Another 有り得たかもしれない話


その日は、エオルゼア全土が大荒れの天気だった。
全ての都市で厳戒態勢が敷かれ、緊急事態でない限り外出を禁止されるほどだった。
俺は、数年前にエタバンをしてお嫁に行ったリリンちゃんを心配しながらも、マイハウスのリビングで、パートナーのヘリオと他愛のない会話をしていた。

「こんな大荒れの天気、初めてだな」
「あぁ、なんでも約50年振りらしいぞ。エオルゼア全土での大荒れの天気は」

言って、お互いにミルクティーを一口。
時折、雨戸が強風でガタガタ音を立てる。
そんな時だった。
急にヘリオが胸元を抑え、青ざめた表情をしたのは。

「ヘリオ?!」

思わず立ち上がり、ヘリオの元へ駆け寄る。

「大丈夫かっ?!」

ヘリオは俺に申し訳なさそうな顔を一瞬向け、部屋を出ていこうとした。
咄嗟に俺は、腕を掴んでそれを止めた。

「…ひょっとして、ガウラさんに何かあったのか?」

黙って頷くヘリオに、俺はついにその時が来てしまったのだと…
来て欲しくない瞬間が来てしまったのだと確信した。
そう、別れの時が来たのだと……

「急ごう、ヘリオ。テレポと都市内エーテライトを使えば早く着くはずだ」
「アリス…、すまない」

俺達は、ガウラさん宅に急いだ。
家に着くと、ヴァルさんが険しい顔をして出迎え、状況を説明してくれた。
ガウラさんがいる部屋へ案内されて入ると、生気を失いかけたガウラさんがベッドに横たわっていた。
エーテルを見ると、消えかけの火の様なエーテルしか残っていない。
これは、一刻を争う。
そう思った瞬間、ヘリオは俺の方に向き直り、俺の手を取り、何かを置いた。
手のひらを見ると、そこにはヘリオのエターナルリング。

「っ……ヘリオっ…」
「アリス」

ヘリオはまっすぐ俺を見つめた。

「今までありがとう」

それは、今までに見たことの無いほど美しく、そして、最も悲しい笑顔だった。
ヘリオはガウラさんに向き直り、手をかざす。
ヘリオの手から出た光の帯が、ガウラさんの身体へと流れていく。

そして、ヘリオの姿はどんどんと透明になって行き─

消えた─

ガウラさんを見ると、徐々に顔に赤みを帯び、生気を取り戻していた。
それを確認した俺は、そっと部屋を後にし、階段に座り込んだ。
覚悟していたこととはいえ、気持ちがついて行かなかった。

「アリス」

背後からヴァルさんの声がする。

「正直、お前らの覚悟を見くびっていたよ。二度と会うことは出来ないのに躊躇なくことを実行するなんてな…」

二度と会うことは出来ないの言葉に、涙が溢れた。

「好きだから、望んだことは叶えてあげたいって、邪魔はしたくないって思ってたからです…」
「それが自分が嫌なことでもか?」

俺は黙って頷いた。
だって、俺と出会う前から、ヘリオはそれが目的だったんだと分かっていたから。
それを後から出会ってしまった俺が邪魔をしてはいけないと、分かっていたから。
腕で乱暴に涙を拭い、俺は立ち上がった。

「ヴァルさん、ガウラさんの事、頼みます」
「言われなくても」

そう言って、俺は帰宅した。
ほんの少し前まで、一緒にいたリビング。
ミルクティーが残されたティーカップを片付け、フラフラと寝室へと向かう。
思考が停止したまま、何気なくヘリオが使っていた棚の引き出しを開けると、そこには手紙が一通入っていた。
少し埃が被っている所をみると、前からそこにあった物のようだった。
なんだろう?
その手紙を手に取り少し埃を払うと、「アリスへ」の文字が…
封筒を開け、手紙を読む。
そこには、どうしてヘリオの存在が出来たのかが綴られていた。
そして、手紙の最後の方に書かれていた言葉に、俺は息が一瞬出来なくなった。

─最後に、俺を愛してくれてありがとう。俺もあんたを愛してたよ─

その一文に、涙で視界が見えなくなる。

「バカ…、その言葉、ヘリオの口から直接聞きたかったよ…」

俺は声を上げて泣いた。
叫びながら
嗚咽しながら
みっともないぐらい、大声で泣きつづけた。


*********


1人の冒険者が姿を消した。
その冒険者の住んでいた家は引き払われ、冒険者登録も解除されていた。
その人物にゆかりのある女性に、「長い旅に出るから会えなくなる」と言う手紙が届き、それを最後に、その冒険者は消息不明になった。

