V.護る為に傷付けた心


※注意※
この話には暴力や性的表現があります。


ザトゥノル高原にある、帝国兵の隠れた拠点。
そこにいつくか点在する小さなテントの1つ。
そこに響き渡るのは、暴力と尋問であった。

「鎖に繋がれてしまえばただの人と変わらないなぁ?エオルゼアの英雄様」
「蛮族共が何を企んでいるのか吐いてしまえば楽になるぜ?」
「……知らないねっ!!」

柱に繋がれた手枷。
その手枷を付けられていたのは、ガウラ·リガンその人だった。
目の前でレジスタンスの1人を人質に取られ、ガウラはその代わりに捕まったのだった。
レジスタンスの動向を探るべく、ガウラに尋問と称して暴力を振るう帝国兵。
ガウラは、帝国兵に鋭い眼光で睨み付けながら、暴力に耐えていた。

「なんだその目付きはっ!!」
「うぐ……っ!!」

理不尽に思いっきり腹に蹴りを入れられ、呻くガウラ。
帝国兵は余程頭にきたのか、暴力を辞めない。
それを見て流石にヤバいと思ったのか、もう1人の帝国兵が止めに入った。

「お、おい!やり過ぎだ!死んじまったら元も子もないだろ!」
「………チッ!」

帝国兵は舌打ちをし、手を止めた。

「それに、交代の時間を過ぎてる」
「仕方ねぇな。まぁ、吐かせる時間はいくらでもある」

そう言って、2人がテントから出た直後だった。

「ぐはっ!!」
「がっ!!」

小さな悲鳴の後に、ドサドサッと物音がした。
そして、テントに入ってきたのは倒れた帝国兵2人を引き摺る、見知った人物だった。

「…ヴァ……ル?」

忍び装束に仮面。それは正しくヴァルだった。
ヴァルは帝国兵2人をテントの隅に置いやった。
その2人の兜と鎧の間、首の部分から鮮血が流れ、地面を染めた。
ヴァルは静かにガウラに歩み寄ると、苦々しく歯を食いしばった。
そして、ガウラの頬に手を伸ばした。

「すまない。あたいが至らないばかりに……っ」

小さくそう言い、手枷を外す為、ピッキングを始めた。

「なん…で…?」

まさか、こんな所にまでヴァルが来ているとは思わず、ガウラは声を絞り出した。

「あたいはお前を護る為に居るんだ。当然だろう」
「………っ!!」

その時、ガウラはヴァルの後方を見て目を見開いた。
それに気付いたヴァルが振り向いた瞬間。
ガァァアアンッ!と銃声が響いた。

「があっ!!」
「ヴァルっ!!」

銃から放たれた弾丸は、ヴァルの左肩に命中した。
そして、再び響く銃声。
次に右足を撃たれ、地に片膝を着いた。

「交代の奴らが遅いと思ったら、鼠が紛れ込んでいたとはな…」
「……くっ……」

銃を構えた帝国兵の後ろから、更に3名の帝国兵がテント内に入ってきた。
甲冑の種類的に、銃を持っているのが上官だと言うことが分かる。
すると、上官は片膝を着いて動けなくなっているヴァルに近づき、胸倉を掴んだかと思うと、そのまま3名の帝国兵の方へと投げた。
小さな砂煙を上げて地面を転がるヴァル。
何とか立ち上がろうと、地面に手を着いた時、上官はガウラの顎を持ち上げた。

