V.英雄の重圧

最近、旅から帰ってくるガウラの顔に疲労が見え始めているのに気が付いた。

終焉を唄う者を倒し、アーテリスを救った英雄としての名声は瞬く間に広がり、彼女の望んでいない肩書は本人の意思とは関係なくのしかかってくる。

世界を救った直後は、クリスタルコンフリクトに籠ったり、他のことに勤しんでいたガウラだったが、最近は家でゆっくりすることが増えてきていた。

それでも旅をしたい気持ちはあるようで、ヴァルは彼女のやりたいようにさせていたが、旅に出る度に疲労の色が濃くなる彼女を心配はしていた。

それを敢えて指摘しなかったのは、彼女のやりたい事を優先させてやりたかったからである。

今日もガウラは旅に出ている。

きっと、疲れた顔をして帰ってくるだろう。

そう思い、ヴァルは彼女が好きな料理を夕飯に作っていた。

だが、その日帰ってきたガウラの行動はいつもと違った。

帰ってくるなり、ただいまも言わず、逃げるように足早に二階へと姿を消した。


「ガウラっ?!」


今までそんなことがなかっただけに、何があったのかと驚いて階段下から上を見上げる。

状況が分からず後ろを振り返ると、開け放たれたままの玄関に、ヘリオが立っていた。


「ヘリオ、何があった?」


一緒に来たということは何かを知っているだろうと、ヘリオに尋ねる。

すると、ヘリオは事の経緯を説明しはじめた。

やはり、最近疲れた顔をして帰ってきていた原因は、重くのしかかる”英雄”としての肩書だった。

そしてそれは、ガウラの旅をする意味を分からなくした。

それが原因で、今日、ガウラの中で限界が来たとのことだった。

そこまで追い詰められていた事に気づかなかったのが、ショックだった。


「というわけだ。今はあまり理由は聞かないでやってくれ」

「あ、あぁ」

「それとこれは土産のアップルパイだ、2人で食べてくれ。俺はこの後アリスと予定を組んでるから、また後日遊びに来る」

「了解した、気を使わせてすまないな」


要件が済んだヘリオは、そのまま去って行った。

ヴァルは心配した表情で二階に続く階段を見つめた。


「ガウラ…」


彼女の心情を想像して、胸が苦しくなる。

手渡されたアップルパイをアイスボックスに仕舞ってから、ガウラの部屋へ向かう。

ドアをノックし、声をかける。


「ガウラ?」


だが、返事は帰ってこない。


「入るぞ?」


一応、断りを入れ、静かに扉を開けて中に入ると、服も着替えずにそのままベッドにダイブしたのか、うつ伏せで寝息を立てているガウラの姿があった。

その姿は、ガウラに疲労が蓄積されていたことを物語っていた。

ヴァルは別の部屋から掛布団を持ってきてガウラにかけた。

そして、ガウラの頭をそっと撫でる。

負の感情を言葉にすることが苦手な彼女。

もっと早く声をかけて、それを引き出してやれば良かったと自責の念にかられる。

このままの状態は、そのうちガウラの心を完全に壊してしまうかもしれない。

それを避けるために、彼女が起きてきたら話をしようと決めた。

だが、その日のうちにガウラが起きてくることは無かった。



**************



物音にふと目を覚ました。

ガウラが目を覚ましたらしい。

窓の外を見ると、まだ陽は昇ってはいないが、空は白み始めていた。

ベッドから出て着替えをし、一階に降りてみるがガウラの姿はなかった。

昨日、シャワーも浴びずに寝てしまったから浴室にいるかと思い、シャワー室の前まで来てみたが物音も気配もない。


「まさか、あの状態で旅をしに行ってない…よな?」


ガウラの行動が予測できず、不安を抱えながら外に出てみる。

すると、庭の椅子にだらけた様に座っているガウラの姿を見つけた。

それを見て、ヴァルは安堵して声をかけた。


「居ないと思ったら、ここに居たのか」

「おはよう、ヴァル。昨日はごめんよ、その、気持ちがごちゃごちゃしちゃってて」


申し訳なさそうな顔をするガウラ。


「構わない。ヘリオから事情は聞いた。客観的にものを言ってくれたが、あいつも元はガウラの中にあったヤツだ。アイツからの言葉でも、きちんとお前のことだと感じたさ。……今は休め、冒険もひと段落してるんだろう?」

「そうもいかないさ、第十三世界のこともあr─────」

「第十三世界?」

「あー、その…」


ガウラからその時初めて厄介ごとに巻き込まれていることを聞き、呆れた表情をする。

よくまぁ、こんなにも次から次へと事件を引き寄せられるもんだと溜息が出そうになる。


「だからどこまで行っても英雄なんだ」

「ゴモットモ」

「分かっててやってるのか、巻き込まれてそうなってるのか…」

「んー、どっちも?」

「はぁ…。とにかく休め、そうじゃなきゃやりたい事も続かないだろう。暁の連中にはヘリオを通して伝えてもらうから」

「…ありがとうな」

「気にするな。それより、昨日夕飯も食べてないだろ?アップルパイもあるしな」


そう言って手を差し出すと、ガウラはその手を取った。


「そうだね」


家の中に戻り、アップルパイとお茶を用意する。

それを食べる様子を、ヴァルは見守る。


これからは、ガウラが何か悩んでいたり、疲れているような素振りがあれば声をかけよう。

彼女の心を軽くできるように、心を護れるように…


とある冒険者の手記

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