V.好きじゃ伝えきれない

シャワーを終えて出てきたヴァルは、そのままリビングに向かう。

そこには、紅茶を飲んでいるガウラの姿があった。


「さっぱりしたかい?」

「あぁ」

「紅茶淹れたから飲みな」


そう言って、用意されていたカップに紅茶を注ぐ。

ヴァルはガウラの隣に座り、紅茶を受け取り、一口飲む。

その表情は、少し暗く沈んだ様子だった。


「大丈夫か?まだ、どこか調子がおかしいのかい?」


心配そうに尋ねる彼に、ヴァルは首を横に振った。


「いや。ただ、今回みっともないところを見せた上に、迷惑をかけた……」


今回の事は裏社会の情報を持っていれば防げた事、被害にあったのガウラだったらと思うと肝が冷えた事、今後は裏の情報も仕入れることを告げた。


「ヴァルが冒険者として裏社会から離れようとしてたのは知ってるけど、今回の事を考えたらその方がいいかもな」


紅茶を口にしながら、そう答えるガウラ。

そんな彼を横目でチラリと見て、ヴァルは口を開いた。


「それと、少し不安になったんだ」

「不安?」

「あぁ。これまで裏稼業をしてきた自分が、こんなに幸せで良いのか?って」

「?幸せなのは良い事じゃないのかい?」


首を傾げるガウラ。


「あたいが今までしてきた事を考えるとな。何処かで大きなしっぺ返しが来てもおかしくない」


ヴァルは続ける。


「今のあたいは、望んでた以上に幸せな環境にいる。それが一瞬で崩れ去ってしまったら…」

「崩れ去る…例えば?」

「…ガウラとの関係が解消される様な事があったら…、あたいはもう、以前の様な生活は無理だ…」

「それは、私がヴァルを捨てるってことかい?」

「いや………あたいの過去を考えれば、敵は多い。そのせいでガウラまで非難の目に晒される事になるなら、あたいはガウラから離れる選択肢を取るだろう。でも、その後の生活は……想像できない。そうなるのが怖い」

「………」

「過去は消せない。人間は過去の過ちを引っ張り出して非難する奴が五万といる」

「ヴァル、お前は私をなんだと思ってるんだい?」

「え?」


溜め息を吐き、ガウラは言った。


「全世界を敵に回しても、私はお前を護るし、お前の味方だよ。過去なんて過ぎてしまった事に囚われて、今を見ようとしない奴らはこっちから願い下げだ」

「……ガウラ」

「お前の過去がどうあれ、大事なのは今だろ。それに、私はお前を手放すつもりはないよ」


彼の顔を見る。


「ヴァルと過ごして、特別な感情を知って、今じゃ1人の時間が寂しいって思う様になった。私が弱みを見せられるのもヴァルだけだ。そんな存在をどうして手放せるんだい?お前が私を護りたいと思うのと同じ様に、私もお前を護りたいと思ってる。私は─」


そこまで言って、ガウラは言葉を止めた。


“私はお前が好きだ”


その言葉では足りない気がした。

言葉を探して、ピッタリな言葉を見つけた。


「私は、お前を愛してる。ずっと一緒にいる。どんな事があってもね」


その言葉を聞いたヴァルは、目を見開いた。

信じられないという表情。

そして、その瞳から大粒の涙が溢れ、幾つも頬を伝っていく。


「…ガウラ…」

「ヴァルが真っ直ぐ気持ちをぶつけ続けて、私に届いた結果だ。だから、不安なんて感じるな。胸を張って私だけ見てればいい」


静かに涙を流し続ける彼女に、ガウラは続けた。


「だから、ヴァルには笑ってて欲しいな」


その言葉に、ヴァルは涙を流したまま笑顔を浮かべた。

それを見たガウラも、優しく笑みを浮かべ、彼女を抱きしめた。


「ヴァル、愛してるよ」

「ガウラっ…あたいも、愛してる」


そう言って、ヴァルはガウラに口付けた。

そんな彼女が愛おしくて堪らない。

恋を知らなかった自分が、こんなにも誰かを愛する日が来るなんて、以前なら想像できなかった。

最初はヴァルの一方通行な想いだったが、今は違う。


(愛って凄いな)


そう実感した出来事だった。

とある冒険者の手記

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