V.甘いチョコレート
ヴァレンティオンのイベントが開催された翌日。
朝食を摂りながら、ヴァルはガウラに予定を話していた。
「明日からしばらく、GCに泊まり込みになる」
期間を聞けば12日間と、かなり長期間であった。
「珍しいな、そんなに長期間泊まり込みなんて」
「今、ヴァレンティオンを開催してるだろ?この期間にトラブルが結構あるらしいんだ。特にストーカー被害を受けてる奴なんかが、このイベントの時にストーカーから危害を加えられたりするらしい」
「ふーん………ん?ちょっと待て」
ヴァルの話に、引っ掛かりを見つけたガウラは問いかけた。
「そのヴァレンティオンの間の警備はGC全体でやってるのかい?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあ、なんで私のところにその話が来ないんだい?」
「…………」
ガウラは不滅隊の大闘士だ。
加えて、ヴァルは小闘士。
ヴァルに話が来て、自分に話が来ないのはおかしいと詰め寄る。
ヴァルは何も答えなかった。
だが、それが答えでもあった。
「お前…、GCの方で何か言ったな?」
「さぁな?」
「…………」
表情を崩さず知らばっくれるヴァル。
裏で手を回してることは確実だった。
「期間が長いのは私の分の仕事も請負ったんじゃないのか?」
「どうだろうな?」
「……はぁ、まぁいいけどさ」
これ以上問い詰めても、ヴァルは白を切り通すだろう。
聞くだけ無駄だと判断したガウラは、話を戻した。
「で、帰ってくるのは14日か?」
「あぁ。夜には帰って来れるだろう」
その返事に分かったと答え、その話は終わった。
そして、次の日。ヴァルは不滅隊の屯所へと出かけて行った。
**********
14日の夜。
ヴァルは不滅隊の屯所を出て、菓子屋に来ていた。
14日はヴァレンティオンデー。
甘いものが苦手なガウラの為に、ビターチョコが無いかを見に来ていた。
ざっと商品棚を見ると、ある商品に目が止まった。
カカオ70%の表記のチョコレートを見つけた。
それをラッピングしてもらい、テレポで自宅へと向かう。
そして、玄関の扉を開けるとカレーのスパイシーな香りが鼻をくすぐった。
「ただいま」
「あ、ヴァルおかえり!」
バタバタと出迎えに来るガウラ。
エプロンをしているところを見ると、夕飯を作っていたようだった。
「ちょっと準備するのが遅くなって、まだ夕飯が出来てないんだ」
「構わないさ。むしろ、帰ってくるのが遅くなってすまないね」
余程慌てて作っていたのか、服に汚れが付いているのに気がついた。
その様子を想像して、ヴァルは小さく笑った。
「そうだ。ガウラ、ハッピーヴァレンティオン」
そう言って買ってきたチョコを渡した。
「甘さ控えめのを選んで買ってきた。本当は作って渡したかったけど」
「いや、用意してくれただけでも嬉しいよ。ありがとう!」
笑顔でお礼を言われ、思わず頬の筋肉が緩む。
「夕飯の続きはあたいがやるから、汚れた服を着替えておいで」
「待て」
そう言ってキッチンに向かおうとするヴァルを、ガウラは静止した。
「?」
静止されたことに首を傾げていると、背を向けたガウラはヴァルの胸にポンと何かを差し出した。
その手には、リボンがついたハート型の箱があった。
「…ハッピーヴァレンティオン……」
小さい声で言われたその言葉で、その中身がチョコだと分かった。
ヴァルは驚きで目を丸くして固まっていた。
「…何か言え」
「……すまない、まさか貰えるとは思ってなくて、かなり驚いてる」
そう言うと、ガウラが少し向き直った。
「手作りだ。有難く貰え」
「手作り……」
ガウラは頬を赤く染め、目線を逸らしながら言った。
驚きに更に追い打ちをかけられ、ゆっくりとそれを受け取った。
そして、じっくりと箱を見つめ、徐々にヴァルの顔は綻んでいった。
「ありがとう。凄く嬉しい」
これ以上にない至福の表情をするヴァル。
それを見て、ガウラは満足したようだった。
そして、夕飯作りをバトンタッチし、ガウラは着替えをしに行った。
その後夕飯を食べ終え、お茶をしながらお互いに貰ったチョコを食べる。
ガウラの手作りチョコはコーンフレークを使った1口サイズのチョコレートだった。
それをゆっくりと味わう。
「味はどうだい?」
「美味しいよ。フレークの食感も良い」
美味しそうに食べているヴァルを見て、ガウラは席を移動し、ヴァルの隣に座った。
「どうした?」
「味見してないからどんなもんかと思ってさ」
それを聞いて、ヴァルは手をつけていないチョコを手に取った。
だが、ガウラは首を横に振った。
「味見に1個は多いよ。私にはこれで充分だ」
そう答えて、ガウラはヴァルの首に手を回し、ヴァルの体を自分に引き寄せた。
突然のことに、ヴァルは目を見開く。
触れ合ったのはお互いの唇。
それは一瞬だった。
チュッと音を立てて離れると、ガウラは小さく呟いた。
「やっぱり甘いな…」
己の唇をペロッと少し舐める。
そして、ガウラはヴァルの方を見ると、ヴァルは完全に固まっていた。
「おーい?ヴァル?どうした?」
ヴァルの顔の前で、手を振る。
完全に思考が停止しているのか、ヴァルは動かない。
その様子に、流石のガウラも心配になった。
「おい?大丈夫かい?ヴァル?ヴァールー?」
「!?」
ハッと我に返ったヴァルは、みるみる顔全体が赤く染っていった。
そして、倒れるようにガウラを抱きしめた。
「なっ?!なんだい?!」
弱々しくではあるが抱きしめられて慌てるガウラに、ヴァルは言った。
「ガウラは、あたいを殺す気かい?」
「はい?!」
ヴァルのセリフに声が裏返る。
「何言ってるんだい?!」
「ガウラからこんな事してくるなんて…心臓が止まるかと思った…」
「はぁ?キスなんて、エタバンの時にもしたじゃないか?!」
「それとこれとは別だ……」
すると、ヴァルはガウラの手を取り、自分の胸に当てた。
その胸から伝わる振動は、異常なほど早かった。
「?!」
「こんなにあたいの感情が乱されるのはガウラにだけだ…」
「……」
「それだけ、ガウラはあたいにとって特別なんだ」
そう言われて、ガウラは照れと恥ずかしさで顔が熱くなった。
「ガウラ…好きだよ」
「……」
今度はガウラが固まる番だった。
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