現パロ:それは嵐の様だった
「はぁ…、どれもパッとしないな…」
書類をデスクに放り、大きく溜め息を吐く女性。
彼女は今話題の敏腕女社長、ヴァル·ブラックその人だった。
デスクに投げられた書類は、色白の肌に白い髪をした女性モデルの一覧。
新作の服の広告を打つ為、最低限の条件を満たしたモデルの顔を全て確認したが、どれもイメージにそぐわなかった。
「このままだと、今回の新作はお蔵入りになる可能性も出てきたな…」
そう言って、広告用に使う服に目をやる。
白を基調とし、ほんのりピンクの入ったワンピース。
上品なレースで可愛さもありながら、大人っぽさもあるモノだ。
「可愛さもあり、凛々しさもあり、儚さもある人間なんて、そうそう居ない……か」
そう呟いて、デスクの電話に手を伸ばす。
「もしもし。ルヴァか?もう帰るから車を回しておいてくれ」
要件を伝えて電話を切ると、彼女はそのまま荷物を持って部屋を後にした。
***************
帰宅途中の車の中で、何度目かの大きな溜め息を吐くヴァル。
その様子に、運転手であるルヴァは口を開いた。
「モデルの件で相当お悩みのようですね。ヴァル様」
その言葉に、窓のヘリに肘をつき頬杖を着いて彼女は答えた。
「あぁ。このままモデルが見つからなきゃ、あの新作はお蔵入りになるだろうな」
そう言って窓の外を眺める。
大きな橋の上を走る車。
ボーッとその下の河川敷を眺めていると、彼女は目を見開き、思わず窓に両手を着く。
河川敷には、白い髪に色白の肌の人物。
服装からして女性。
トランペットを吹いているのが遠目からでもわかった。
橋を渡り切った先の交差点で、赤信号で車が停まった。
「ルヴァっ!この近くの駐車場に適当に車を停めといてくれ!」
「えっ?!ヴァル様っ?!」
ルヴァの声を無視し、そのまま車から飛び出す。
微かに聞こえるトランペットの音を頼りに、河川敷に続く道を探しながら走る。
河川敷に辿り着くと同時に、演奏が止まった。
どうやら、楽器の手入れを始めたようだった。
その横顔は儚さを感じた。
ヴァルは呼吸を整え、ゆっくりと彼女に近づく。
ポニーテルをした髪はうっすらピンクのメッシュが入っている。
そして、その髪のサイドには花が飾られていた。
「その花、綺麗ですね」
そう声をかけると、彼女はこちらを見ずに言った。
「非売品だよ」
そのまま、手入れの手をとめない彼女。
「近くで見ても?」
「んー、どうぞ」
ヴァルは彼女の反応に苦笑した。
これは、作業に集中しすぎて、条件反射で話している。
一応許可をとったので、近くにより、花を見る。
髪飾りかと思っていたそれは、本物の花であった。
萎れず、美しい状態の花に驚きを隠せず見入ってしまう。
そこでヴァルは、仕事モードにスイッチが入った。
彼女の服装と花に合わせて、ヘアスタイルを整えたくなった。
「髪を少し整えさせてもらってもいいだろうか?」
「んー?うん」
相変わらず条件反射で返事をする。
ヴァルは荷物から道具を取り出し、彼女のヘアメイクを始めた。
両サイドから編み込みをしていき、余った部分をお団子にする。
そのお団子の右上の部分に、花を差し込んだ。
そして、元の位置に戻り、横からの見栄えを確認する。
(完璧だ)
出来栄えに満足していると、彼女は立ち上がり、再びトランペットを演奏し始めた。
その姿は、先程の儚げなものとは違い、凛々しさを纏っている。
その姿に見とれながらも、演奏に聞き惚れた。
演奏を終えた彼女は、トランペットから口を離すと満足気な表情をした。
ヴァルは、演奏の素晴らしさに自然と拍手をしていた。
それに驚いて、こちらに気づいた彼女の表情は、何とも可愛らしかった。
「素晴らしい演奏だった」
「あ、ど、どうも」
素直に感想を述べると、彼女は少し照れくさそうに少しモジモジした。
「だが、楽器の手入れや演奏に集中しすぎで空返事なのは少々いただけないぞ」
「へ?」
「髪」
「え?……あ、あれ?!」
自身の頭を触り、驚く。
「一応、許可を貰って弄らせてもらったが、これが男だったら襲われても文句は言えないぞ?」
「あ、あはは…」
苦笑いをする彼女に、ヴァルは困った笑みを浮かべて溜め息を吐いた。
