V.久しぶりの達成感
枷が外れてすぐ、ルナは消え、アリスが戻った。
そのアリスに、ヴァルは頼みがあると言って外に連れ出した。
「ヴァルさん、頼みって?」
アリスの言葉に、ヴァルは目を見据えて答えた。
「あたいに、白魔法を教えて欲しい」
ルナを通して話を聞いていたアリスは、なるほどと納得した。
ヴァルのその気持ちは、痛い程理解出来た。
アリスも、白魔道士を始めたきっかけは“ヘリオを護りたい“と言う気持ちからだったから…。
「分かりました。じゃあ、基本から始めましょう」
アリスはそう言うと、手早く幻具を作りヴァルに手渡す。
そして、白魔道士にジョブチェンジした。
「白魔法を使う基本は知ってます?」
「精霊の力を借りるんだろ?」
「さすがヴァルさんですね!そうです、精霊の声を聞き、力を借りて浄化や癒しの力を使うのが白魔法の基本です。能力の高い人は精霊の声を聞けるらしいですけど、そういった人は極稀だそうです」
アリスが簡単な説明をすると、ヴァルが口を開いた。
「グリダニアの角尊がその例か…」
「そうです。彼等は特別らしいですね。では、声を聞けない人達はどうするか?意識を集中して環境エーテルに感覚を研ぎ澄ませば、精霊の存在は感じられます」
「なるほど、精霊の存在を感じて力を使うのか」
「はい。まぁ、俺達の祖先であるニアが精霊の声が聞けた事を考えると、存在を認識するのは簡単に出来ると思います」
アリスの言葉に、ヴァルは顎に手を当てた。
「ふむ。お前の時は簡単に認識出来たのか?」
「はい。不思議と“あ、いるな“って感じで直ぐに…」
「そうか…」
「ただ、ヴァルさんは枷が外れたばかりなので、どう感じるかは分かりませんけど…。でも、エーテルを見ることに特化しているなら、意外とすんなりイケるかもしれません」
「…やってみるか…」
ヴァルは意識を集中させる。
環境エーテルの中に、何か普段と違うモノを感じた瞬間、一瞬だが右の内腿に焼けるような痛みを感じ、顔を顰めた。
「っ!?」
「ヴァルさん?!どうかしました?!」
「……なんでもない……」
ヴァルは平気だと言うように首を横に振った。
アリスは心配な表情をしていたが、追求したところで彼女が答えない事は分かっていた。
「じゃあ、続けましょう。何か感じられました?」
「あぁ、何となくそれっぽいものは感じた」
「そしたら、イメージをしてください。魔法の発動の基本はイメージです」
そう言って、アリスはナイフを手に取り、人差し指に小さな傷を作った。
「まず、ケアルを使ってみましょう」
「分かった」
アリスの人差し指に片手をかざし、ヴァルは目を閉じた。
先程と同じ様に意識を研ぎ澄まし、存在を認識する。
そして、イメージをした。
その時、ガレマルドの地で決意した想いが溢れた。
必ず護り抜く!
ガウラも
彼女の心も
彼女と共に戦う者達も!
その想いと、傷が治るイメージが重なり、ヴァルの手のひらから緑色の光が発せられた。
みるみる塞がる指先の傷。
そして、傷が完全に塞がると同時に、左内腿に焼けるような痛みが襲う。
先程よりも少し長い痛みだった。
「ぐっ………」
思わず痛む右内腿を抑える。
「ヴァルさん!?大丈夫ですか!?」
「……平気……だ………っ」
痛みが引き、脂汗を浮かべながら立ち上がる。
「おそらく、痣に変化が起きてる。お前の痣が白く染ったように」
「え?白く?」
「…そうか、お前、あの時気絶して、それから痣を確認してないのか」
ヴァルはアリスに、脇腹を確認してみろと促す。
言われた通りに服を捲り、脇腹を見ると、痣は白くなっていた。
「あの時、お前は熱いとのた打ち回ってただろ?」
「えぇ。物凄い熱さで焼けるんじゃないかと思うぐらいの感覚でした」
「痣が白く染まり切った時、お前が苦しんでるのが止まった。そのことから、あたいの痣も今、少しずつ白く染まって来ているはずだ」
「なるほど」
ヴァルの説明に納得するアリス。
そして、治った指先を見て、アリスは話を戻した。
「それにしても、凄いですね。初めてなのに、ちゃんとケアルが発動しました!」
「簡単に出来ないもんなのか?」
「人によっては、イメージするのが苦手だったりすると、発動しないことがあるそうです」
「ふーん、そうなのか…」
「あとは、明確な強い意思も関係するそうです」
「………」
「それより、体調はどうですか?倦怠感とかないですか?」
「それは大丈夫だ。枷が外れ始めているお陰だと思う」
「なら良かった!」
初めてのケアルを成功させ、体調にも変化がない事が、嬉しかった。
その達成感は、懐かしい感じだった。
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