V.名前


アーモロートにある創造物管理局。
その局長室に、ヒュトロダエウスとアゼムの姿があった。

「わざわざ来てもらって悪いね」
「いや、いいさ。所で要件は?困っていると聞いたが…」

何故、彼女がここに居るかと言うと、ヒュトロダエウスからのSOSが届いたからだった。

「実はね、遠い親戚の子を一時的に預かっているんだけど、少しやんちゃな女の子なんだ。私もここの仕事があるし、四六時中見てる訳にもいかなくてね。君がもし大丈夫なら、少しの間代わって貰えないかと思ってさ」
「なるほど…僕は別に構わないが…」
「本当かい?!助かるよ!」

ヒュトロダエウスがそう言った瞬間、隣の部屋から大きな物音がした。
その音に、珍しく慌てた顔をして部屋に向かうヒュトロダエウス。
アゼムはそれを追った。
そして、部屋に入るなり、ヒュトロダエウスは嘆いた。

「あちゃ~、これまた盛大にやってくれちゃったねぇ……」

アゼムがヒュトロダエウスの後ろから顔を出し室内を見ると、記録媒介のクリスタルが散乱し、その中で1人の幼い少女が座り込んでいた。

「応接室で待っててって言ったじゃないか」
「……だって、つまんなかったんだもん………」

少し不貞腐れた表情で俯く少女。
ヒュトロダエウスは苦笑いをしていた。

「ここは資料室だから、入っちゃダメだって教えたでしょ?」
「………」

優しく注意されて黙り込む。
その様子を見て、アゼムは少女に歩み寄ると、彼女に目線を合わせた。

「ダメだと言われた場所に入ったんだ。きちんと謝りな?」

アゼムが静かにそう言うと、少女は少し驚いた表情を見せたあと、ヒュトロダエウスの方に顔を向けた。

「おじちゃん………ごめんなさい……」
「うん、いいよ。クリスタルも壊れてないみたいだし…。あとおじちゃんはやめてくれないかなぁ??」
「ふふっ」

小さく笑うアゼムを見て、少女はアゼムの頬に手を伸ばした。

「?なんだい?」
「お姉ちゃん、笑うと可愛いね!」
「へ?」

唐突に言われ、頬をうっすら赤く染める。
ヒュトロダエウスはそれを見て、"おやおやぁ?"と面白そうに笑いながらアゼム顔を覗き込んだのだった。


少女の名前はアテネ。
彼女の両親は植物関係の仕事をしているとの事だった。
両親は仕事の関係で、少し危険が伴う地域に赴いているらしく、子供は連れて行けないと言う理由で、ヒュトロダエウスに預けられたのだという。
両親の帰宅は2~3日後。
それぐらいならと、アゼムはアテネの子守りを引き受けた。
そして今、アゼムとアテネは植物園に来ていた。

様々な植物を見て周り、休憩エリアに着いた時、アテネのテンションが上がった。

「ねーねー!お姉ちゃん!見てみて!すっごい綺麗だよ!」
「これは、凄いな……」

そこは、色とりどりの花が絨毯のように広がっていた。
近くにあるベンチに腰掛けると、そよ風が髪を揺らす。
すると、アゼムの隣にアテネも腰掛けた。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?なんだい?」
「お姉ちゃんってお名前なんて言うの?」
「アゼムになる前は、ハイレシスと呼ばれる事が多かったよ」
「えー!異端なんて酷い!お姉ちゃん、とても素敵なのに!」
「ははっ…」

事情を知らないアテネに、苦笑いを返すアゼム。
すると、アテネはいい事を思いついたかのような顔をした。

「お名前がないなら、私が付けてあげる!ハイレシスなんかより、ずっと素敵な名前!」
「へ?そ、そうかい。じゃあ、お願いしようかな?」
「任せて!」

アテネの子供特有の突拍子もない提案に、とりあえず乗ってみる。
どんな名前が良いかと悩んでいるアテネ。
その時、一瞬強い風が吹き、2人のフードが外れた。
風に靡く、白にうっすらピンクが混ざったアゼムの髪を見た瞬間、アテネがボソリと呟いた。

「…ガウラ…」
「え?」
「お姉ちゃんの名前!ガウラにしよう!」

突如決まった名前に、キョトンとする。
すると、アテネは話し始めた。

「あのね!前にお母さんが作ったお花がね、お姉ちゃんの髪の色と同じだったの!とっても可愛いお花なんだよ!」

嬉しそうに語るアテネ。

「その花のお名前なの!お姉ちゃんにピッタリ!」
「そうかい。素敵な名前をありがとう」
「うん!えへへ!」

微笑み合う2人。
その名前は2人だけの秘密の呼び名になったのだった。


**************


バルデシオン分館の近くに生えた木の上で、ヴァルは目を覚ました。
空を見ると、東の空がうっすらと明るくなり始めていた。

「なん…だ?今の夢は……」

そう呟き、ガウラが寝ている部屋の窓に視線を送る。
今見た夢はなんだったのか。
だが、夢に出てきたアゼムとヒュトロダエウスの名前。
それだけで古代の時代の事なのだと推測できた。

「そうか…アテネは、あたいか…」

そう理解した瞬間、古代の時代にガウラと接点があったことが嬉しく感じた。

「ガウラ…か。こんな繋がりがあるなんてな…」

そう呟き、次第に明るくなる空を見つめ続けた。



とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

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