V.プリンセスデー2025

「髪型を変えたのかい?」


編み込みポニーテール姿のヴァルを見たガウラの第一声だった。

そして、ヴァルの服装も普段着ない物を着用していることに気がつく。

首元と肩が隠れるマーシャルアーティスト·ベスト。

彼女が普段着で、きっちり首元を隠した服を着ていることが珍しい。


「服も、あまり着ないタイプのだね」

「……たまには、こういうのも良いと思ってな…」


目線の合わない彼女の表情は、少し気まずそうだ。

それには心当たりがあった。

数日前、ガウラは感情が抑えられず、衝動的に彼女の首筋に噛み跡と印をつけてしまった。

これはヴァルなりの予防線なのだろうと察しがついた。


(でも、確か…)


この服には、1部問題があったはずだ。

なんだったか思い出そうとしていると、飲み終えたカップを片付ける為に席を立とうとしたヴァルの後ろ姿を見て思い出した。


「ヴァル、待った」

「ひぇっ?!」


胴に手を回し、彼女を抱き寄せる。


「こら!危ないだろっ!」


危うくカップを落としかけ、赤面しながら彼に文句を言うが、ガウラは気にせず口を開いた。


「なぁ。その服選んだ理由は、この間の事が原因だろ?」

「………」

「でもさぁ、ひとつ見落としてないかい?」


ガウラの口角がイタズラに上がる。


「腰がガラ空き♡」

「ひゃあっ!」


腰に感じた感触に、ヴァルは悲鳴を上げた。

この服の問題。それは腰の部分が露出している事。

その部分にガウラは口付けたのだった。


「ふふっ♡詰めが甘いねぇ♡」

「にゃっ?!…ちょっ…んあっ!!」


腰に軽く吸うようなキスを繰り返され、身体を走る痺れに甘い声が漏れる。


「ガウラっ、そこ…、ダメだっ…てぇっ」


涙目になりながら訴えるヴァル。

それもそのはず、口付けられてる部分は尻尾の付け根に近い。

そこは、ヴァルの弱点。

だからこそ、以前ガウラがナンパ被害に会った時、付け根を撫でられたと聞いて怒りが隠せなかったのだ。


「ぃやっ…、やめっ…」

「可愛いねぇ」


なかなかキスを辞めないガウラ。

さすがにこれ以上は、色んな意味でおかしくなりそうだったヴァルは、声を荒らげた。


「ガウラっ!!!」

「あははっ!ごめんごめん!」


やっと彼から解放されたヴァルは、真っ赤な顔のまま逃げるようにカップを片付けに行く。


(この服もダメか…っ、くそっ!)


ヴァルは心の中で悪態をついたのだった。



***************



その日の午後。

カーフスキン・ライダースジャケットに着替えたヴァルは、ガウラの提案でウルダハで開催されているプリンセスデーに来た。

なんでも、執事王子なる歌い手がデビューすると言うので、ステージを観に行こうとなった。


「ヴァルは執事王子、気になるかい?」

「別に…、コンセプトが執事と王子ってだけで、ただの歌い手だろ」


素っ気なく答えるヴァル。

彼女を横目で見れば、興味無さそうな顔をしていた。

ステージ前に着くと、執事王子と同じ衣装を貰い、2人は観客の1番後ろで壁に寄りかかり腕を組んでステージを見つめる。

そして、ショーの開始時間になると、執事王子ピコットが登場した。

どうやらクイックサンドの提供で、期間限定メニューに舌鼓を打ちながらショーを楽しめるようだった。

一通り説明を終えたピコットは、観客に向かって言った。


「どうか、私からも目を離さないでくださいね?……妬いてしまいますから」


その言葉で、観客の女性達は黄色い悲鳴をあげる。

そして、歌が始まった。


「はぁ…、あんなので興奮する気持ちが分からないな」


そう言って、ショーが始まったばかりだと言うのに、ヴァルは移動を始めた。


「何処に行くんだい?」

「クイックサンド。限定メニューは気になるからそっちで食べる」

「じゃあ、私も行くよ」


2人はクイックサンドで、お目当てのメニューを注文する。

食事中、相変わらずヴァルと目線は合わないが、会話はいつも通り弾んでいた。



***************



ウルダハから帰宅した2人は、各々別の行動を取った。

ヴァルは夕食の準備。

ガウラは自室へ。

夕飯が出来上がる頃、階段を降りる音が聞こえた。


「ちょうどいいタイミングだな。そろそろ出来る……ぞ……」


声をかけながらガウラの方を向いたヴァルは固まった。

そこには、執事王子の衣装を着た彼が居たからだ。

うっかり顔まで見てしまったヴァルは、真っ赤になって慌てて視線を逸らした。


「似合ってるかい?」

「……ガウラは、なんでも似合うだろ……」


そう言うヴァルの元に向かって来るガウラ。

ヴァルの前まで来ると、彼女の顔を見ながら執事の様に礼をして言った。


「どうか、私から目を離さないでください?……また、妬いてしまいますから」

「っ?!」


執事王子ピコットの言ったセリフをアレンジした言葉に、ヴァルは思わずガウラを見る。

少しイタズラっぽい笑みを浮かべたその顔は、ヴァルの熱を上げるには充分だった。


「ふふっ、さっき“あんなので興奮する気持ちが分からない”って言ってなかったかい?」

「そ、それは…っ」


ガウラの指摘に、タジタジになっているヴァルが可愛く思える。


「なのに、なんで紅くなってるんだい?」

「~~~っ!!分かってるだろっ!!そんなことっ!!」


真っ赤な顔のまま、ヤケになって叫ぶ。

そんなヴァルが愛おしくて仕方ないガウラは、ヴァルを抱き寄せて顎を持ち上げる。


「ヴァル、可愛いね」


そう言って、ヴァルの唇に自分の唇を重ねたのだった。




とある冒険者の手記

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