V.なりたい存在
冒険に疲れたガウラが休息期間に入り、それを見守る生活が続いていた。
終焉を唄う者との戦いを考えれば、英雄としての名声が世界中に広がり、ただの冒険者として旅が出来なくなるのも仕方ない。
だがそれは、彼女にとってかなりの重圧であり、大好きな旅すら出来なくなる程のストレスだった。
もともと、そう言った辛さなどの負の感情を口にすることをしてこなかった彼女は、パートナーのヴァルにも、それを打ち明けられなかった。
ヘリオから事情を聴き、これからは彼女の様子で変化があれば、すぐに話せるように声をかけるようにしないとと、考えを改めるきっかけとなった。
そして、もう一つ。
彼女は人を頼る、人に甘えるということを得意としない。
甘えることに関してはヴァルも得意ではないが、こんなにもストレスを抱えているのに頼ってもらえず、甘えても来ないのは、彼女のプライドなのか?はたまた、そういった考えが全くないのか?なんにせよ、ヴァルにとっては悩みの一つだった。
今日も何をするわけでもなく家でボーっとしているガウラ。
ヴァルはソファに座り、彼女を呼んだ。
「ガウラ」
「んー?なんだい?」
呼ばれてヴァルの方を見るガウラに、ヴァルは手招きをする。
首を傾げながらヴァルの元に歩み寄る。
そして、ヴァルはここに座れと言わんばかりに、自分の隣を手でポンポンと叩いた。
いまだにヴァルの意図が理解できないガウラは、不思議そうに指示に従い隣に座る。
すると、今度は自分の膝の上をポンポン叩くヴァル。
流石にガウラはこの意味が理解できず、口を開いた。
「なんだい?」
「頭、ここに乗せろ」
「はい?」
「膝枕だ」
「はあ?」
露骨に驚いた表情をする彼女に、「ほら、早くしろ」と膝をポンポンと叩く。
ガウラは渋々といった感じで、体を横にし、ヴァルの膝に頭を乗せた。
「足、降ろしてたら姿勢が辛いだろ。足もソファに乗せろ」
「……」
言われた通りに足もソファに乗せ、完全にソファで寝る体制になった時、ヴァルはガウラの頭を優しく撫で始めた。
「…どうしたんだい、急に…」
「色々疲れて辛いはずなのに、お前が甘えて来ないからだ」
「そ、そんなことで?」
「あたいにとっては大問題だ。この世で一番大事なパートナーが疲弊してるのに、頼ってもらえない、甘えてもらえないなんてな」
「………」
「だったら、強制的に甘えさせるしかないだろ?」
文句に近い言葉だが、表情や声色は優しかった。
それを見て、ガウラは困った表情した。
ヴァルは頭を撫でながら続けた。
「お前がそういった行動をするのが苦手なのは理解してる。だから、少しずつ慣れていってもらおうと思ってる」
「それが、膝枕かい?」
「あぁ。ベターかもしれないがな。なんなら子守歌も歌おうか?」
「歌えるのかい?」
「本職のお前には劣るとは思うがな」
「聞いてみたいな」
ガウラの返事に、ヴァルは彼女の頭を撫でたまま歌い始めた。
一般的な子守歌。
ハスキーボイスで優しいその歌声は、相手を想う気持ちがこもっていることにガウラは気が付く。
それに気付き恥ずかしくなるが、優しい歌声と優しく撫でられる感覚に、次第と瞼は重くなり眠りに落ちた。
小さく寝息を立て始めたガウラを見て、ヴァルは愛おしそうな表情をした。
「おやすみ、ガウラ」
ヴァルは、ガウラが次に目覚めるまで、彼女の頭を優しく撫で続けたのだった。
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