V.英雄とは
ラベンダーベッドの自宅でガウラとヴァルが寛いでいたある日、唐突に玄関がノックされた。
ヴァルが率先して玄関に向かい扉を開けると、そこには赤髪に赤眼のミコッテ·サンシーカーのグ·ラハの姿があった。
ヴァルの姿を見たグ·ラハは、あれ?と言った感じで困惑している。
そして、手にしたメモを見て、周りをキョロキョロとしていた。
恐らく、家主では無い人物が出てきて家を間違えたとでも思っているのだろうと、ヴァルは口を開いた。
「お前、暁の奴だな?」
「え?あ、あぁ」
「ガウラなら中にいる」
「そ、そうか」
ホッとした表情をする。
相手を中に入るように促し、ガウラに声をかけた。
「ガウラ。暁の奴が来たぞ」
「え?」
ガウラがヴァルの方に顔を向けると、片手を軽く上げて挨拶するグ·ラハ。
「グ·ラハじゃないか」
「突然来てすまない。お邪魔する」
立ち話もなんだとガウラは椅子に座るように促した。
ヴァルはそれを見てお茶と菓子を出した。
「で、どうしたんだい?家に来るなんて珍しい。十二神の方で何かあったのかい?」
「いや、そうじゃないんだ。アリゼーからあんたがエタバンしたって聞いたから、遅くなったけどお祝いをと思ってさ」
「おや、それはありがとう!」
「聞いた時は驚いたよ!ともあれ、エタバンおめでとう」
和やかな感じで話す2人。
ヴァルは無表情でガウラの隣に座り、ストレートティーを飲んでいる。
その様子が気になるのか、グ·ラハはヴァルをチラチラと見ている。
「エタバンの相手は…ひょっとして隣の彼女か?」
「あぁ、そうだよ。ヴァルって言うんだ」
「どうも」
素っ気なくグ·ラハに挨拶するヴァルに、彼は少し気まずそうな顔になる。
「えっと、俺はグ·ラハ·ティアだ。よろしく」
自己紹介するグ·ラハにチラリと視線をやっただけで、ヴァルはそのストレートティーを飲み続けている。
隣のガウラは苦笑い。
グ·ラハも苦笑いしながらガウラに話しかけた。
「えっと、ガウラはヴァルとはいつ出会ったんだ?」
「第一世界から戻って、しばらく経ってからだな」
「そうなのか」
そう言って、ヴァルを見つめるグ·ラハ。
その後、ガウラに色んな質問を投げかけながらも、ヴァルをチラチラと見ているので、ヴァルは少し不機嫌そうに言った。
「さっきから人をジロジロと見てなんだ?」
「あ、いや…」
「話の邪魔になるならそう言え」
「い、いや、違うんだ。ちょっと気になることがあったから」
「なんだ?」
なんだか言いにくそうに頭を搔くグ·ラハに、ガウラは思い当たることがあったようだ。
「もしかして、グ·ラハが経験してきたもうひとつの未来の話かい?」
「…あぁ、そうなんだ。だけど、ガウラはヴァルと会ったのはそれより後なんだろう?」
「顔を合わせたのは第一世界の後だけど、ヴァルはそれよりも前から私の知らないところで傍にいたらしい」
「じゃあ、ギムリトの時も、ガウラの傍にいたのか?」
どうなんだ?とガウラに目線で訴えられ、ヴァルは面倒くさそうに答えた。
「不滅隊員に変装して、近くで戦ってたよ。ガウラを護るためにな」
その言葉を聞いた瞬間、グ·ラハの目が輝いた。
「じゃあやっぱり!名も無き黒き英雄ってあんたの事だったんだな!」
「……は?」
何の話だと怪訝な顔をするヴァルに、グ·ラハはもうひとつの未来の話を始めた。
ギムリトで黒薔薇と言う兵器が帝国側から放たれ、世界が混沌と化したこと。
それが原因で、その世界ではガウラが亡くなったこと。
兵器の影響が治まったギムリトに、英雄の亡骸を弔う為に、回収に言った隊員が発見した英雄の亡骸の隣に、英雄と手を繋いだ状態で無くなっている黒い髪と肌のミコッテ族の不滅隊員の亡骸があったこと。
