A.共に強くなろう

グリダニア双蛇党屯所内。

双蛇党から招集がかかり、アリスとヘリオは上官の前にいた。


「君達に来てもらったのは他でもない。今、黒衣森内でちょっとした問題が起こっていてな。その問題解決の協力を頼みたい」


内容は、傭兵集団のアジト制圧。

この傭兵集団は、国同士の戦いに戦果を残す程の大きな組織であった。

特に、エオルゼアとガレマール帝国の戦いにおいて、帝国側に着いていた。

帝国が彼等を雇っていた理由は、彼等が魔道士集団だったからである。

だが、今やエオルゼアと帝国の争いは終わり、彼等は食い扶持を失った。

そんな彼等が取った行動は、自分達の実力を使っての奪略行為。

それを問題視した双蛇党は、既に何人もの部隊を送り込んだが、彼等の戦力と連携に太刀打ちが出来ず、返り討ちにあった。


「帝国やイクサル族の問題が良い方向に向かっているとはいえ、流石にこれ以上の被害は抑えたい。そこで、英雄殿と共に戦った事のある君達なら、この問題を何とか出来るのではと思ってな」


そして、上官は最後に言った。


「この件は、不滅隊にも協力要請をしている。もしかしたら、不滅隊所属の者と会うかもしれん。その時はそちらと協力してくれ」


それを聞いて、2人はこの件を引き受けることを決め、準備をして問題のアジトへと向かった。


辿り着いた場所は大きな洞窟。

敵との遭遇に備えて、周囲を警戒しながら足を進める。

その洞窟は、まるでダンジョンの様に大きく、所々で大きなフロアの様な空間に出くわした。

そして、更に奥へと進んでいくと、人の話し声が聞こえ始める。

アリスはヘリオと顔を見合わせ頷くと、警戒を更に強めながら進む。

声がハッキリと聞こえてきた場所はかなり開けており、天井部分が大きく開いていて、生い茂る木の葉と空が見える。

そこに居るのは約10名ほど。

だが、よく見るとそのフロアの先にも通路があり、何人いるかは検討がつかなかったが、ここで立ち往生していても意味が無いので奇襲を仕掛けることにした。

ヘリオが賢具を操り、フレグマを放つ。


「ぐわぁっ!!!」

「なんだ?!」

「敵襲だっ!!」


そこに、アリスが一気に飛び出し敵を倒していく。

ヘリオもそれに続き、バリアを発動させつつ、敵に攻撃を仕掛けていく。

騒ぎを聞きつけ、奥の方から次々に姿を現す傭兵集団のメンバー達。

それを2人は見事な連携で冷静に対処し、確実に倒していく。

国同士の戦いに雇われるだけあって、倒した人数がかなりの数になったが、一向に増援は止む気配が無い。

そんな時、拍手の音と共に敵の動きが止まった。

音の方を見ると、リーダーらしき男が手を叩きながら出てくるところだった。


「いやぁ、なかなか良い腕をしてますね。見た所、冒険者の様だが…、双蛇党も人手不足ということでしょうか?」

「お前がリーダー格か?」


アリスが男に問いかける。


「いかにも。私が魔道傭兵団の団長です」

「仮にも傭兵団だったお前達が、なぜ野盗まがいの事をしてるんだ」

「生きる為ですよ。争いがあった時は良かった。良い稼ぎになりましたからね。でも、今はどうです?国に雇われるのと、1商人に雇われるのでは報酬の額も違う。ましてや、我が団は大所帯だ。稼ぎがなければ皆共倒れですからね。効率を考えると、物資と金品の奪略が1番手っ取り早かった。ただそれだけですよ」

