Another 白蝶草ー変化と答えー


それは突然だった。

アリスはヘリオと手合わせをしていた。

想い人のガウラは、第一世界に行ったと聞いていた。

彼女がいない間に自分の実力を上げようと、ヘリオに頼み込んで動きを見てもらいながら、手合わせをしていたのだ。

そんな時、頭の中に声が響いた。


ーさあ……時空を超えて来たれ

 ひとたび我らに力を貸したまえ……!

 彼方の戦士、稀なるつわものたちよ……ッ!ー


驚いてヘリオに顔を向ければ、彼も同じように驚いた表情でこちらを見ていた。

そして、二人は光に包まれ、その場から姿を消した。



二人が気が付いて目を開けると、そこは先程までいた場所ではなく、目の前には巨大な敵の姿。

突然のことに唖然としていると、聞き覚えのある声がした。


「ヘリオにアリス!?」

「姉さん?」

「ガウラさん?!」


そこにいたのは第一世界にいるはずのガウラだった。


「まさか、お前たち二人も召喚されるなんて…」

「ということは、ここは第一世界か」

「そして、目の前の敵が、今回の親玉ってところですか?」

「…まぁ、そういう感じだ」


状況を把握して、アリスは剣と盾を構えた。

ヘリオも大剣を抜き、構えた。


「アリス、MTは俺がやる。あんたはSTを頼む」

「わかりました!」

「……まったく、私の気も知らないでやる気になってるんじゃないよ」

「ガウラさんは知らないかもしれないですけど、俺、結構修行したんですよ!しっかり俺の成長見ててくださいね!」

「っ!!」


アリスの言葉に、告白された時のことを思い出したガウラは、一瞬赤面した。

だが、頭を振ってそれを振り切り、目の前の敵に集中した。


「怪我はするなよ!」

「あぁ」

「わかってます!」

「よし、いくよっ!!」


そのガウラの掛け声で、一斉に敵であるハーデスへ攻撃を仕掛けていく。

ハーデスとの戦いはまさに激闘だった。

だが、息の合ったアリスとヘリオの動き、タイミングの良い軽減。

ガウラの記憶にあるアリスとは、まったく違った。

成長したと言うだけはある動き。そのアリスの背中を頼もしいと一瞬思ってしまった。

自分の心境の変化に驚きつつ、戦闘に集中する。

そして、ついにハーデスを打ち負かした。

役目を終えたつわもの達は次々と光に包まれ消えていく。

アリスは、光に包まれながら言った。


「ガウラさん、原初世界で待ってますから!」


満面の笑みで原初世界へ戻って行った。



***************



数日して、ガウラからアリスへ連絡があった。

内容は、話があるから自宅へ来てほしいとの事だった。

アリスは手土産にアップルパイを持って、ラベンダーベッドへと赴く。

玄関をノックすると、ガウラが固い表情で出迎えた。

その様子に少し首を傾げつつ、室内に入り、手土産を渡した。

お茶が用意され、それを一口。

そして、本題に入った。


「それで、話っていうのは?」

「…この前、お前は私に告白したよな」

「はい、しましたね」

「それと、稀なるつわものとして、第一世界に召喚されたな」

「はい、そうですね」

「…お前の気持ちは変わってないのか?」

「変わってないです。俺は、ガウラさんが好きです」

「……そうかい……」


表情は硬いまま、ガウラは覚悟を決めたように言った。


「お前に見せたいものがある」

「見せたいもの?」


そう言った途端、ガウラは服に手をかけ、脱ぐ動作を始めた。

予想外の行動に、アリスは慌てて両手で顔を覆った。


「ガッ、ガウラさん!?何してるんですかっ?!」


手で隠した顔は真っ赤だ。

それには構わず、ガウラは服を脱いだ。


「アリス、見ろ」

「で、でも…」

「いいから見ろっ!!」


叫ぶように言われ、恐る恐る手を下げてガウラを見る。

ガウラの表情はどこか冷徹な表情をしていた。

そして、目に入ったのは彼女の鎖骨から左の上腕に赤く変色している肌。

正面からはそこまでしか見えないが、肩を見る限り、その”痕”は背中まで広がっているのは簡単に予想が出来た。

突然のことに目を見開き、固まるアリス。

そんなアリスをまっすぐ見つめ、ガウラは言い放つ。


「この体を見ても、気持ちは変わらないか?」

「変わりませんっ!」


即答だった。

流石のガウラも、即答されて一瞬驚いた表情を浮かべた。

アリスは、どこか切なそうな表情でほほ笑んだ。


「ガウラさん、その痕、俺に見せるの勇気がいったでしょう?」

「………」

「痕があるってだけで気持ちが変わるほど、やわな気持ちで告白してません」


そう言って、アリスは席を立ち、ガウラの座っている方へ向かう。

彼女の後姿は、予想通り背中まで痕が広がっていた。

その痕を優しく撫でるアリス。

ビクッと体を震わせるガウラ。


「好きです、ガウラさん。俺は、あなた程綺麗で素敵な女性は出会ったことがないです」

「……それは、言い過ぎじゃないか?」

「そんなことないです」

「………私で、本当にいいのかい?」

「はい。ガウラさんじゃないとダメです」

「…そうかい……」


ガウラは深呼吸をすると、アリスの方を見た。

愛おしそうに見つめるアリスの瞳を、まっすぐ見据えて言った。


「…お前がいいなら、その気持ちに応えてやっても…いい、かな…」


その答えに、アリスは一瞬驚いた表情をしたあと、ガウラを抱きしめた。


「なっ?!」

「ガウラさん、俺、嬉しいです」

「…お前、泣いてるのかい?」


アリスは嬉しさのあまり、泣いていた。

そんなアリスに、ガウラは呆れた顔をして言った。


「男が泣くんじゃないよ」

「すみません、嬉しくて」

「まったく…仕方ないやつだな」


そう言って、アリスの顔を両手で包み、新たに零れそうになっている涙に口付けた。

ガウラの行動にアリスの涙は驚きで止まった。

顔を赤くして目線をずらすガウラに、アリスは微笑み、彼女の頬に手を添える。

互いの視線がぶつかる。

そして、どちらからともなく目を閉じ、唇を重ねたのだった。




とある冒険者の手記

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