V.翻弄され、誓う

「可愛いねぇ」


最近よく聞く言葉。

これはパートナーであるガウラの言葉である。

今、そのパートナーはヴィエラ族の男に姿を変えている。

その顔を見るだけで、ヴァルにとって平常心が保て無くなる。

彼が何かアクションを起こす度、ヴァルの心臓は跳ね上がり、全身は熱を持つ。

その様子を見た彼は、必ず“可愛い”を口にする。

そして、不意に目線が合ってしまい、熱を持ち始めた顔を背ける彼女に、彼は小さく笑いながら“可愛いねぇ”という。


隣に移動してきた彼は、テーブルに肩肘を付き、ヴァルの顔を覗き込む。


「ヴァル」

「………」


彼の顔が視界に入らないように顔を少し背ける。

すると突然、肩を抱き寄せられた。


「みゃっ!!?」


一気に心臓が跳ね上がり、相手にも聞こえてしまうのではないかと思う程、激しく脈打つ。


「は…離してくれ…っ」


やっとの思いで言葉を発するが、それを相手が簡単に受け入れるわけがなかった。


「何故?顔と目を見て話せない分、これぐらいはいいだろ?」

「…っ」


理由は分かってるくせにと、心の中で叫ぶ。

身体は緊張状態で自由が効かない。

身動きができないことをいい事に、ガウラはヴァルの側頭部に頬を寄せた。


(…嫌な予感がする…)


そう思っていても、身体は硬直していて動けない。


「……ヴァル」


耳元で囁くように名前を呼ばれる。

耳にかかった吐息で、ビクッと身体を震わせる。

心臓が痛いぐらいに激しさを増す。

肩を抱き寄せていた彼の手が、首筋をなぞる。


「~~~~っ!?」


その力加減は絶妙で、ゾクゾクとした感覚が全身を支配する。


「ちょっ…、ガウ…ラ……っ、やめ……っ」


その感覚から逃れたくて、身を捩る。

触れられていない側の首筋が、彼の目の前で無防備に晒される。

彼はその首筋に吸い寄せられるように顔を寄せ、軽く食むように口付けた。


「…んあっ」


聞いたこともない甘い声に、ガウラの動きが止まった。

ヴァルもまた、自分自身から出た声に驚き、両手で口を塞ぐ。

恥ずかしさで居た堪れなくなったヴァルは勢いよく立ち上がり、自室へと逃げ去った。

その姿を呆然と見ていたガウラだったが、状況が理解出来ると意地悪い笑みを浮かべたのだった。



***********



「はぁ~………」


翌日、ヴァルは家事を終え、大きな溜め息を吐いた。

今、ガウラは用事で家を空けている。


「なんか…、日に日にガウラの行動が過激になってる気がする……」


正直な所、ガウラが積極的なのは嬉しい。

パートナーになってから、積極性が出始めたのは事件の後。

それだけで嬉しかったし、その後嫉妬や独占欲まで垣間見える様になったのには驚いたぐらいだ。

しかしである。

今回、ヴィエラ族に変わったことで、自分の反応を楽しんでいるからこそ、エスカレートしている気がした。

だが、これはいつも通りに振る舞えない自分に原因がある。

普段からガウラにだけは、感情が抑えきれていなかった。

その問題が、今回大きく結果として現れただけのこと。


「また、修行……し直さないとな……」


急激な疲労感。

それもそうだろう。

彼がいる時は、常に緊張状態だったのだ。

身体を休めようと、暖炉の前で横たわると、暖かさで一気に眠りについた。



**********



「ま~たこんな所で寝てる…」


用事から帰ってきたガウラ。

暖炉の前でスヤスヤと寝息を立てているヴァルの姿があった。

ヴァルと知り合ってから、今まで何度かこうして床で寝ているのを目撃していた。


「ヴァル、こんな所で寝てたら風邪ひくよ」


彼女の傍に行き、身体を揺するが起きる気配は無い。

どうしたもんかと思考を巡らしていると、ヴァルが小さく呻き声を上げた。


「ぅうん……ガウ、ラ………」


この寝言がガウラの口角を上げさせた。

ヴァルに覆い被さるように近付き、頬を軽く叩く。


「ヴァル。起きろ」

「んんっ……」


呻きながら薄ら目が開かれる。


「ガウ、ラ?……いつの間に帰って…………っ!?」


視界には、至近距離にある彼の顔。

一気に目が覚め、顔が熱くなる。


「なぁ、どんな夢を見てたんだい?」

「な…っ?!」

「寝言で私の名前を呼んでた」

「っ?!!」


両手で口を抑え、顔を背けるヴァル。


「夢に見るぐらい私の事が好きなんだ?可愛いねぇ」

「~~~っ!!!」


身動きができないまま、恥ずかしさで悶絶している彼女の様子に、ガウラの口角は更に上がる。


「それにしても、こんな所で無防備に寝てるなんて…、私に襲われても文句は言えないよなぁ?」

「へっ?!!」


彼の衝撃発言に、弾かれるように顔を見た。

見てしまった。

その顔は、意地悪な笑みを浮かべながら恍惚としていた。


「あ……ぅ……っ」


何か言葉を発しようとするが、上手く言葉にできないほど、頭の中がパニック状態のヴァル。


「あぁ…、もしかして…」


彼は言葉を紡ぎながら、ヴァルの片脚を抱えた。


「襲われるのを望んでたのかい?」

「ーーーーっ!!!?」


ブンブンと顔を横に振る彼女の反応に、片脚を抱えたまま身体を近づけた。


「ふふっ♡ヴァル、可愛いね♡」

「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」ーーーっ!!!?」


声にならない悲鳴を上げて、ヴァルはオーバーヒートした。

その様子を見たガウラは、思わず笑い出した。

笑い声に少しハッとしたヴァルは、両手で顔を覆った。


「……うぅ……っ、ひどいぃ……っ」


もう、感情がぐちゃぐちゃで泣き出すヴァル。

そんなヴァルの背中を撫で、笑いながら“ごめんごめん”と言うガウラ。

泣きながらも、ヴァルは心の中で“元の姿に戻ったら覚えとけよ”と、強く復讐を決意したのだった。

とある冒険者の手記

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