Another 白蝶草ー嫉妬と本音ー
アリスとガウラが恋人同士になり、半年が経った。
その間に、アリスのガウラの呼び方が呼び捨てになり、言葉遣いも敬語が無くなった。
これに関しては、いつまで経ってもさん付けと敬語が抜けないアリスに対し、ガウラが他人行儀に感じると苦言を示したのがきっかけだった。
さらに、2人が恋人になって起こった変化はそれだけではなく、気を使ったのかヘリオが姉のFCハウスに個室を作り、居住をそちらに移した。
それを期に、宿生活だったアリスをガウラが家に招き入れ、同棲をする形になった。
ひとつ屋根の下での生活が慣れ始めた頃だった。
その日、ガウラとアリスは別行動。
ガウラは弟のヘリオと共にギルドの依頼、アリスはカーラインカフェのアルバイトの助っ人をしていた。
お昼時、たまたまグリダニアに依頼の関係で来ていたガウラとヘリオは、昼食がてらアリスの様子を見に来た。
すると、カーラインカフェは女性客でごった返していた。
いつもと違うカフェの雰囲気に、目を丸くする双子。
その中を忙しなく注文に料理運びにと走り回るアリスの姿があった。
カフェの入口に突っ立っている人の気配を感じたのか、満面の笑顔で入口に向かって「いらっしゃいませ!」と振り向いたアリス。
2人が誰か理解した途端、驚いた表情になる。
「ガウラにヘリオさん?!」
2人に駆け寄るアリス。
「今日はウルダハの方で依頼を受けてるんじゃなかったっけ?」
「あぁ、そうなんだけどね。依頼をこなす過程で、こっちにも用があったのさ」
「なるほど、それでついでに昼もって感じか」
「そういう事だ」
「直ぐに席開けるから待ってて」
「あいよ」
そう言うと、アリスは素早い動きで1テーブルを片付け、2人を案内し店員らしく対応して次の席へと走っていく。
「あいつ、素早さ生かすために忍者使ってるな」
「この混み具合だと、その方が効率はいいんだろうな」
ガウラの言葉にヘリオが興味無さそうに答える。
その後注文をし、料理を待っている間、ガウラの耳には周りの女性たちのアリスに対する話が嫌でも聞こえてくる。
どうやら、アリスは女性達に人気があるようだった。
忙しなく動いているアリスに目をやり、確かに悪い見た目では無いし、お人好しなぐらい優しいし、お節介な性格してるよなぁと漠然と思った。
昼食を終え、会計時にアリスに声をかけられる。
「ガウラ、今日は何時ぐらいに帰ってこれそう?」
「んー、夕方ぐらいには戻ってこれるんじゃないかな」
「俺もそのぐらいに終わるから、店の前で待ち合わせして一緒に帰ろう」
「分かった」
そう約束して、ガウラはヘリオと共に依頼へと戻って行ったのだった。
**********
夕刻。ガウラがカーラインカフェに向かうと、入口に人だかりが出来ていた。
中心にいるのはアリスで、周りにいるのは女性達。
アリスは困った表情をしていた。
「あの!これから私と夕飯ご一緒しませんか!」
「いや!私と一緒に!」
どうやら、仕事終わりに女性達からお誘いを受けているようだった。
「いや、俺恋人を待ってるんだ。だから、ごめんね」
アリスは困った笑顔をしながら断っているが、女性達は引かない。
押し問答をしている状態が続いているのを見て、ガウラの中にフツフツと苛立ちが込み上げてくる。
ハッキリ断っている相手にしつこく言いよる事もそうだが、何より恋人がいると言っているのに引かないのが許せなかった。
「アリス!」
「あ!ガウラ!!」
女性達を押しのけて、彼女の元へと嬉しそうに駆け寄ってくる。
女性達はアリスとガウラに注目していた。
すると、ガウラはアリスの胸倉を掴み、勢いよく自分に引き寄せる。
突然のことに対応できず、アリスはその勢いのまま前かがみになった。
それを逃さず、ガウラはアリスの口にキスをした。
目を見開き、驚くアリス。
呆然とする女性達。
唇が離れると、ガウラは女性達を一瞬だけ睨みつけ、すぐさまアリスの手首を掴んだ。
「行くぞ」
「えっ…あ、あぁ…」
状況が整理出来ないままのアリスは、引っ張られるまま歩き出す。
その2人をただ見送る女性達。
「…カッコイイ………」
女性達の中の誰かがそう呟いたのが、背中から微かに聞こえた。
**********
ラベンダーベッドの入口から自宅へと向かっている2人。
変わらず手首を掴まれたまま歩いているアリスの顔は、だらしなくニヤケていた。
移動中で先程の状況を理解出来たアリス。
その時からずっとニヤけが止まらなかった。
その気配に気がついたのか、ガウラが足を止め、手を離し、彼に振り返る。
「何をニヤついてるんだい」
「いや、まさかガウラがキスしてくれるとは思わなくて」
ニヤけたまま、アリスは答える。
「だって、いつも俺からで、ガウラからしてくれることないから嬉しくて」
アリスがそういうと、ガウラは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「それはお前の背がデカイから、したくても出来ないんだよっ!!」
「え?!」
予想外の発言に驚く。
「そ、それって…」
「届かねーんだよ!バカ!!」
意外な真実を知り、再び顔がニヤけるアリス。
ガウラは怒った顔のまま、踵を返し「行くぞ!」と乱暴に言い放った。
そして、自宅に着き、室内に入った瞬間、アリスはガウラを抱き上げた。
「なっ!?」
抱き上げられたことにより、アリスを見下ろす形になるガウラ。
すると、アリスは満面の笑みで言った。
「ガウラ、ただいま!」
「っ!!」
自宅に向かってる途中の会話を思い出し、アリスが何故このような行動を取ったのか察したガウラは、再び顔を赤くする。
笑みを崩さずガウラを見つめるアリスに、ガウラは観念したのか、両手でアリスの顔を挟み、キスをした。
「……おかえり…」
「へへっ!ガウラもおかえり!」
次はアリスがガウラにキスをする。
満足したアリスは、ガウラを降した。
「ガウラ、先にシャワーどうぞ!俺、夕飯作っとくから」
「…あぁ」
顔を赤くしたまま、ガウラは走早にシャワー室のある2階へと逃げていった。
その様子に、アリスは小さく笑い、夕飯の準備に取り掛かったのだった。
**********
それから数日が経ったある日、ガウラとアリスがグリダニアを歩いていると、前方から大勢の女性達が2人に向かって来た。
何事だと2人で困惑していると、女性達が取り囲んだのはガウラだった。
そして、女性達の第一声に驚いた。
「「「私達とデートしてくださいっ!!」」」
「…………はい?」
驚きのあまりに変な声が出るガウラ。
女性達はガウラを褒めちぎりながらも、デートに誘っている。
どうやら彼女達は、以前の件でガウラのファンになったようだった。
「いや……あの…えっと……」
混乱しているガウラ。
状況を理解したアリスが慌ててガウラを担ぎ上げた。
「なっ?!」
「ガウラは俺の恋人で、今俺とデート中なんだっ!!」
嫉妬丸出しで叫ぶアリス。
女性達からは「心が狭い!」と文句を言われるが、そんな事はフルシカトでアリスはガウラを担いだまま逃走したのだった。
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