会えて嬉しいのっ」

それを聞いて、ピリスはリリンが落ち着くまで背中を撫でていた。

リリンは泣き止んだ後、ピリスに塔から出た後の出来事を話し始めた。
嬉しそうに話すリリンに、うんうんと頷きながら耳を傾けるピリス。
それは、離れていた時間を埋める、親子の姿であった。





とある冒険者の手記

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