V.半身

GC任務から帰ってきたヴァルは、首を傾げた。

「ただいま」と言っても、いつも返ってくる返事がなかったのだ。

寝てしまったのだろうかと思い、ダイニングへと向かうと、椅子に座ったまま遠くを見つめているガウラの姿があった。


「起きてたのか、返事がないから寝てしまったのかと思った」

「………」


声をかけるが返事はない。

再び首を傾げ、彼女の元に近寄り、声をかける。


「ガウラ?」

「………」


反応は無い。

彼女の目の前で手をヒラヒラさせたところで、我に返ったかのようにハッとし、ヴァルを見た。


「あ、あぁ、ヴァル。帰ってたのかい、おかえり」

「ただいま」


反応が返ってきてホッとするヴァル。


「どうしたんだ?悩みでもあるのか?」

「いや、そうじゃないよ」

「じゃあ、調子でも悪いのか?」

「……まぁ、そんなところ…かな」


なんだか少し罰が悪そうに微笑むガウラに、小さく溜め息を吐くヴァル。


「調子が悪いなら言え。お前のことだ、心配かけたくない、騒がれたくないってのがあるのかもしれないが、話してくれなければこちらも対処が出来ないだろ?」

「ごもっとも」

「それで?調子が悪いのはエーテルか?」

「気づいてたのかい?」


驚くガウラに、ヴァルは首を横に振った。


「気づいたのは調子が悪いと判明してからだ。エーテルの香りが薄く感じた」

「!ヴァルもエーテルの匂いが分かるのかい?」

「も?」

「あぁ。以前、アリスが言ってたんだ、黒き一族には稀に白のエーテルの匂いが分かる者が生まれるって」

「……アリスもなのか」


明らかに嫌そうな顔をするヴァルに、ガウラは小さく笑う。


「はぁ…、アリスの事はこの際どうでもいい。話を戻すぞ。エーテルの不調は今回が初めてではないな?」

「あぁ、過去に何回か。最後に不調になったのはカルテノーでルナイフリートと戦ったあとだな」


ガウラは前回のエーテルの不調の時の話をし始めた。

エーテルが少ない故に風脈に引っ張られやすい事、カルテノーのエーテルの乱れに影響されてなのか上手くエーテル摂取が出来ず、その後風脈に引っ張られてさまよっていた事、その最中は意識はボンヤリとはあるが身体が言うことを効かなかったと言うことだった。


「なるほどな…」


ヴァルは少し考え込みながら、口を開いた。


「食事やエーテル薬を使ってても不調を起こすとなると…人からエーテルを分け与えるのが手っ取り早いのか…?」

「まぁね。だけど依存性が高いからな。特に他人からだと」

「……」

「お前はヘリオのことは出さないんだね」

「儀式を別の形式にした時点で、何か理由があるんだと悟ったからな。お前がヘリオを拒んだ時点で、拒絶反応が出るだろ」


ヴァルはそう返しながら考えに老ける。

そして、ふと顔を上げた。


「あたいのエーテルなら、依存性は他の奴らより低いんじゃないか?」

「へ?」


思わぬ言葉に驚くガウラ。


「白と黒は、同じ血を受け継いでる。濃さは違えど、あたいもガウラも純血だ。血が近いのなら、依存性は低いはずだろ?」

「まぁ、そうだけど…」

「なら、あたいのエーテルを受け取ればいい」

「でも…大丈夫なのかい?」

「エーテル量を気にしてるのなら心配ない。枷が外れて気がついたが、ニア様の血も混じってるせいか、人よりはエーテル量が多いんだ」


それでも、ガウラの表情には迷いがあるようだった。


「申し訳ないとか思うなよ?あたいはお前の半身なんだから」

「……半身?」

「あぁ。あたいはお前と人生のパートナーになったんだ。パートナーは互いに助け合い、支え合うモノだろう?だから、あたいは言わばお前の半身だ」

「………」

「だから、お前が拒否をしなければ、なんの問題もないと思うが…どうだ?」


今度は、ガウラが考え込む。


「他のやつに頼めば拒絶反応と依存が出やすい、ヘリオもダメ、アリスなんかに話したら拒絶云々よりも大騒ぎで論外だろ?」

「まぁ、確かに」

「なら、一緒に住んでて、血の繋がりが少しでもあるあたいが一番適任だと思うが?」

「…うん…」


ガウラは暫く考え込んでいたが、ふと顔を上げた。


「ヴァルが良いなら、頼もうか」

「あぁ、喜んで」


ヴァルはガウラに向かって手をかざす。

エーテル視をしながら、ゆっくりと少しずつエーテルを送る。

ガウラの中のエーテルがいつもの量になったのを確認して、エーテルを送るのを終える。


「どうだ?痛みはなかったか?」

「鈍い痺れはあったけど痛くはなかったよ」

「なら良かった」


ガウラの言葉にホッとして微笑む。


「血が近いからかな、ヤ·シュトラからエーテルを分けてもらった時より馴染むのが早い気がする」

「そうか。これからは遠慮なく言ってくれ。あたいはガウラの為になるなら、どんな事でも喜んでやるから」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、あたいは夕飯を作る。ガウラはゆっくりしててくれ」

「あぁ、悪いね」


ヴァルはエプロンを身につけ、キッチンに向かい手を洗って料理を始める。

カウンター越しに見えるヴァルの表情は、穏やかな笑みを浮かべている。

その姿をガウラは微笑みながらずっと見ていた。



***********



就寝時間になり、ガウラが寝巻きに着替えた時、部屋をノックされる。


「ガウラ、ちょっといいか?」

「どうぞ」


部屋に入ってきた寝間着姿のヴァル。

その様子は珍しく迷っているように感じた。


「どうしたんだい?」

「いや、こんな提案をしたら、流石に鬱陶しいかと思うかもしれないが……」


ガウラの顔色を伺いながら、ヴァルは言った。


「風脈に引っ張られやすいと言っていただろう?だから、エーテルが安定するまで…その…一緒に寝ないか?」


少しモジモジした様子が珍しく、可愛いと感じたガウラは小さく笑った。


「ふふっ」

「?」

「笑ってごめんよ。あまりにも可愛いと思ったものだから」

「?!」


その言葉に顔を赤くするヴァル。


「それにしても、どうしたんだい?そんな低姿勢で。珍しい」

「いや、あまり心配しすぎると、嫌なんじゃないかと思ってな…」


その気遣いがまた可愛く思えた。


「心配させてごめんよ。そうだな、風脈に引っ張られて彷徨うと危ないからな、お願いしようか」

「承知した」


少しホッとした表情で、ガウラのベッドへと向かうヴァル。

互いに横になると、ヴァルが口を開いた。


「これからも、何か調子が悪かったりしたら言ってくれ。過保護だと思うかもしれないが、あたいはガウラが一番大切なんだ」

「ふふっ、わかった」


そう言って手を握り、2人は眠りに落ちたのだった。



とある冒険者の手記

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