「ところで、あなたは?」
「あたいはこういうものだ」
そう言って名刺を差し出す。
「株式会社B&B社長。ヴァル·ブラック?」
彼女の反応から、自分のことを知らないことが分かる。
自分の知名度もまだまだだなと、苦笑いする。
「主にアパレルショップを経営している。それ以外にも、コスメやランジェリーの販売。あたい自身はメイク、ヘアメイク、スタイリストやフラワーアート等を活動としてやっている」
「へぇ~。そんな人が私に何の様です?」
「そこなんだが、ここからはビジネスモードで話させてもらう」
ヴァルはそう言うと、メガネをかけ、雰囲気をガラリと変えた。
「私が貴方に声をかけたのは他でもない。貴方をスカウトしたいのです」
「スカウト?」
「我社は今、新作の服を宣伝するためのモデルを探しておりまして、モデル事務所や芸能事務所等に掛け合って、探しているのですが、イメージに合ったモデルが見つからず途方に暮れておりました」
「それで、私がそのイメージに合ってるってことですか?」
「その通りでございます。理解が早くて助かります」
モデルと聞いて、少し難色を示す表情になる彼女に、ヴァルは続けた。
「専属モデルになって欲しいとは申しません。今回限りで構いません。報酬はモデル料3万ギル。撮影に時間がかかれば時給発生で1時間1500ギルをお支払いします」
「……」
次第に警戒色が強くなる彼女。
「警戒されるのも無理はありません。上手い話には何かあるとお考えでしょう?もし、心配なのであれば、会社と私の名前を検索していただければ、信用できると思います」
「……少し考えさせてもらっても?」
「ええ、もちろんです。モデルを引き受けてくださる場合は、名刺にある私の携帯番号に直接かけて頂ければ助かります」
「もし、引き受けない場合は?」
「その場合は、連絡不要です。返事は来月まで待ちます」
「来月までに連絡がなかったらどうなるんですか?」
「その時は、新作はお蔵入りですね。残念ですが」
「お蔵入り?!モデルが見つからないだけで?!」
「ええ。私は今回の新作には思い入れがあります。だからこそ、モデルには妥協したくないのです」
ヴァルの言葉に彼女は考え込む。
「まぁ、来月までまだ3週間もあります。ご自宅に帰ってじっくり考えてみてください」
「あ、あぁ…」
「そういえば、お名前をお聞きしても?」
「私はガウラ、ガウラ·リガン」
「ガウラ…、いい名前ですね」
「あ、ありがとう」
「では、ガウラさん。いいお返事が貰えることを期待していますね」
そう言って、ヴァルはガウラに一礼をし、その場を去って行った。
それをボーッと見つめるガウラ。
すると、ポケットに入れていたトームストーンの振動に我に返った。
画面を確認すると、それは弟のヘリオからの着信だった。
「もしもし。あぁ、今から帰るよ」
手身近に返事をし、帰り支度を始めたのだった。
***************
「ただいまー」
「おかえり、姉s……その髪どうした?」
テレビを見ていたヘリオが顔を向けると、帰ってきた姉が出かけた時と違う髪型になってるのに驚く。
「あー、ちょっと色々あってね」
そう言って荷物を置いた時、鞄から1枚の小さな紙がヘリオの近くに落ちた。
「何か落ちたぞ」
それを拾い上げた彼は再び驚く。
いや、先程よりもかなり驚きは大きかった。
「姉さん!これ、今話題になってる女社長の名刺じゃないか!?」
「おや、ヘリオは知ってるのかい?」
「知ってるも何も、今テレビで見ない日は無いほどの有名人だぞ!」
「へぇ~、そうなのか…最近テレビを見る暇がなかったからなぁ」
「今から、その女社長の1日密着取材が始まるから、見てみろ」
そう促され、久しぶりにテレビの前に座る。
そこに映し出されたのは、確かに今日出会った女性だった。
取材の中でも、新作とモデルの話をしていた。
(モデルが見つからないと、お蔵入り……か)
お蔵入りと言った時のヴァルの顔は、困ったように笑ってはいたが、瞳は悲しさを纏わせていた。
(でも、私にモデルなんて……)
協力したい気持ちと、モデルが出来るかの不安で心が揺れる。
そんな様子のガウラに、ヘリオは口を開いた。
