V.適材適所
「痛ぅっ」
リビングでヴァルの声がする。
何事かとガウラが向かうと、裁縫をしているヴァルの姿があった。
指を刺したのか、左の人差し指を口に運んでいた。
「大丈夫かい?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
手元を見ると、ほつれたエプロンの裾を直そうとしているのだと分かった。
そして、ヴァルは再び針を持ち、エプロンに刺す。
「~っ」
針を通す度に指のどこかしらに針が刺さる。
縫い目もお世辞にも綺麗とは言えない。
見るに見兼ねたガウラが声をかけた。
「貸せ!私がやる!」
「…すまない。頼む」
素直にガウラにバトンタッチし、ガウラはテキパキとほつれを縫っていく。
「苦手なら言え。見てるこっちが痛い」
「あたいが回復しきってないからガウラが家のことをしてるだろ?だから、これぐらいはと思って…」
申し訳なさそうな顔のヴァル。
全身打撲がまだ完治していない彼女なりの行動だった。
「そんなに気を使わなくていいのに。家を空けている時に、良くしてもらってるんだ。それを返す事と言う理由をつけても、まだまだお釣がくるだろ」
話しながらほつれを直し、「よし!出来た!」とエプロンを広げる。
綺麗な縫い目に感心するヴァル。
「すまない。助かった」
「どういたしまして!」
満面の笑みで言われ、ヴァルも自然と笑みを浮かべた。
「出来ないことは言え。出来ることならやるから」
「分かった。ガウラも出来ないことは言ってくれ」
「うん!」
そう言って微笑みあった。
お互いの絆が少し強くなった気がしたのだった。
0コメント