現パロ:父親

街灯が夜を彩る中、黒衣森駅の改札前で、俺は待ち合わせをしていた。

今日は単身赴任中の父さんが、久しぶりに帰ってくる日。

事情を知った職場の親方の計らいで早上がりをさせてもらい、出迎えにきたのだ。


「アリス!」

「あ!父さん、おかえり!」

「おう!ただいま!」


改札から片手を上げながらこちらへ向かってくる。

なんだかんだ言って、父さんと会うのは1年ぶりくらいになる。


「母さんの転院手続きや引越し作業、手伝えなくてすまんな」

「仕方ないよ、仕事だったんだし。父さんが居ないと仕事が回らないんだからさ」


少し申し訳なさそうな顔をする父さんに、俺は笑顔で答える。

両親の間柄を見ていれば分かるが、父さんだって母さんの傍にいたい気持ちがあることはわかっている。

でも、母さんの入院費や治療費を考えると、稼がなければならない。

母さんも寂しい思いはあるだろうけど、その事を分かっているから弱音も吐かないのだと思う。


「父さんが安心して働けるように、俺頑張るからさ!気にしないで!」

「ははっ!一丁前になったなぁ!父さん嬉しいぞ!」


そう言って、俺の頭をくしゃくしゃっと乱暴に撫でる。


「ちょっ!?父さんやめてよ!」

「はははっ!」


俺の反応を見て笑う。

乱された髪を手櫛で整えながら睨むが、父さんは何処吹く風だ。

俺は大きな溜め息を吐いて、父さんと歩き出した。

帰る途中で夕飯を買うために、スーパーウルダハに寄る。

ここに来ると、自然とあの後ろ姿を探してしまう。

キョロキョロしてる俺に気づいた父さんがニヤつきながら口を開いた。


「誰か探してるのか?」

「へ?!い、いや、別に…」

「なんだぁ?早速気になる子でも出来たのか?我が息子ながら、隅に置けないなぁ?」

「ち、違うって!と、友達を探してるだけだって!」

「なーんだ、友達か」


肩を竦めながら、残念と言わんばかりな表情をする。

これは絶対に父さんに知られたらからかわれるヤツだ…。

まぁ、母さんと会えば直ぐにバレるだろうけど、彼と会わせる前にバレるのは勘弁願いたい。

俺の気持ちがバレてから会えば、きっと父さんは余計な事をするのが目に見えている。

幸いと言うべきか、今日は彼は居なかったようで、会うことなく買い物を終わらせ帰宅した。

夕食を取りながら明日の予定を話、その後は近況報告をして眠りについた。

翌日、お見舞いの為の花を買う為、彼の居る花屋へとやってきた。


「ごめんくださーい!」

「お、アリスか。いらっしゃい」


店の奥から出てきたのは、ヘリオ。

彼の姿を見ただけで、心が踊るが、なるべく普段通りを心がけようとする。


「そういえば、先週、父親と来るって言ってたか」

「そうそう!紹介するよ、俺の父さん」


紹介すると、ヘリオは「どうも」と礼儀正しくお辞儀した。


「父さん、彼は俺がいつも贔屓にしてる花屋の店員さんで、友人のヘリオ」

「そうなのか。息子がいつもお世話になっております」

「いえ、贔屓にしてもらって有難い限りです」


挨拶が終わるのを待って、俺はいつものように注文をした。


「ヘリオ、黄色のラナンキュラスをお願い」

「あぁ、分かった」

「あ、ヘリオくん」

「はい?なんでしょう?」


父さんは突然ヘリオを止めた。


「それとは別に赤い薔薇を頼めるかな?」

「はい。別々に包めばいいですか?」

「あぁ、そうしてくれると助かる」

「分かりました」


作業に入るヘリオ。

俺は父さんに疑問を投げかけた。


「母さん、赤い薔薇も好きなんだっけ?」

「ん?何言ってるんだ?これは父さんから母さんへの気持ちだ!き、も、ち!」

「?」


よく分からず首を傾げていると、ヘリオが口を開いた。


「奥さんと仲が良いんですね」

「いやぁ~お恥ずかしながら、私が妻にゾッコンでして!仕事でなかなか見舞いも行けないので、こういう時ぐらいは形にして変わらぬ気持ちを伝えたいと思ってね!」

「どーゆーこと??」


会話に付いて行けず尋ねると、ヘリオが少し呆れた表情をした。


「アリス。あんた、赤い薔薇の花言葉を知らないのか?」

「え?」

「その辺の子供でも知ってるぐらい有名だぞ?」

「そーなのか?俺、あんまり花言葉に興味がなくてさ。黄色のラナンキュラスは母さんが教えてくれたから知ってるけど、それ以外は全く…」


俺の言葉に、"マジか…"と言う様な表情をするヘリオと父さん。


「花言葉を知らなくても、赤い薔薇をどんな時に送るかは知ってるよな?」

「え?」


今度は俺の反応に、顔を見合わせる父さんとヘリオ。


「お前、仮にも昔彼女いたのに知らないのか」

「え?それ今関係ある?」


父さんの発言にさらに首を傾げると、2人は溜め息を吐いた。


「はぁ…だからお前は彼女に振られるんだ…」

「なっ!?それは関係ないだろ!?」


