V.プリンセスデー2023

プリンセスデー。

それは女の子の為の祭り。

ウルダハで始まったシーズナルイベントに、ヴァルはガウラを連れてきていた。

今回は扇子と舞を習得できるとあって、桃の花びらが舞う街を歩く。

イベントとなると、いつも以上に人が多く集まり、移動するのも困難だ。

はぐれるのを防止する為、自然と互いに手を繋いだ。

街に設置された舞台では、アイドル3人組が舞を披露して注目を浴びている。


「あのアイドル、可愛いよなぁ」


ポツリとガウラが零す。


「何を言ってる。ガウラの方が何倍も可愛いよ」

「それはお前の贔屓目だろ?私に可愛いは無いよ」

「それこそ、お前自身のイメージだろ?まぁ、ガウラの可愛さはあたいだけが知ってれば良いけど」

「な、なんだいそれ…」

「そうだな。一種の独占欲とでも言うのか」

「……」


呆れ顔でヴァルを見つめるガウラ。

すると、少しイタズラな笑みを浮かべてヴァルは口を開いた。


「なんなら、ガウラを別人みたいに変身させようか?」

「……いや、いい……」

「それは残念だ」

「お前、私を着せ替え人形か何かと勘違いしてないかい?」

「あたいは人形に恋心を抱いたりしない」

「いや、そういう意味ではなくてだな」

「ほら、あそこで舞を教えて貰えるみたいだぞ」

「………」


話をはぐらかされ、ガウラは溜め息を吐く。

それを横目で見てヴァルは小さく笑った。

その後、扇子を貰い、舞を教わった2人は街をぶらついていた。


「さて、どうしようか」

「せっかく舞を教えてもらったし、少し踊ってみたい気もするけど…」


煮え切らないガウラの言葉。

肩書きを気にしているのは間違いなかった。


「ガウラ。クイックサンドへ行こう」

「へ?なんで?」

「いいから」

「えっ、ちょっ?!」


ヴァルに手を引かれ、クイックサンドへと連れていかれるガウラ。

宿の一室でヴァルはお得意の化粧&ヘアメイク道具を広げ始めた。


「…嫌な予感がするんだが…」

「そのまさかだろうな」


ヴァルの顔は嬉々としている。

ミラージュドレッサーから服を選びガウラに着るように促す。

それは、ソングバードシリーズだった。


「……おい?」

「なんだ?早く着ろ」

「いや!待て待て待て!」

「ミラプリで帽子ぐらいしか使ってないだろ?ドレッサーの肥やしにしとくのは勿体ないだろ」

「そうじゃなくて!似合わないって!」

「そう思ってるのはお前だけだ」

「~~~っ」


バッサリと意見を切り捨てられ、抗議程度に睨みつけるが、ヴァルはそんなことはお構い無しに、自分もソングバードシリーズを引っ張り出して着替え始める。

そして、自分でヘアセットをし、メイクをしていく。

すると、まるで別人なヴァルの姿になった。

「なんだ、まだ着替えてないのか?着替えさせて欲しいなら最初からそう言え」

「違うっ!自分で着替える!」

着替える前提で話を進めるヴァルに観念したガウラは、ヤケクソで着替え始めた。

着替えが終わると、ヘアセット、メイクをされた。

鏡を見ると、髪は縦巻きロール。メイクで顔の傷は無くなっており、お嬢様の様な清楚な顔が目の前にあった。


「……なんか、自分じゃないみたいで変な感じだ…」

「よく似合ってる」

「…ヴァル、お前人の話聞いてるか?」

「自分の中のイメージを壊さないと、着たいものも着れなくなるぞ?フロンティアドレスとかな」

「う“……」

「好きな物は遠慮なく着ればいい。イメージとか関係なくな。誰がなんと言おうと好きな物なんだから、堂々としてれば良いんだ」

「ヴァルはどうなんだい?」

「あたいは好き嫌いがわかりやすいタイプだと思うが?」

「……言われてみれば」


人と接する時の態度はとてもわかりやすい。

ガウラ以外は興味が無いのが丸わかりである。

料理は好きなようで、作ってる姿を見ていると、表情は柔らかかった気がする。

ヘアセットやメイクの時も、楽しそうであった。

普段はポーカーフェイスだが、接点がある人物に対しては表情が豊かではある。

だが、接点があっても興味のない相手の名前はどうでもいいのか、覚えておらず、特徴だけで相手の事を伝えたりすることもある。


「お前は興味が無い時の差がありすぎるよな」

「覚える必要性を感じないからな」

「それもどうなんだい……」


若干呆れ気味なガウラ。

それを気にもとめず、ヴァルは外に出るように促した。

どこに連れていかれるのかと嫌な予感を覚えつつ、ヴァルの後をついて行く。

辿り着いた先は、一般解放しているステージだった。

そこには司会風の格好をしたザナの姿があった。