「お前達に傭兵としてのプライドはないのか」

「プライドで生きて行けるなら、こんなことはしていませんよ」


団長はそう言うと、真っ直ぐアリス達に向き直った。


「さて、無駄話はこの辺にして、そろそろ貴方達には消えて貰いましょうか」

「何人でかかってきても無d…」

「アリスっ!上だっ!!」

「っ!?」


ヘリオの言葉にアリスが上を向くと、大穴を囲む様に敵が立っており、その中心には大きな魔法の塊が出来ていた。


「我が団の協力魔法の時間を稼がせていただきました。私がただ無駄話をしてるとお思いとは、平和ボケでしょうか?まぁ、私には関係ないですがね」


団長はそう言うと、2人に一礼をした。


「それでは御二方、さようなら」


それを合図に、巨大な魔法の塊が2人を襲う。

ヘリオは咄嗟にバリアを発動させ、アリスはパッセージ・オブ・アームズを展開させる。

何人もの術者が作り上げた魔法の塊の威力は物凄く、それを受け止めているアリスの足元は、少しずつ地を滑る。

ヘリオが発動させたバリアも、その威力に耐えられず、割れては再度バリアを張り直すを繰り返す。

かなりの時間、その魔法を耐えていたが威力は衰えず、遂にパッセージ・オブ・アームズの効果時間が限界を迎えた。


「ヘリオっ!!!」

「っ!!」


パッセージ・オブ・アームズが切れた瞬間、アリスは咄嗟に後ろに居たヘリオを庇った。

それと同時に、ヘリオも新たにバリアを張ったが、パッセージ・オブ・アームズを失った状態では為す術もなく、一瞬でバリアは砕け散り、2人を物凄い衝撃を襲った。

魔法は2人と地面に衝突し、消滅した。

その後には、ボロボロになって倒れている2人の姿があった。


「呆気ないものですね。まぁ、あれを食らって生還できた者は……おや?」


団長が言葉を止める。


「…うっ……くっ……」


呻き声を上げて身動ぐヘリオを見て、団長は驚きの声を上げた。


「これはこれは!あれを食らって生きているとは!」


ヘリオは身体を起こそうとして、力無く覆い被さっているアリスの存在に気が付いた。


「……アリ…ス…?」


自分よりダメージが酷い状態のアリスを見て、彼の体を押しのけ起き上がる。


「おいっ!アリスっ!!しっかりしろっ!!」


アリスの頬を軽く叩き、呼びかけるが、彼は何の反応も返さない。


「咄嗟に貴方を庇うとは、流石ナイトと言ったところですか…。ですが、あれをまともに食らっては、息があっても長くは持たないでしょうね」

「………」


アリスに伸ばされているヘリオの手が震え始める。

なぜ、アリスが団長と話している間に敵の動向を見抜けなかったのか。

自分の実力不足が原因でアリスが死にかけている。


(俺は……何をしていたんだ……)