それから数年が経った。

エーテルを取り戻した光の戦士は、相変わらず戦いに身を投じていた。
激しさを増す戦い。
その戦いの中で、時折感じる視線があった。
気にはなったが、それを探る余裕が無いほどの激戦に巻き込まれ、戦いが終わる頃にはその視線は無くなっていた。
そんな日が続いたある日。
戦いの最中、彼女を庇い仲間が足を負傷。身動きが取れない所に敵の攻撃が飛んでくる。

「ヴァルっ!!!」

彼女は咄嗟に仲間に覆い被さった。
これから来るであろう衝撃を覚悟した。
だが、敵の攻撃は彼女達の両脇に分かたれ、地面を破壊した。
何が起こったのかと顔を上げると、そこには暗黒騎士の大剣を構えた、見覚えのある後ろ姿。

「お前は……っ」
「今は俺の事はいいです!早く、ヴァルさんを安全な所へ!」

促され、仲間を支えて立ち上がる。

「死ぬなよ?お前には聞きたいことが山ほどある」
「わかってます」

その言葉に、彼女は仲間を連れて後退する。
それを追おうとする敵に、暗黒騎士は遠距離攻撃を放った。

「お前達の相手は俺だっ!」

敵は一斉に暗黒騎士に攻撃を仕掛ける。
暗黒騎士は力を最大に解放し、敵を殲滅していく。
彼の暗黒の源は、「悲しみ」と「悔しさ」。
敵を倒しながら、鋭いその目からは血の涙が流れる。
そして、仲間を置いて彼女が戻ってきた時には、戦いは終わっていた。
彼女は暗黒騎士にゆっくりと歩み寄る。

「……アリス」

名前を呼ばれて振り向く暗黒騎士。
暗黒騎士は、数年前に消息不明になった冒険者。
その顔は、彼女が最後に記憶してる顔より、傷だらけで目付きも鋭くなっていた。

「お久しぶりですね。ガウラさん。いや、ヘラさんと呼んだ方がいいですか?」

その言葉に驚いた表情をするガウラ。

「いや…、ガウラでいい」
「そうですか、で、俺に聞きたいことがあるんですよね?」

アリスの言葉に、ガウラはキッとアリスを睨みつけた。

「お前っ、今まで何処にいたんだ!?急にいなくなって!リリンにはあんな手紙送って!どれだけ周りが心配したのか分かってるのか?!」

捲し立てるように怒るガウラに、アリスはフッと微笑みながら答えた。

「ずっと、傍にいましたよ。ずっと、貴方を見守ってました」
「!?じゃあ、時々感じてたあの視線は…」
「はい、俺の本職、知ってるでしょう?」
「なんでそんな、まどろっこしいことを…」
「ガウラさんが、気を使うと思ったからです」

ガウラはハッとする。

「そ、そんなの私の勝手だろう?お前は気にしなきゃいい」
「そうは行きませんよ」
「見守るなら、隠れてようが一緒にいようが変わらないだろ?!」
「…ガウラさん」

次の瞬間、ガウラはアリスに抱きしめられていた。
突然の事に呆然とするガウラ。

「ヘリオは貴方の中で生きてる。それなのに、俺がガウラさんの傍にいたら貴方に何をするか分かりません…それとも」

アリスは身体を離し、ガウラの頬に手を添える。

「俺と、男女の関係になりたいですか?」

その言葉に我に帰ったガウラは、アリスの手を払い除け、冷ややかな目線を送る。
すると、アリスは笑いだした。

「冗談ですよ」
「お前…私をからかうとは、いい度胸だな?」
「あはは!すみません!でも、半分は本気です」

まっすぐガウラの大きな瞳を見つめる。

「だから、一緒には居られない。これまで通り、影でガウラさん達を見守ってます」

アリスはそう言い残すと、忍者にジョブチェンジをし、姿を消した。

「……何が半分は本気、だ。お前は今でも、アイツ一筋の癖に…」

彼女は見逃さなかった。
アリスの首からかけられたネックレスの先には、2つのエターナルリングが光っていたのを─


とある冒険者の手記

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