V.特別

カーラインカフェのテーブル席に、男2人と向かい合うように座るヴァルの姿があった。

グリダニアに買い出しに来ていた彼女はこの2人にナンパをされたのだ。

そこで、とりあえずカーラインカフェで席を取り座ったのだが、男2人はニヤニヤして下心を隠しきれていない。

ヴァルは心の中で溜め息を吐き、コップの水を1口飲むと少し恥ずかしそうに「御手洗に行ってきます」と言ってその場を離れた。

2人に見つからないようにコッソリと外に出てしばらく歩いていると、身体に異変を感じ始める。

全身が少しずつ熱を持ち、神経が敏感になっているのに気がついた。

服が肌に擦れる度、痺れるような感覚。


(これは媚薬か?…マズイな…)


以前、裏稼業をしていた関係で、ある程度の薬の耐性を持っている彼女。

媚薬に対しても耐性を持っていたのだが、身体に症状が現れるという事は、これまでとは違う製法や成分で作られた物の可能性が高い。

徐々に身体の症状は強くなり、動く度に服から与えられる甘い痺れが激しくなる。

なんとか歯を食いしばり、帰宅しようと足を進めていると、後ろから声がかけられた。


「なかなか帰ってこないと思ったら、こんな所まで逃げてたのかよ」


振り返ればそこには先程の男2人が、ヴァルを追いかけてきていた。


(………くそっ)