前線に居たはずの英雄が、前線より後方で見つかった事で、状況的にその不滅隊員が英雄を救おうとしたのだと結論づけたこと。
光のエーテルに侵食された亡骸は、腐らず綺麗な状態で残っていたが、繋いだ手が離れなかった為、英雄と一緒に不滅隊員は埋葬されたこと。
そして、墓石には、“エオルゼアの英雄と、その英雄を救おうとした名も無き黒き英雄、ここに眠る“と彫られていたと言う。
「まさか、名も無き黒き英雄をこの目で見られるなんて!」
目を輝かせ語るグ·ラハに、ヴァルは困惑した表情を見せた。
それを見て、ガウラは苦笑いしながら言った。
「ヴァル。グ·ラハは英雄と名の付くものが好きなんだ」
「なるほど…」
そう言われ、ヴァルの目付きは鋭くなった。
「グ·ラハ、と言ったか」
「あぁ!」
「お前、英雄が好きなのは構わないが、今みたいに相手に向かって英雄って呼んでないだろうな?」
「え……?」
ヴァルに言われキョトンとするグ·ラハ。
「そう呼ばれるのが嫌な奴だっている。英雄になりたくてなった訳じゃない奴だっている。周りが英雄だと言っているからって、それを押し付けるのは論外だ」
「…ヴァル」
「英雄と呼ばれれば、周りはそいつにどんどん助けを求め、重荷を背負わせていく。その重圧を考えたことがあるか?」
「…………」
「だから、あたいはそれを最初にガウラに背負わせた暁の血盟に良い感情は持っていない」
グ·ラハを睨みつけながら語気を強める。
「それと、英雄を救おうとした名も無き黒き英雄だって?笑わせるね!護る相手を護りきれずに結局死んだんだろ?そんなの、あたいにとっては不名誉極まりない話だっ!」
そう言って席を立つヴァルに、ガウラが声をかける。
「どこ行くんだい?」
「…気分が悪い。頭を冷やしてくる」
ヴァルはそのまま外へと出ていった。
残された2人。
その間には、なんとも気まずい空気が流れる。
「グ·ラハ、連れがすまないね。あいつは私の事になると過剰に反応するから…」
「いや、俺の方こそ配慮が足りなかった。パートナーが死ぬ世界とか、自分がパートナーを護りきれなかったとか聞いたら、嫌な気分になるのは当然だ。しかも、エタバンのお祝いに来て縁起でもない話するなんて…相手に申し訳ない」
心底反省しているグ·ラハ。
ガウラは気にするなと伝えたが、彼はヴァルに直接謝りたいと申し出た。
だが、グ·ラハがいる間にヴァルが帰って来ることはなく、ガウラに“彼女に謝罪を伝えて欲しい“と頼んで帰って行った。
それを見送り、彼の姿が見えなくなると、ガウラは声を上げた。
「ヴァル、居るんだろ?」
すると、何処からか姿を現すヴァル。
「行ったか?」
「行ったよ。グ·ラハがお前に謝ってたよ」
「そうか」
興味無さそうに玄関の方へと向かうヴァルの手を、ガウラは掴んだ。ヴァルの手のひらには、爪がくい込んだ痕と、その痕から血が滲んでいた。
「余程強く握りしめたな?」
「……そうでもしないと、あの男をぶん殴ってしまいそうだった」
「よく耐えたな、偉い偉い」
苦笑しながらヴァルの頭を撫でると、彼女はほんの少し困惑しているような、それでいて照れくさそうな表情になった。
「でも、グ·ラハには感謝しとけよ?あいつが居なかったら、今の時代はなかったんだから」
「………その話、詳しく聞こうか」
「そうだね。夕飯を食べながら、第一世界での話をしようか。その前に、お前の手当てだな」
そう言って、2人は自宅へと戻ったのだった。
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