「何を悩んでるんだ?」
「え。あぁ、実はな」
今日の名刺を貰った経緯を話すと、ヘリオも考え込んだ。
「姉さんがモデル…」
「な?ガラじゃないだろ?」
「……だが、ヴァル社長は、姉さんが新作のイメージに合ってると言ったんだよな?」
「そうなんだよ。本当に困ってるみたいだし、思い入れのある物みたいだから協力してやりたいとは思うけど、正直モデルなんて出来るかどうか…」
2人して同じ表情をしながら考え込む。
「返事は来月まで待つと言われたんだろ?なら、じっくり考えてみたらどうだ?」
「んー、そうだね。相手もそう言ってたし」
そう言って、ガウラは自室へと向かった。
***************
「あ!姉さん!こっちです!」
駅でアリスは目的の人物を見つけ、手を振る。
そこには、普段着ないストリートスタイルの服にキャップ帽を被り、サングラスを掛けたヴァルの姿があった。
「久しいな、アリス。変わりないみたいだな」
「姉さんも変わりないみたいで良かったです」
軽く挨拶を交わし、病院に向かう為に花屋へと移動し始める。
「最近、忙しいみたいですね」
「あぁ。テレビや雑誌の取材が多くてな。まぁ、新作のモデルが見つからないから、その時間を作れてる感じだな」
「父さんが、姉さんのイメージと合わないって言ってましたけど、どんなテーマで作ったんです?」
「…一言で言えば、あたいには無いもの、だな」
「姉さんに無いもの……?」
聞いては見たものの、アリスにはイメージがわかず首を傾げた。
「一応、月曜にイメージにピッタリな子は見つけたんだけどな」
「え!良かったじゃないですか!」
「でも、一般人だからな。引き受けてくれるか分からない。その子はテレビや雑誌を見ないみたいでな。あたいのことを知らなかった」
「へぇ~、そうなんですね」
「あーぁ。お前が昔の様に可愛いままなら、お前を起用しても良かったんだけどな?」
意地悪な笑みを浮かべながら言ったヴァルの言葉に、アリスの顔は引き攣った。
「勘弁してくださいよ…」
「まったく、ガタイ良くなりやがって…、つまらん」
「つまらんって…、俺は着せ替え人形じゃないですからね?!」
「叔母上にも、可愛いって好評だったんだぞ?」
「知らないですよ!そんなの!!」
アリスがヴァルに苦手意識を持っている原因はこれだった。
幼い頃、可愛いと言う理由で髪の毛を結われ、女の子の服を着せられた事から、今でも彼女と会うと身構えてしまう。
「肩幅のデカさをカバー出来れば、まだいけそうだな?」
それを聞いてアリスの顔が更に引き攣る。
「絶っっっっ対にやりませんから!」
全力で断るアリスに、笑い出すヴァル。
そんなやり取りをしている間に、目的の花屋に着いた。
「ごめんくださーい!」
「アリス、いらっしゃい。そちらは?」
出迎えたヘリオがヴァルに気がつく。
「あぁ、この人はいとこの姉さん」
紹介されて、軽く会釈をする彼女に、ヘリオもまた会釈で返した。
「いつものでいいのか?」
「あぁ、お願い」
そんなやり取りをしている2人を後目に、ヴァルの目は花に釘付けだった。
状態のいい花達。
丁寧に扱われているのが分かる。
そこで、ヴァルは口を開いた。
「1つ聞きたいんだが」
「なんでしょう?」
「ここで花を郵送で頼んでも、花の状態は維持されてくるのだろうか?」
「え?えぇ、まぁ。うちはちょっと独自の栄養剤を使っているので、花の鮮度は良い状態で届けられると思います」
「ふむ……そうか……」
花をジッと見つめ、考え込むヴァル。
「ヘリオ、姉さんはフラワーアートをやってるから、花の鮮度にうるさいんだ」
「そうなのか」
「うん。最近、契約してた花屋の質が落ちたって嘆いてたから」
「なるほどな」
あっという間に花を包み終えたヘリオに、更にヴァルは質問した。
「すまない、もう1つ質問しても?」
「えぇ、どうぞ」
「もし、大型の発注をしたら、どのくらいかかるだろうか?」
「そうですね。花の種類にもよりますけど、旬の花だったら1週間もあれば届けられると思います」
「そうか…。いいかもしれないな…」
そう呟き考え込んでいると、店の奥の居住区から声がした。
「ヘリオー!月曜に貰った名刺、何処にやったか知らないかい?」