いつの間に連絡をしたのか、用意周到にも程がある。

ステージに上がると、ザナが声を上げた。


「さあさあ皆様お立ち会い!本日結成したアイドルユニットの紹介だよ!」


アイドルの言葉に「はぁ?!」っと声を上げ、ヴァルを見るガウラ。

だが、ヴァルはいつもと違う表情でマイクを手にしていた。


「みなさーん!初めまして!私は黒猫ちゃんでーす!隣に居るのは私の相方の白猫ちゃん!2人合わせて、モノクローズでーす!」


行き交う人々は足を止め、ステージの前に集まってきていた。

なんとも言えない恥ずかしさで、ガウラは顔を真っ赤にしながら俯いた。


「あれれ?白猫ちゃん?どうしたのかな?緊張しちゃってる?」


ヴァルがガウラの顔を覗き込む。

恥ずかしさいっぱいでモジモジするしか出来なかった。


「白猫ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから!可愛いなぁ!」


その言葉に、立ち見客から「白猫ちゃん頑張れー!」と声援が飛ぶ。


「みんな、白猫ちゃんに声援ありがとう!今日はプリンセスデー!姫の舞を披露する為に私達は来たの!だから、みんなも一緒に踊ってくれると嬉しいな!まだ舞を覚えてない人も、ここで覚えていってね!」


よくまぁ次から次にそんな言葉が出てくるもんだと感心する。

ヴァルを見るとウィンクされ、仕方なく扇子を構えた。

踊り始めると、見物客も一緒に踊り始める。

覚えてない者も、覚えようと見よう見まねで踊り始めていた。

何度か繰り返し踊り、終了を知らせてお辞儀をした。

拍手喝采の中、ヴァルがマイクを持つ。


「みんな、今日は新人アイドルの私達と一緒に踊ってくれてありがとう!もし、また私たちに会いたいって皆が思ってくれたら、来年のプリンセスデーに会いに来るね!」


またねー!と手を振りながらステージを降りるヴァルに習って、小さく手を振り、ガウラもステージから降りた。

足早に宿へと戻ると、ガウラは大きな溜め息を吐いた。


「疲れた……」

「大丈夫か?」

「誰のせいだと思ってるんだ」

「新鮮だったろ?誰もお前がガウラ·リガンだと気づかなかった」

「確かに気づいてなかったけど、別の肩書きが出来たじゃないか」


ガウラの言葉に小さく笑う。


「アイドルを見て可愛いと言っていたから、羨ましいのかと思ったんだが?」

「そういう意味で言ったんじゃない」

「そうなのか?でもまぁ、あたいの言うことは実証されたろ?ガウラは可愛いって」

「……」


確かにステージで踊ってる最中も、立ち見客からは「白猫ちゃん可愛い」と言う声は聞こえていた。


「それはヴァルのメイクとヘアセットのせいだろ」

「違和感なく似合ってたからだろ。いい加減、自分の魅力を認めろ」


即答され、ぐぅの音も出なかった。



それから数日後、自宅でのんびりしていると、突然玄関のノック音がし、ナキが家を訪れた。

彼女の訪問はいつも突然だ。

友人の訪問に、ガウラは笑顔で出迎え、ヴァルはお茶と茶菓子を出した。


「ナキ、今日はどうしたんだい?」


ガウラの質問に、ナキは「あのね!」と身を乗り出さんばかりに話し出した。


「この前、プリンセスデーで新しいアイドルがお披露目になったの知ってる?」

「?!」

「モノクローズって2人組なんだけど、ナキはその日、別の用事でウルダハにいなかったんだ~。ガウラはヴァルちゃんとプリンセスデーに行ったんでしょ?見なかった?」

「さぁ?見てないな。なぁ?ガウラ」

「え?!あ、あぁ…」


ガウラがボロを出す前に、ヴァルが助け舟を出したが、ガウラはしどろもどろだ。

だが、ナキはそんな事を気にする様子もなく「そっかー、残念」と肩を落とした。


「その日しかいなかったみたいで、今じゃエオルゼア中で噂になってるんだよ!またモノクローズに会いたいって人が多いみたい!」

「そ、そうなのか」


ガウラは横目でヴァルを睨んだが、ヴァルは何処吹く風と言う表情だ。


「でねでね!そのアイドルの白猫ちゃんって子が人気が高いみたい!ナキも会ってみたいんだ!」

「………」


それは自分だとも言えず、心の中で頭を抱えるガウラ。

ヴァルはなんだか誇らしげに見える。


「会えるといいな?」

「うん!もし2人もモノクローズを見つけたら教えてね!」


ヴァルの言葉に、ナキはそう返して話題を切り替えた。

だが、ガウラだけは心が落ち着くことはなかったのだった。

とある冒険者の手記

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