V.青い花
星5月1日。
ヴァルはキッチンに篭っていた。
家主でありパートナーのガウラは、気分転換と称してラベンダーベッド内を散歩しに行っていて不在。
ガウラは今日が何の日かすっかり忘れているらしく、いつもと変わらなかった。
自身の誕生日すら忘れるほど、自分に無関心な彼女。
内心苦笑いしながら、ヴァルは料理を作っていた。
出来上がったのは豪華な料理の数々。
以前作った時に、ガウラの反応が良かったものばかりである。
中には、彼女の好物であるアップルパイもある。
そこにタイミングよくガウラが帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
「な、なんだい?この豪華な料理は?」
料理を見て驚くガウラに、小さく笑うヴァル。
この料理を見ても、思い出さないのが面白くて仕方ない。
「さぁ?なんだろうな?」
「え……ヴァルの誕生日は、たしか来月だったろ?私の誕生日も来月だし……星5月……なにかあったっけ?」
懸命に思い出そうとしているガウラ。
「思いつかないってことは、ガウラにとっては、そんなに重要じゃないって事だ。気にせず昼食にしよう」
「え……あ、うん……」
なんだかモヤモヤしてるような表情のまま席に着く彼女。
そんな表情すら、ヴァルにとっては可愛くて仕方がない。
そのまま食事を始め、食後にはアップルパイを切り分けて食べた。
食べてる間に、ガウラの顔は普段の表情になっていった。
そして、ヴァルが片付けをしてる間に、ガウラはシャワーを浴びに行く。
その数分後にガウラはバタバタとシャワー室からヴァルの元へ走って戻ってきた。
「ヴァルっ!!」
「どうした?」
片付けの手を止め、ガウラの方を見る。
脱ぎかけだったのだろう、シャツの胸元がはだけている。
その胸元には、エターナルリングを通したネックレスが光っている。
「今日!エタバン!記念日!」
「あぁ、気がついたか?」
「言えよ!」
「いや、あまりにも普通に過ごしてるもんだから、逆に面白くなってしまってな」
笑いながら答えるヴァル。
恐らく、服を脱ごうとした時に指輪を確認して気がついたのだろう。
すると、ガウラはシャツのボタンを閉め、「出かけてくる!」と言って家を出て行った。
ガウラの急な行動に一瞬驚いたが、ヴァルは直ぐに小さく笑い、そのまま片付けを再開したのだった。
片付けが終わり、次第と日は傾き、夕刻。
夕飯の支度をしていると「ただいま!」とガウラが帰宅した。
「おかえr……っ!?」
帰って来たガウラの手には、青いバラをメインにした花束。
その花束をガウラはヴァルに差し出した。
「ヴァルにピッタリだと思って、選んできた」
「あ、あぁ、ありがとう」
「ヴァルは、花言葉とか詳しいかい?」
「いや、全く」
「このバラの花言葉は1度変わってるんだ」
「変わってる?」
「あぁ、青いバラってのは自然に咲かない。作ることが出来ないと言われてて、その時の花言葉は不可能だったんだ」
ヴァルは花束を受け取りながら、ガウラの話を黙って聞く。
「でも、色々と技術が確立されて、青いバラが完成した時に花言葉が変わったんだ」
「不可能から、何に変わったんだ?」
「…夢叶う、奇跡。ヴァルの今まで生きてきた人生を考えたらピッタリじゃないか?不可能だと思っていた事が、今は覆って夢叶ってる」
「確かにな」
ヴァルは、受け取った青いバラを見る。
「まぁ、その、なんだ。あっという間の1年だったな。これからも…よろしく…」
少し照れくさそうに顔を背けて言うガウラ。
ヴァルは至福の笑みを浮かべた。
「素敵なプレゼントをありがとう。こちらこそ、よろしく」
2人はそこで「ふふっ」と笑うと、エターナルバンド·アニバーサリーの予約をいつにするかを話し合い始めたのだった。
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