そう叫んで顔を出したのは、ヘリオの姉であるガウラだった。
「おや、アリス!久しぶり!」
「お久しぶりです!ガウラさん!」
聞き覚えのある声と名前に、ヴァルは顔を上げる。
そこには、先日声をかけた女性が立っていた。
「ガウラさん!?」
思わず名前を呼び、サングラスとキャップを外すヴァル。
その姿を見た双子は目を丸くした。
「「ヴァル社長?!」」
双子の声が見事にハモる。
ヴァルの突然の行動にアリスも驚いた。
「え?!ヴァル姉さん、ガウラさんと知り合いだったの?!」
「月曜にイメージにピッタリな子を見つけたと言ったろ?それがあの子だ」
「ええっ?!」
アリスは、ヴァルとガウラの顔を交互にみる。
「てか、なんでアリスがヴァル社長と一緒にいるんだい?」
「いとこらしいぞ」
「いとこ?!」
「はい、父方のいとこなんです。世間は狭いですよね。あはは…」
苦笑いするアリス。
唖然とする双子。
それを気にせず、ヴァルはガウラに問いかけた。
「先程、名刺を探しているようだったが、もしかしてモデルの件、引き受けてくれる気になったのだろうか?」
「え?!あー…まぁ。私にモデルが出来るか分からないけど、思い入れがある物がお蔵入りになるのは残念な気がして…」
「なんて優しい心の持ち主なんだ…っ、やはりあたいの目に狂いはなかったっ!!」
そう言って、ヴァルはガウラの元へ歩み寄り、彼女の手を両手で握った。
「引き受けてくれて本当に感謝するっ!1週間…いや2週間後に空いてる日にちはあるだろうか?」
「えっと、確か…」
ヴァルの勢いに押され、タジタジになりながらも予定を教えるガウラ。
それを素早くスケジュール帳にメモしていく。
「なら、この日の午後2時にしよう!あ、一応契約書等も作成しないといけないから、撮影日までに我が社まで来てくれると助かる」
「あ…あぁ、わかりました」
「場所が分かるようにもう一度名刺を渡しておく。撮影も我が社で行う」
「あ、はい。わかりました…」
あっという間に予定を決められ、呆気にとられるガウラ。
それを他所に、今度はヘリオに向かって話し始める。
「ヘリオさん、と言ったか。撮影日の朝8時着で花を注文したい」
「え、あ、はい」
「花の種類は…」
ヴァルは花の種類と色、本数を述べていく。
「用意出来るだろうか?」
「この種類なら、今が咲時なので問題なく用意できます…」
「そうか!なら、それで頼む!あと、今回の注文で花の状態があたいの望むモノなら、定期契約を結びたい。その時は改めて契約書を持ってここに来店させてもらう」
「あ、はい、わかりました…」
ヘリオも勢いに押され、タジタジだ。
そんな彼にも、ヴァルは名刺を渡した。
「届け先はここの住所に。宛名はあたいの名前で良い。料金は今ここで支払う」
「わ、わかりました」
「あと、領収書を頼む。宛名は上様で構わない」
「はい…」
言われるまま作業をするヘリオ。
そして、料金をその場で支払うヴァル。
「ヴァ、ヴァル姉さん、いつもそんな大金持ってるんですか?!」
「カードが使えないところもあるからな。現金もある程度持ち歩くことにしてる」
驚くアリスの質問に、平然と答えるヴァル。
そして、領収書を貰った彼女の顔はアリスすら見たことの無いほど満足気な表情をしていた。
「そうだ!叔母上にあたいからも花を用意しないとな!」
そう言って、ヴァルはいくつか花を選ぶ。
出来上がった花束を見て彼女は満足気に言った。
「うん。花束のバランスも素晴らしいな」
「あ、ありがとうございます」
褒められたことに、ヘリオは戸惑いながらも礼を言う。
ヴァルは花束の代金を支払うと、帽子とサングラスを着用した。
「そ、それじゃあヘリオ、ガウラさん。また来週来ます」
「「あ、あぁ」」
「今日は急な話に対応してくれて感謝する。ガウラさん、また我が社で会おう」
そう言葉を交わし、2人は病院へと向かった。
その後ろ姿を呆然と見送る双子。
「なんか…嵐の様だったな…」
「あぁ…そうだな…」
その双子の表情は、ドッと疲れた顔をしていた。
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