「ふむ。エオルゼアの英雄がどんな奴かと思っていたが、なかなか良い顔をした女じゃないか」
「!?」

上官のいやらしさを含んだ言い方に、ガウラの全身に悪寒が走る。

「その子に手を出すなっっ!!!!」

ヴァルの怒声。
それを聞いた上官は、ヴァルの元に歩み寄り、左肩の怪我を踏みつけた。

「あがぁっ!!」
「自分の立場ってものを分かってないらしいな?」

そのままグリグリと肩を踏み付けられ、ヴァルは呻く。
そして、上官は言い放った。

「そんなに英雄様を助けたいなら、どうすればいいか分かるだろう?」

それを聞いたガウラは、アレンヴァルドの出生の話を思い出し、全身から血の気が引いていく。
それとは裏腹に、ヴァルは弱々しく、だがハッキリと答えた。

「あたいはどうなっても構わない…、だから、その子には手を出さないでくれ…っ」
「それが人に物を頼む言葉遣いか?ああっ?!」
「ぐあっ!!」

再び肩を思いっきり踏みつけられ、呻くヴァル。
そして、絞り出すように言った。

「あたいを…好きにしてください…だから、その子だけは手を出さないでください…お願いします……」

ヴァルの言葉に満足したのか、上官は笑いだした。

「健気だなぁ?まさにお涙頂戴ものだぁ!」

そう言って、上官はヴァルから離れ、ガウラの近くに移動した。

「自分から志願したんだ。自分で身を差し出せよ?」

上官の言葉に、ヴァルはよろよろと立ち上がり、ガウラに背を向け、仮面を外し、忍び装束を脱ぎ始めた。

「──ろ…っ!」

その光景に、ガウラが声を発した。

「やめろっ!!」

繋がれた鎖がガチャガチャと音が鳴るほど、ガウラは暴れる。
それが聞こえないかのように、ヴァルは装備を脱ぎ捨てていく。
そして、全てを脱ぎ終えると、帝国兵の1人がヒュ~ッと口笛を鳴らした。

「娯楽もない戦場で、自らお前達の相手になってくれるそうだ。存分に楽しめ」

上官のその言葉に、3人の帝国兵も甲冑を脱ぎ、ヴァルを囲んだ。
1人がヴァルの背中を蹴り、その衝撃で彼女は倒れ込む。
それと同時に、3人はヴァルに群がった。

「やめろっ!そいつは関係ないだろっ!!やめてくれっ!!」

必死に叫びながら暴れるガウラ。
その時、ヴァルと目が合った。
ヴァルは"大丈夫だ"と言うかのように、うっすらと笑みを浮かべた。
ヴァルがこれまでしてきた仕事の事を考えれば、造作もない事なのだろうが、自分が捕まったばかりに繰り広げられる現状に、ガウラは自責の念に蝕まれる。
ヴァルは無表情のまま、されるがままだ。
すると、帝国兵の1人が言った。

「無反応じゃ面白くねぇな。やっぱ英雄様の方が良いか?あっちの方が良い反応してくれそうだなぁ?」

それを聞いたヴァルは、その帝国兵の腕を咄嗟に掴んだ。
それを見て、ニヤリと笑う帝国兵。

「なんだぁ?そんなにあっちに手を出されたくなかったら、しっかり良い声で鳴けよ!!」
「わ…分かった……」

そこから、ガウラにとって地獄だった。
色慾にまみれ、ヴァルの身体を弄び、煽る男等。
響くヴァルの声。
目も耳も塞ぎたくなったガウラは、思わず顔を背けた。
だが、それを上官が許す訳もなく、彼女の顔を行為が行われている方へと向けさせる。

「しっかり見ろよ、英雄様。あんたの身代わりになったお仲間の姿をなぁ」
「─っ」

下唇を噛み、泣きそうになるのを必死で堪えているガウラの唇から血が流れる。
その光景は、帝国兵達が満足するまで続いた。


***********


鎖に繋がれたまま項垂れるガウラと、少し離れた所で後ろ手に手枷を着けられ横たわるヴァル。
満足した帝国兵達は、テントから立ち去っていた。

「うっ……くっそ……好き放題しやがって………」

傷の痛みに顔を顰めながら、目を開けるヴァル。
そのまま、自分の衣類がある所まで這いずっていき、ピッキング道具を取り出し、自分の手枷を外した。
よろよろとそのまま立ち上がり、ガウラの元へと向かった。

「ガウラ…すまない。嫌なモノを見せた……」
「……」

項垂れたままのガウラの身体が、震えているのが分かる。
そして、ガウラはか細い声を発した。

「…めん…ごめん…」
「ガウラ…あたいは大丈夫だ。それに、あたいがただやられっぱなしな訳がないだろ?」

その言葉に、ガウラがゆっくり顔を上げると、ヴァルは手を頭の後ろに持っていき、三つ編みから鍵を1本取り出した。
それを見て、目を丸くするガウラ。
それに構わず、ヴァルは鍵を使い、ガウラの手枷を外した。