ここまで、刺激に耐えながら移動してきたせいで、呼吸は荒くなっている。

それを見た男の1人は嫌な笑みを浮かべ、口を開いた。


「へぇ~、1口だけでもかなりの効果があるんだな」

「何を…飲ませた……っ」

「最近、裏で流行ってるラブドラッグだ。結構高かったんだぜ?」


やっぱりかと、舌打ちをする。

すぐにでもこの場から逃げ出したいが、こうしてる間にも薬の効果はどんどん強くなっており、立っているのもやっとの状態。


「なぁ、相当辛いんじゃないか?美人さん」


男の1人がゆっくりヴァルに近づいてくる。


「薬が効いてる間、俺達と楽しめば楽になれるぜ?」


ヴァルに向かって手が伸びる。


「あたいに…触るなぁっ!!!」


伸ばされた手を勢いよく払い、走り出そうとした瞬間。


「くぁっ!!!」


急に動いたことによって、全身に強い刺激が走り、倒れ込んでしまう。


「はっ………ぁ……っ」


全身が震えて、力が入らない。


「ほらほら、強がってないで俺達と遊ぼうぜぇ」


男がそう言って、彼女の腕を掴んだ時だった。


「お前ら、その子に何してるっ!?」


声の方向を見れば、そこにはガウラの姿があった。

彼のその顔は、激しい怒りに満ちている。


「…ガ……ゥラ………っ」


か細い声で名前を呼ぶ。

彼女の赤く染った頬に涙目で苦しそうな表情は、彼の怒りを増長させるには充分だった。


「その手を離せ、その子に手を出したら許さない…」


静かに地を這うような声で、男等に言い放つ。

だが、男等はゲスな笑顔を浮かべながら言った。


「手を出したらどうなるんだァ?ヤサ男さんよぉっ!!」

「ぁぁああああっ!!!」


腕を勢いよく引っ張られ、後ろから抱き抱えられた衝撃で、刺激が全身を走り、ヴァルの口から悲鳴が上がる。


「うっ……くっ……」

「ホント、そそるよなぁ?クールビューティな女が快感でグズグズになる姿は…、そう思わねぇか?ヤサ男」


男は、ガウラから視線を離さずに後ろからヴァルの首筋を舐め上げた。

その瞬間、ガウラの中でプツンと音がなった。

一気に距離を詰め、男の顔面をぶん殴る。


「ぶはっ!!!」


男は吹っ飛び、開放されたヴァルはガウラの身体に倒れ込む。

それをしっかり抱きとめる。


「……はっ……うぅっ…」

「ヴァル、大丈夫かい?」


苦しそうに呻くヴァルの耳元で、囁くように尋ねる。


「…苦……し……ぃ……」

「少しだけ我慢しててくれるかい?」

「……ぅん……」


ガウラの言葉に、ヴァルが小さく頷くと、彼は彼女を静かに座らせ、自分の上着を彼女の頭に被せた。

そして、立ち上がり男等の方を見ると、吹っ飛んで伸びている男の身体を慌てた様子で揺すっているもう1人の男。


「しっかりしろよ!起きろって!」

「…おい」

「ヒッ!」


ガウラは男の胸倉を掴む。


「彼女に何をした?」

「く、薬を盛っただけだっ!」

「何の薬だ?」

「ラブドラッグ!超激ヤバの媚薬だよ!」


恐怖で簡単に情報をペラペラ話す男。

聞きたい情報を全部聞き出し、胸倉から手を離すと同時に、男の鳩尾に思いっきり拳を打ち込んだ。


「ぐえっ……!!」


男は膝から崩れ落ち、気を失った。


「これは…どういう状況だ…?」


声に振り向けば、そこにはザナの姿。


「ザナか…」

「ガウラこれは一体?」


ザナに状況を説明すると、難しそうな顔をした。


「もう一般人の方にまで出回り始めたのか…」

「なぁ、お前たち黒き一族は薬に耐性があるんだろ?」

「ヴァルから聞いたのか?」

「あぁ。昔、そんな話を聞いた」

「確かに、ある程度の薬の耐性を持つように訓練されてる。けど、この薬は新薬でな、俺達にも耐性のない薬なんだ」


それを聞いて、ヴァルの元に戻り、膝まづく。


「解毒薬みたいなのはないのかい?」

「ないな。薬の効果が切れるのを待つしかない。効果時間はヴァルがどんだけの量を飲んだかによるけど…」

「緩和する方法は?」


ガウラの質問に、ザナは聞いにくそうに言った。


「手っ取り早いのは…抱くことだ」

「………」


ガウラは言葉に詰まった。

その様子を見て、ヤレヤレといった素振りを見せた。


「ま、あんたらがそこまでの関係になってないのは、何となく分かってたけど…」

「……他にはないのかい」

「他の方法ねぇ。あるとしたら、相手の弱い部分を刺激してやればいい。この薬は全身を性感帯にする様な強い物だ。普段から敏感な所を刺激してやれば、緩和されるだろうな」

「…………」

「あんたにそれが出来るのか?」


ザナの問いかけに、ガウラは考え込む。


「それが無理なら、代わりに俺がヴァルを抱ぃ……っ?!」


ザナは言葉が詰まる。

ガウラがヴァルにかかっていた上着を取り、ザナに見せつけるように彼女に口付けをしたのだ。


「んんっ……ふっ……ぅんんっ」


ヴァルの鼻から抜ける甘い声。

目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーンに、ザナは呆然とする。

それもそのはず。

見たことないヴァルの表情と、ガウラを求める姿。

自分を挑発的に睨むガウラ。


“お前に付け入る隙はない”


そう言われている様だった。



***************



男等の処理をザナに任せ、ヴァルを抱えて帰宅したガウラは、そのままヴァルの部屋へと向かい、彼女をベッドの上に座らせた。

息荒い彼女は、薬のせいで完全に限界状態だ。


「……ガ……ゥラぁ、たす……け…てぇ………」


上目遣いで、か細い声で名前を呼ぶ。


「…ヴァル、すぐ楽にしてやる」


そう言うと、先程ザナに見せつけたような濃厚なキスをする。

ヴァルも、求めるように舌を絡ませ、ガウラの首に腕を回してしがみつく。


「ぅんっ……んんっ……はぁっ」


甘い声が部屋に響く。

キスを続けながら、ガウラは考える。

ヴァルの弱い部分。


(…首……?)


そう思い当たり、ヴァルから唇を離し、首筋に軽く吸い付いた。


「んぁああっ」


ヴァルの首が仰け反る。

その反応に確信したガウラは、首筋に舌を滑らせ、何度も痕を残すように吸い付く。

その度に、身体を小刻みに痙攣させ、甘い声を発するヴァル。

だが、これだけではまだ足りない。

他に何処か無いか考え、何気なくヴァルの腰を撫でると、彼女が大きく仰け反った。


「ふぁあああっ」

「……ここか」


そこでふと気がついた。

自分も、尻尾の付け根が弱点だと言うことに。

ガウラはヴァルの首筋にキスをしながら、尻尾の付け根を軽く握り、生え際を親指で優しく扱く。


「ぁあっ…ガゥラっ…そこっ……ぃいっ」


親指の扱く速度を早くしていく。


「はっ、あっ、ああっ、やっ、ぃ……っ」


与えられた激しい快感に、ヴァルの限界が近いのを感じ取ったガウラは、彼女の首筋に軽く噛み付いた。


「─────っ!!!!」


その瞬間、ヴァルは声にならない悲鳴を上げ、身体を痙攣させた。


「はっ………あ………ぁ……」


痙攣が落ち着くと、糸が切れたようにガウラの身体にもたれかかった。


「少しは楽になったかい?」

「……あぁ…すまない……」


1度絶頂を迎えた事で、薬の効果が緩和され、少し正気に戻ったヴァル。


「まだ、薬は切れてないんだろ?」

「あぁ、時間が経てば、また波が来るはずだ……」

「安心しな。効果が切れるまで、いくらでも付き合うから」

「……うん……」


次の波までのつかの間の安息であった。



***************



「……はぁ………」


シャワーを浴びながら、大きな溜め息を吐くヴァル。

薬の効果が完全に切れ、落ち着きを取り戻した彼女は、汗やら何やらでベタベタする身体を流しに来ていた。

今日のことを振り返る。

自分の不用心が招いた今回の事件。

ガウラの手を煩わせてしまった後悔と情けなさ。


「…裏情報は、少しでも知っておいた方がいいな…今後のためにも…」


今回は自分だったからよかった。

これが元の姿のガウラだったらと思うと背筋が凍った。

彼女を危険に晒さない為にも、しっかり情報を掴んでおこうと決め、シャワーを終えて洗面所に出る。

タオルで髪を拭きながら、鏡を見る。

そこに映った自分の首筋と胸元には、沢山の痕が残されている。

それを見て、ヴァルは頬を紅らめる。


「痕を付けられても、今まで何とも思わなかったのに…」


痕をなぞり、呟いた。


「なんでガウラが付けた痕は、こんなにドキドキするんだ…」


恐らく、これはガウラがどんな姿で付けたとしても変わらない。

それだけ、特別な存在なのだと、改めて実感したのだった。

とある冒険者の手記

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