V.高みへ
白魔法の修得がある程度終わったヴァルに、アリスから連絡が届いた。
ガレマルドの方で月に避難しようとした人達が、突如起こった終末によって大混乱しているとの事だった。
少し前に終末の状況と、ガウラが古代へと向かったのは聞いていたが、アリスが連絡をしてくるということは、相当状況は思わしくないのであろう。
以前のヴァルであれば、ガウラがそこに居ないのであれば、興味もない出来事だ。
だが、ガレマルドで救えなかった命に暗い顔をしていたガウラを思い出し、彼女の愁いを少しでも無くす為、ヴァルはガレマルドへと向かった。
オールド·シャーレアンの議員が避難を誘導していることを想定し、議員服を纏い、髪は降ろし、幻具を装備し現地へ向かった。
避難民の誘導は、それは酷い有様であった。
逃げ惑う人々に襲い来る異形の魔物。
それに恐怖し、連鎖的に異形の魔物になる避難民。
この惨状に、流石のヴァルも額から冷や汗が流れていた。
「な、なんなんだこれは…」
あまりの酷さに戸惑いを隠せない。
だが、事前の情報で、不安や恐怖という負の感情が魔物になるきっかけを与えると知っていたヴァルは、いつものように感情を殺した。
そして、魔物に襲われている者を助け、怪我をしている者には怪我を回復させ、フルシュノの元へ行くよう誘導する。
周りを見ると、暁の双子と、竜騎士、赤髪のミコッテと、アリスとヘリオの姿を見つけた。
武器を双剣に持ち替え、議員服のままアリスとヘリオの元へ向かう。
「戦況は?!」
「!?あまり芳しく無いです!人々を宥めながらだと、なかなか戦闘に集中出来なくて!」
「人を宥めるのはあたいに任せて、お前は戦闘に集中しろ!」
「分かりました!」
「ヘリオは引き続き、アリスのサポートを頼む!」
「あぁ!」
何とかこの混乱を収めようと、必死に戦っている中、更なる援軍が現れる。それは、ヴァルには見知った顔ばかりだった。
忍び装束を来た集団。
その集団が、異形の魔物を殲滅していく。
「ヴァル!アリス!」
「は、母上?!」
「ヴィラさん?!」
「魔物の殲滅は私達に任せて、人々の誘導を!」
「承知した!」
「分かりました!ヘリオ!俺達は避難民の誘導にまわるぞ!」
「わかった!!」
避難民を宥めてフルシュノの結界へ誘導していると、場の空気が一変した。
そこに現れたのは、古代に行っていたはずのガウラ·リガン、その人だった。
それまでの張り詰めていた空気を変えてしまうほどの存在。
(あぁ、だから英雄と言われてしまうのか…)
ヴァルは複雑な気持ちになった。
ただの冒険者を望む彼女が、意図せず英雄と呼ばれるほどの存在感を持っていること。
そして、それを誰もが心の拠り所にしていること。
それを、戦いの渦中で感じ取ってしまった事が悲しかった。
彼女はその場に留まる白き花等ではない
何処までも高く飛んでいく白き蝶の様だった
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ガウラが参戦したことで混乱は収まり、避難民は1度オールド·シャーレアンへと移動することとなった。
暁のメンバーとガウラ達がフルシュノ達と移動していくのを影から見届けた後、ヴァルは身を潜めていた黒き一族の者達と合流した。
「母上、みんな、感謝する」
「私なりのケジメだ。これが黒き一族として最後の使命だと。それに皆賛同してくれてね」
ヴィラがそう言って皆を見ると、揃って頷いた。
「ですが、どうやって情報を?」
「ザナだよ。あの子は情報収集に長けてるからね」
それを聞いて納得したヴァル。
そして、ヴィラは続けた。
「掟が無くなったのは知ってるね?」
「はい。カ·ルナ様から伺いました」
「これからはお前の好きな様に行動できる。定期連絡も、もう必要ない。自由に生きなさい」
「…………はいっ!」
ヴァルの返事を聞き、ヴィラは笑みを浮かべて頷き、一族の者達と去って行った。
ヴァルは、新たな決意をしていた。
─飛ぼう
黒き蝶の名に恥じぬよう
あの白い花であり、白い蝶である彼女と共に居られるように─
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