「あたいにとって、身体も道具の一つだ」
「で…でも…」
「こんな事は裏稼業では日常茶飯事だ」
「………」

それでもガウラの顔色は晴れないのは仕方ないと理解しているヴァル。
ヴァルは、自分の衣類の所まで戻ると、ガウラに1本のハイポーションを投げて寄こした。

「そんな傷だらけの顔じゃ、拠点に戻った時に大騒ぎになる。使え」
「ヴァルの方が…」
「自分の分もある。気にせず使え」

そう言われ、ガウラは大人しく従った。
その間に、ヴァルは腰布を手にし、それを口に咥えた。
そして、何やら道具を取り出し、呼吸を整え、右足の傷に道具を差し込んだ。

「ぐぅ………っ」

道具を引き抜くと同時に、地面に落ちる弾丸。
ふーっふーっと息をし、次は左肩に道具を突っ込み、同じように弾丸を取り出した。
それが終わると、もうひとつのハイポーションを取り出し、傷口に掛ける。
軽い止血が出来たあと、傷口に布を巻き、忍装束を着る。
そして、最初に息の根を止めた2人のうち、1人の帝国兵から甲冑をひっぺがすと、それをガウラに渡した。

「これを着ろ。ここから脱出する」
「……わかった」

ガウラが甲冑に着替え終えると、ヴァルは自分に手枷を着けろと支持した。

「捕虜を搬送すると言って、魔導兵器で移動するんだ。兵器起動用のIDは甲冑の腰に着いてる」

ヴァルの言葉に頷き、後ろ手に手枷を着けた。
その作戦は難なく成功し、魔導アーマーに乗って脱出した2人は、隠れた拠点から遠く離れた所で魔導アーマーを乗り捨てた。
ガウラは甲冑を脱ぎ、ヴァルは自分で手枷を外す。
そこからは徒歩でレジスタンスの拠点へと向かう。
無事に拠点に辿り着くと、ミコト、シド、バイシャーエン達がガウラの元に駆け寄り、ガウラの無事を喜んだ。

「それにしても、1人で抜け出してくるとは恐れ入ったな」

シドの言葉に、ガウラは首を横に振った。

「いや、助けてくれた奴が……あれ?」

言いながら振り返ると、そこにはヴァルの姿はなかった。

「どうした?誰かいたのか?」
「………いや、なんでもない」

ガウラはそう答えた。
そして、ガウラを心配したミコトやバイシャーエン達に促され、レジスタンスの医療班の元に向かったのだった。


************


ザトゥノル高原での出来事から数日が経った。
あれ以来、何も無い時はいつも傍にいたヴァルが姿を見せない。
最後に会った時の状況が状況なだけに、あの後に何かあったのでは無いかと、ガウラは心配で仕方なかった。
そんな時だった。
不意に、玄関の扉が開く音がしたと同時に、数日ぶりに聞く声がした。

「ただいま」

その声に、ガウラは弾かれるように声の主の元へと向かった。
そこには、ヴァルの姿があった。

「……ヴァ……ル………」
「!!お、おい。なんて顔をしてるんだ」

ヴァルを見た瞬間に、ガウラの目からボロボロと涙が溢れた。
それを見て戸惑うヴァル。
ガウラはヴァルを睨み、口を開いた。

「こんの馬鹿!!あれ以降姿も見せないで、どれだけ僕が心配したと思ってるんだっ!!」
「!?」

泣きながら激怒するガウラに驚くヴァル。
更に、感情的になったガウラの一人称が変わった事にも驚いた。

「す、すまない…。傷の回復に少し時間がかかったんだ…」

困惑しながらも事情を説明するヴァル。
だが、ガウラは止まらない。

「それに!お前は以前、僕に自分を大事にしろと言ったよな?!なら、お前も自分を大事にしろっ!!」
「…………」
「お前は今まで裏稼業で身体を道具として使ってたと言っていたが、今は裏稼業は免除されてるんだろうっ!!なら、身体を道具として使うのは辞めてくれっ!!」

ガウラの悲痛な叫び。
ガウラの言葉は、誰にも言われたことの無い言葉だった。

ヴァルにとっては、それが当たり前。
でも、それが一般的な事では無いことは理解していた。

だが、それがあたり前ではないガウラの前で晒してしまったこと。
それが彼女の心を深く傷付けたこと。
何より、ガウラが泣いて怒るほど自分を心配してくれていたこと。
ヴァルの中で、後悔と嬉しさという相反する感情がごちゃ混ぜになる。

「いくら僕を助ける為とはいえ……あんなっ……」
「ガウラ、もういい。あたいが迂闊だった。本当にすまなかった」

ヴァルはそう言うと、ガウラを抱きしめた。

「辛い思いをさせてしまって、悪かった…」
「……うん……」
「こんなあたいを心配してくれて、ありがとう」
「……うん……」

腕の中で泣き続けるガウラの頭を、ヴァルは優しく撫でる。
それは、ガウラが泣き止むまで続いたのだった。



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