番外編.彼岸花

異国情緒溢れるひんがしの国。

そこに、白いミコッテの女性が物思いに耽りながら歩いていた。

彼女の名はガウラ·リガン。

冒険者でありながら、世界を救った英雄である。

彼女は今、気ままな一人旅をしていた。

今回の旅は、久しぶりに長期間。

宛もなく、ふらっと思いついた場所を転々としていたら、あっという間に月日が経っていた。

その間も、朝と夜に、自宅に居るパートナーに生存報告がてら、短いメッセージのやり取りはしていた。


「もう、3ヶ月も経ったのか…、なんか時間が経つのが早いな」


そう1人呟いた。

そして、エタバンをしてから、パートナーとこんなに長期間離れた事はなかったことに気が付く。

今まで、離れる期間があっても、長くて1ヶ月程度だった。


「寂しがってるかな、ヴァルのやつ」


ふと、パートナーの事を考え出した。

メッセージのやり取りの時以外は、旅に夢中で考える事は無かったのだが、ひんがしの国に来てからは、やたらとヴァルを思い出すようになっていた。

おそらく、それはヴァルの言葉遣いがこちらの国に近い事と、元々のジョブが忍者だった事が大きいのかもしれない。

そのせいか、ここに来てからは、あまり旅に集中出来ていない事が多かった。


そんな時、視界の端に鮮やかな朱色が飛び込んでくる。

なんだと思い、目を向けると、そこにはリコリスの花が咲いていた。


「へぇ、ここにもリコリスが咲くんだ」


近くに寄り、花を眺めていると、ふと声をかけられた。


「おや、その花が珍しいのかい?」


そこには1人の老婆が立っていた。


「あ、いえ。この国にもリコリスが咲くんだなって思って」

「リコリス?ひょっとして、あんた、えおるぜあの人かい?」

「はい、そうです」

「えおるぜあでは、リコリスと言う名前なんだねぇ」

「こっちでは名前、違うんですか?」


問いかけると、老婆は頷いた。


「こっちでは彼岸花と呼ばれているんだよ」

「ヒガンバナ…」

「この花には毒があるから、墓地のお供え物を荒らされない為に植えられたりすることが多くてね、あんまり良いイメージが無い花だけど、花言葉はまったく違うんだよ」

「へぇ、どんな花言葉なんですか?」


ガウラが尋ねると、老婆は遠くを見つめて答えた。


「“あなたに逢いたい”。まぁ、故人に逢いたいと思う事があるから、墓地に合う花言葉でもあるねぇ」

「……あなたに、逢いたい……」


それを聞いたガウラは、腑に落ちた。

この国に来てから、やたらヴァルの事を思い出し、旅に集中出来なかった本当の理由。

気付いた途端に、急に胸が苦しくなった。


「おばあさん、ありがとうございます。私、そろそろ行かなきゃ」

「いえいえ、こんな年寄りの話を聞いてくれてありがとね。大事な人によろしくね」

「え?!」

「ふふふっ、今から大事な人のところに行くんだろ?」

「……何故、わかったんです?」

「その花を見てたあんたの姿が、寂しそうに見えたからねぇ」


自分さえ気づかなかった気持ちを、老婆が気づいていたことに恥ずかしくなり、赤面する。


「さぁ、早く行きなさい。きっと、大事な人もあんたの帰りを待ってるよ」


老婆の言葉に、ガウラは「はい!」と返事をし、お辞儀をして走り去った。


(そっか。私は、ヴァルに逢いたかったんだ)


気づいてしまえば、気持ちは抑えられない。

早る気持ちに突き動かされ、急いで帰路についたのだった。




とある冒険者の手記

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