こんな感じで父さんと言い合っている間に、ヘリオが花を包み終えたので、代金を支払った。


「そうだ、アリス。お前、明日は予定あるのか?」

「特には無いけど」

「じゃあ、明日も母さんところに顔出しに行こう」

「はいはい、言うと思ったよ。いつまでもお熱いですね~」


俺たちのやり取りに、小さく笑うヘリオ。


「家族仲がいいんだな」

「仲がいいっていうか、父さんと母さんが仲良すぎるんだよ…見てるこっちが恥ずかしいぐらい」

「なにをぅ?!父さんと母さんが仲良いから、お前が出来たんだろーが!母さんの病気が悪化しなきゃ、もっと子供欲しかったんだからなーっ!」

「わーっ!人前でそういうことを平気で言うなよ!」


父さんの発言に、流石にヘリオも気まずそうにしている。


「とにかく!こんな所で騒いだら営業妨害だろ!ヘリオ、ごめんな!また明日くるから!」

「あ、あぁ」


俺はそう言って、父さんの背中を押して、無理やり病院へと向かった。

病室に入ると、母さんはいつも以上の笑顔で出迎えてくれた。


「いらっしゃい!アリス、あなた!」

「母さん、調子はd…」

「ラナ!逢いたかったよ!」


俺を押しのけて、父さんはベッドに座っている母さんにハグをする。


「私も逢いたかったわ!」


母さんも満面の笑みでハグを返している。

本当に見ているこっちが恥ずかしい。


「あら、その薔薇は?」

「俺からの気持ちだよ」

「まぁ!嬉しいわ!」


嬉しそうに薔薇を受け取り、息子そっちのけで会話をする2人。

その間に、俺は着替えの入ったカバンを交換。

椅子に座って、アツアツな両親を眺める。

幸せそうな2人を見て、なんだか羨ましくなった。


(俺も、いつかは…)


と、思い始めたところだった。


「そうだ!言い忘れるところだった!」


父さんの言葉に我に返る。


「来週、母さんの見舞いにヴァルが来るって」

「まぁ!ヴァルちゃんが?」

「ヴァル姉さん、今忙しいんじゃないの?」


ヴァル姉さんは、俺の従姉だ。

そして、今テレビを賑わせているスーパーウーマン。

メイクアップ、ヘアメイク、スタイリスト、フラワーアート等を手がけ、さらに女性服のブランドを立ち上げた敏腕の女社長。そのブランドが大人気になり、その実力が広まり、美人な容姿も相まってテレビに引っ張りだこ。

そんな彼女が、見舞いに来るというのだ。


「なんか、ブランドの新デザインの服に似合うモデルが見つからなくて、仕事が滞って時間を持て余してるらしいぞ」

「ヴァル姉さん、モデルにもこだわるからなぁ。でも、それなら、いつもみたいに自分がモデルになれば良いんじゃないのか?」

「それが、今回のデザインのテーマとヴァル自身が合わないらしい」

「へぇ~」


ヴァル姉さんに合わないテーマってなんだろう?


「来週お前の所に寄るらしいから、連れてきてやってくれ」

「………わかったよ」


俺、ヴァル姉さん苦手なんだよなぁ……

そんなことを思っていると、父さんがまた明日来ると行って、席を立った。

名残惜しそうに2人はハグを交わし、俺は父さんと病院を出た。

その後は昼食を外で食べ、食材の買い出し、そして夕飯を食べてその日は終わった。

翌日のお見舞いも、昨日と変わらずといった感じだった。

昼を食べた後、父さんを見送るために駅へ向かった。

駅の改札口前で、父さんが俺に向かって言った。


「そういえばアリス、お前好きな奴が出来ただろ?」

「へ?!なんだよ急に?!」


お見舞いの時に、母さんはヘリオの事は話してなかったのに何故?


「父さんの目は誤魔化せないぞ?ヘリオくんだろ?」

「なっ!?」


確信をつかれ、軽くパニックになる。


「相手は気づいてないみたいだけど、お前は分かりやすすぎるんだよ」

「うっ……」

「でも、まさか同性とはなぁ」

「…父さんは、俺が同性の相手を選んだら嫌?」


いくら同性婚が認められてるとはいえ、嫌悪感を抱く人がいるのは事実だ。

俺は恐る恐る尋ねた。

だが、反応は意外なものだった。


「好きならいいんじゃないか?好きな気持ちは止められるもんじゃないしなぁ」

「父さん…」

「それにヘリオくん美人だしな!この面食いめ!」

「なっ!?ばっ!?」


ニヤニヤ顔で俺を小突く父さん。


「ま、お前の恋が実る様に祈ってるよ!頑張れ!」

「…うん!ありがと!」

「じゃあ、行ってくる!母さんをよろしくな!」

「うん!行ってらっしゃい!」


こうして、父さんは単身赴任先へと戻って行った。

それにしても、父さんから理解が得られるとは思ってなかったなぁ。

まだ、ヘリオの事は知り合って間もないから何も知らない。

これから友人として少しずつ仲を深めていこうと決心したのだった。

とある冒険者の手記

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