今まで感じたことの無い程の激しい感情。


自身の不甲斐なさと、自身への怒り。

そして、アリスを失うかもしれない恐怖。


ヘリオの呼吸が荒く乱れる。


「ヘリオっ?!アリスっ!?」


その時、フロアに響いた声。

協力要請によって不滅隊から派遣されたガウラの声だった。

2人に駆け寄るガウラを追う様に、一緒に来ていたヴァルも続く。


「おいヘリオっ!一体何があった?!」

「…………」

「おいっ!!」


ガウラが問い詰めるが、ヘリオはアリスを見つめたまま動かない。


「援軍ですか?まぁ、たった2人増えた所で何か変わることはないですがね」


団長は哀れそうな表情をした。


「ナイトさんは仕事を全うしたというのに、賢者さんの能力不足で死にかけているとは、なんともあわr…」

「黙れ……」


ヘリオはゆっくりと立ち上がる。

そして、団長の方を向いた。


「おや、自分の弱さを指摘されて逆切れですか?」

「黙れぇぇええええええええっ!!!!」


ヘリオが吼える。

それと同時に賢具を操り、手当たり次第に敵を攻撃していく。


「ガウラ!あの戦い方は危険だ!援護するぞっ!!」


ヴァルの言葉に、ガウラは頷き援護する。


「ぁぁああああああっ!!!!」


発狂しながら、バーサーカーの様に暴れるヘリオ。

こんなに激しく取り乱したヘリオに驚きながらも、彼を援護するガウラとヴァル。

次々と仲間が倒されていくのを見た団長は、少しずつ焦り始める。

取り乱しているヘリオだけなら何とかなっただろう。

だが、援軍として来た2人の実力が予想以上だった。

あっという間に仲間は倒され、自分一人になった団長の前に、ヘリオが立ち塞がる。

そのヘリオの形相に、団長の全身が震え上がる。

ヘリオが団長に向かって、賢具を仕掛けようと手をかざそうとした瞬間。


「ヘリオっ!落ち着けっ!!」


後ろからヘリオを羽交い締めにして、動きを止めたのはガウラだった。


「そいつまで再起不能にしてしまったら、取り調べも、罪を償わせることも出来なくなるぞっ!!」


それでも、ヘリオはガウラを振り切ろうと暴れている。

それを見かねたヴァルが、団長に手刀を入れて気絶させる。


「これで逃げられる心配はないだろ」

「………っ」


そこでやっとヘリオが大人しくなった。


「そんなことより、お前はアリスを回復させた方がいいんじゃないのか?」


ヴァルが冷静に言い放つと、ハッとした様にヘリオはアリスの元に駆け寄った。

よく見ると、まだ微かに息があった。

回復魔法をかけようと手をかざすが、震えと動揺で上手く魔法が発動しない。

その様子に、ガウラはヘリオの両肩を掴んだ。


「しっかりしなっ!!お前はヒーラーだろっ!!」


そう言われたヘリオの表情は、今まで見た事のないほど動揺している。


「邪魔だ、どけ!」


ヘリオを押し退け、アリスの前に跪いたのはヴァルだった。

白魔道士にジョブチェンジした彼女が、アリスにケアルをかける。

これは、アリスの身体の負担を考え、敢えて弱い魔法で少しずつ回復をさせる為だった。


「ガウラ。あたいがアリスを回復させてるうちに、双蛇党に解決の報告を頼めるか?」

「わかった」


返事をして外に向かう為に立ち上がる。

その時にヘリオを見ると、放心状態で座り込んでいた。



***************



アリスが双蛇党兵舎の医務室に担ぎ込まれた後、ヴァルは不滅隊に今回の報告をすると言って、兵舎から出ていった。

ガウラは、休憩室でアリスが目覚めるのを待っている間に、彼女はヘリオから何があったのかを聞き出した。

語り終えたヘリオは拳を壁に叩きつけ、自分を責めていた。

その姿を見たガウラは、なんて言葉をかけていいか分からなかった。

以前なら、叱咤激励をしていただろう。

だが、今自分が同じ状況になった時、冷静で居られる自信がなかった。

ヘリオの気持ちが痛い程理解できるからこそ、言葉が見つからなかった。


しばらくして、アリスが目を覚ましたと報告が来て、医務室に向かい中に入る。


「ヘリオ、良かった。無事だったんだな」


ベッドに横になったまま、ヘリオの顔を見て安心した顔をする。

そして、ガウラの姿を見つけて、申し訳なさそうな顔に変わる。


「義姉さん…」

「目が覚めて良かった」

「…すみません。心配をおかけして…」

「状況は聞いた。今回はいつもの無茶をしたんじゃないんだから謝るな。お前はよくやったよ」


労いの言葉に、小さく笑って礼を言うアリス。

ヘリオは無言だった。

その手は拳を握りしめているのに気付いたガウラは、小さく溜め息を吐いた。


「じゃあ、私はヴァルにお前が目を覚ました事を伝えに行ってくる」


そう言って部屋を出て行き、アリスとヘリオは2人きりになった。


「ヘリオ、心配かけてごめんな。こんな怪我して、まだまだ修行が足りないn…」

「……なんで」

「?」

「なんであんたは、俺を責めないんだっ!!」

「え?」


突然叫ぶように言ったヘリオに驚くアリス。


「今回は、明らかに俺の実力不足だろっ!?そのせいであんたは死にかけたっ!!それなのに、なんであんたが俺に謝るんだっ!!!」

「……ヘリオ」

「あの後、姉さん達が駆けつけてなかったら、俺はあんたを死なせてたっ!!ヴァルが居なかったら、あんたは一命を取り留めてなかったんだっ!!」


感情任せに吐き出すヘリオ。

初めてみる姿に、驚いた表情のアリス。


「俺は……っ、俺は……っ」


ヘリオの声が震え始める。


「あんたが死にかけてるのに、何も出来なかった……っ」


そう言った瞬間、ヘリオの瞳から涙がボロボロと零れ始める。


「ヘリオ……。ヘリオは悪くない。俺が悪いんだ」


アリスの言葉に、ヘリオは首を横に振る。


「あんたは、悪くない…っ」

「そんなことないよ。パッセが切れた時、インビンが発動出来てれば怪我しなくてすんだしさ。だから、ごめんな」


アリスはそう言って、ヘリオの拳を握る。


「あんたは…優しすぎる…」

「そう?でも、まぁ、ヘリオが今回のことで思う所があるなら、一緒に強くなろ。二度と同じことが起きないように、ね?」


アリスが微笑みながらそう言うと、ヘリオは空いている手の袖で乱暴に涙を拭った。


「……あぁ、そうだな」


ヘリオはベッド脇の椅子に腰掛け、アリスの手を両手で握った。


「あんたが助かって、本当に良かった……」


そう言ったヘリオの瞳からは、再び涙が零れ落ちたのだった。

とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

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